超心理学の本を探すと、棚が2つに分かれています。超能力はあるといいきる本と、ぜんぶトリックだと笑う本。
どちらの棚の前でも、「で、信じていいのか」だけが残る。
僕も、そこでとまった。
先に結論を書きます。超心理学の本は、超能力を信じるための本ではなく、1934年からつづく実験と反論の記録です。
なぜ1冊では足りないのか? 記録は、片側だけでは読めないからです。肯定・中立・懐疑の3冊をならべたとき、はじめて見えるものがあります。
順番に書きます。
超心理学の本は、何の記録なのか
百科事典の定義です。超感覚的知覚(ESP)や念力(PK)を研究する、科学の一部門。
そのはじまりとされるのが、1934年に出た1冊の本です。ラインという人が、5種類の図形のカードをあてる実験を、数字までふくめて本にまとめました。
おしまいに、表が1つ。
あたる確率が5分の1のカードで、85,724回。的中は24,364回です。
5で割った偶然の期待値は、17,145回。上ぶれは、表に7,219回とあります。
ほかの条件もあわせると、91,174回になります。
ピアースという人は、17,250回やって、25枚あたり平均8.0枚をあてています。偶然なら5.0枚です。
ここまでは、表に書いてあるとおりです。
ひとつ、気づいたことがあります。
日本の百科事典は、同じ実験を「9万1174試行で、偶然期待値を7319超えた」と書いています。
原本の表で7,219が付いているのは、あたる確率5分の1の85,724回のほうです。91,174回の行に、上ぶれの数字は刷られていません。
そこは、空欄のままです。
だから、7,319とはくらべられない。
どの数字が、どこに付いているのか。それは、表を開かないとわかりません。
超心理学の本を読むとは、数字を自分の目で見ることです。
肯定寄りの1冊 石川幹人『超心理学』
日本語で読める本を、3冊ならべます。
1冊目は、石川幹人さんが2012年に出した『超心理学 封印された超常現象の科学』。385ページあります。
つくりは3部です。第1部が超心理学の実態、第2部が封印する社会とメディア、第3部が封印は破られるか。
出版社の紹介文には、こうあります。超心理学の研究内容や成果を解説するとともに、それらが学問として受けいれられない背景を明らかにし、科学のあるべき姿を問う。
つまり、「ある」と見る側から、なぜ認められないのかを書いた本なんですよね。
第2部に「奇術師たちのアリーナ」という章があるのが、僕には意外でした。肯定側の本が、奇術師に1章をあてている。
そこが、おもしろい。
中立の1冊 笠原敏雄『超心理学読本』
2冊目は、笠原敏雄さんが2000年に出した『超心理学読本』。355ページ、全8章です。
紹介文の一節を、そのままひきます。
そうした超常現象を肯定する人たちも、否定する人たちも、ほとんどが「あるはずだ」とか「ないはずだ」という一種の信仰に基づいて判断を下しているのが、実状である。
肯定も否定も、信仰だといっているのです。
この本は、どちらにも寄りません。
章立ても、同じです。
第1章のESPの研究、第3章の念力、第6章の死後生存とならべたあと、第7章は「〝科学者〟は超心理学をどう見ているか」です。
この人は、1987年に『サイの戦場 超心理学論争全史』を編んでいます。668ページ、論争の文献をあつめた1冊です。
論争そのものを、ずっと見てきた人です。
懐疑の1冊 ワイズマン『超常現象の科学』
3冊目は、リチャード・ワイズマンさんの『超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか』。原著は2011年、日本語版は2012年に出ました。317ページです。
書いたのはイギリスの大学で心理学を教えている教授で、その前は、プロのマジシャンでした。
全7章と、特別付録がひとつ。
章の名前を見ると、どちら側かがわかります。占い師のバケの皮をはぐ。念力のトリック。霊媒師のからくり。幽霊の正体。そして第7章が、予知能力の真偽。
タネのほうから、書いてある。
超常現象は、人の認知の盲点から生まれる。そういう本です。
そして、この人にはもうひとつの顔があります。つぎに書く追試の、当事者なのです。
本の外で、いまも続いている
2011年、コーネル大学のベムが、予知を支持する論文を主流の学術誌に出しました。9つの実験のうち、8つが有意です。
翌2012年、ワイズマンさんをふくむ3人が、そのうちのひとつを事前登録つきで3回、追試しました。合計150人。p値は0.83で、効果は、でていません。
本を書いた人が、そのまま追試の側にいます。
肯定の数字と、否定の数字が、同時にある。
どちらも、消えていない。
1934年の表から2012年の追試まで、記録はまだ閉じていません。
本のさきには、学会誌があります。『超心理学研究』は1996年に始まり、いまは472本がJ-STAGEで読めます。
3冊は、この途中を、それぞれの側から書いたものです。
向きは、ばらばらです。
3冊を並べると、自分の傾きが見える
3冊の題名を見たとき、手に取りたい順番は、もうきまっています。
「封印された」にひかれる人。「なぜ人は幽霊が見えるのか」にひかれる人。
肯定と懐疑、どちらが正しいかは、この記事ではきめません。
ただ、その順番は——本を開くまえに、きまっていた。
笠原さんのことばを借りれば、「あるはずだ」か「ないはずだ」のどちらかが、さきに入っている。判断が、気づかないところでさきにすんでいるのです。
超心理学の本は、超能力を映す鏡ではなく、読み手の傾きを映す鏡です。
肯定の本だけを読めば、傾きは深くなります。懐疑の本だけでも、同じです。
深くなった傾きは、自分では見えません。
くらべるものが、ないからです。
3冊をならべたときだけ、傾きそのものが見える。
今日の話をまとめると
超心理学の本は、信じるための本ではなく、91,174回の試行からはじまった実験と反論の記録です。
日本語なら、肯定寄りの石川さん、中立の笠原さん、懐疑のワイズマンさん。この3冊で、両側のいいぶんがそろいます。
そして、どれをさきに読みたくなるかで、自分の傾きがわかる。
傾きは、読むまえにある。
今夜、3分だけ使ってください。3冊の題名をながめて、いちばん読みたくない1冊をきめる。
それが、あなたの傾きの反対側です。つぎに読む1冊は、そっちになります。
心理学との境目は、超心理学と心理学の違いに書きました。
読むまえに判断をすませている側の心については、潜在意識と顕在意識の違いを読んでください。





