超心理学と心理学の違いとは?160年の実験が残したものと、決着しない理由

超心理学と心理学の違いとは?160年の実験が残したものと、決着しない理由

超心理学が使うゼナーカード。道具は素朴でも、手続きは通常の実験心理学と同じ。
超心理学が使うゼナーカード。道具は素朴でも、手続きは通常の実験心理学と同じ。

超心理学と聞くと、オカルトの一種だと思う人が多いと思います。僕も、そうでした。

調べて、いちばん驚いたのがここです。使っている道具が、心理学とまったく同じでした。

先に結論を書きます。違いは対象であって、方法ではありません

同じやり方、同じ数え方。だから、心理学の最高峰の雑誌に肯定側の論文が載り、同じ号に反論が並ぶ、ということが起きます。

その160年を、順番に見ていきます。

何を扱う学問なのか

扱うのは、大きく2つです。ESP(テレパシー・透視・予知)と、PK、いわゆる念力。

心理学対象は、人の心と行動実験計画・統計・査読主要誌に載る超心理学対象は、ESP(テレパシー・透視・予知)と PK同じ実験計画・同じ統計・同じ査読同じ主要誌に載ることがある心理学対象は、人の心と行動実験計画・統計・査読主要誌に載る超心理学対象は、ESP(テレパシー・透視・予知)と PK同じ実験計画・同じ統計・同じ査読同じ主要誌に載ることがある
違うのは扱う対象だけ。実験計画も統計も査読も、同じものを使っている。

学会の定義は、いまはサバイバル(死後の存続)を足した3つです。割れる理由は、超心理学とはに書きました。

起源は1882年、ロンドンで発足した心霊研究協会にさかのぼります。初代会長は、ケンブリッジ大学の道徳哲学教授でした。

歴代の会長を見ると、位置づけがわかります。ウィリアム・ジェームズ。のちにイギリス首相になる人物。ノーベル賞の受賞者。

周縁の変わり者の集まりでは、なかったんですよね。

大学での組織的な実験は、1930年代のデューク大学から。使ったのはゼナーカードで、5種類×5枚の25枚組。偶然の的中率は20%です。

日本ではどこまで学べるのか

先に、答えを書いておきます。日本の大学に、超心理学の専攻はありません。

大学の専攻無い。ここははっきりしている学会日本超心理学会が実在する査読誌『超心理学研究』1〜17巻・472本をJ-STAGEで公開公開情報年次大会は2012年、月例会は2008年で止まっている
日本で超心理学に触れる道。学位でも講義でもなく、文献のほうにある。

代表的な研究者として名前が挙がるのが、明治大学の石川幹人さんです。2012年に『超心理学 封印された超常現象の科学』を書いています。

ただ、大学の公式な専門分野は認知科学・科学基礎論など。担当科目にも、超心理学は挙がっていません。「明治大学で超心理学が学べる」という言い方をよく見ますが、根拠が見つかりませんでした。

学会のほうは、実在します。日本超心理学会があり、『超心理学研究』という査読誌をJ-STAGEで公開しています。1巻から17巻まで、収録は472本。

ただし、年次大会のページは2012年の第45回が最後。役員名簿も2012年で止まっています。

日本で超心理学に触れる道は、学位でも講義でもなく、文献のほうにあります。

同じ号に、肯定と否定が並んだ

1994年、心理学の主要誌に「psiは存在するか」という論文が載りました。ガンツフェルトという手法で、329セッションのうち106回が的中。的中率32.2%、偶然の期待値は25%です。

329セッション106回、的中32.2%的中率偶然の期待値は25%329セッション106回、的中32.2%的中率偶然の期待値は25%
1994年、心理学の主要誌に載った数字。手続きは懐疑派と共同で決めたガイドラインに沿っている。

しかも手続きは、懐疑派の研究者と共同で作ったガイドラインに沿っています。

同じ号に、その懐疑派の反論が載りました。さらにその隣に、著者の再反論も。

同じ雑誌の同じ号で、3本が並んでいる。これが、この分野の風景です。

1999年、別のチームが30の研究をまとめ直しました。再現できません。そこから「どの研究をデータベースに入れるか」をめぐる応酬が始まります。

2010年に肯定側のメタ分析、2013年に反論、さらに再反論。

決着は、していません。いまも、そのままです。

心理学を変えてしまった1本

いちばん大きな事件が、2011年に起きます。

1976事前登録の原型を、超心理学の学術誌が始める2011最高峰の雑誌に、標準的な手続きの論文が通る2012事前登録つきの追試3回。合計150名、すべて失敗2015心理学の再現性が実際に測られ、事前登録が広まる1976事前登録の原型を、超心理学の学術誌が始める2011最高峰の雑誌に、標準的な手続きの論文が通る2012事前登録つきの追試3回。合計150名、すべて失2015心理学の再現性が実際に測られ、事前登録が広まる
疑われたのは超能力ではなく、標準的な手続きのほうだった。

コーネル大学の著名な社会心理学者が、9つの実験を報告しました。回答したあとにランダムに決まる刺激が、その回答自体に影響していた、という内容です。

平均の効果量は0.22で、9本中8本が有意。掲載されたのは、社会心理学の最高峰の雑誌のひとつでした。

ここが、衝撃の本体でした。トンデモが紛れ込んだのでは、ありません。当時の標準的な手続きに従った論文が、標準的な審査を通った。

翌年、事前登録つきの追試が3回行われました。合計150名、統合したp値は0.83。3回とも失敗です。

疑われたのは超能力ではなく、標準的な手続きのほうでした。あの手続きを守れば「ありえないはずの結論」でも有意になってしまうなら、壊れているのは手続きだ——そういう筋です。

そこから起きたことが2つあります。2015年に心理学の再現性が実際に測られたこと。そして、データを取る前に仮説と解析計画を投稿して審査を通す、事前登録という制度が広まったことです。

超心理学は、心理学が自分自身を疑うための試薬として働いたんですよね。

心理学を立て直した、その事前登録という仕組み。原型を最初に始めたのは、1976年の超心理学の学術誌でした。1992年までの17年間、通常の論文と並べて掲載しています。

周縁の分野が、37年先に始めていた。

なぜ決着しないのか

まず、効果量が一貫して小さい。ノイズの床すれすれです。

効果量が小さいノイズの床すれすれの大きさメタ分析の限界小さな実効果と、出版バイアスの効果を区別できない減衰効果追試を重ねるほど効果が縮む。心理学と医学全体の問題作用機序が無い候補が、誰からも提出されていない
決着しない理由は、いくつも重なっている。いちばん下がいちばん重い。

次に、メタ分析には原理的な限界があります。小さな実効果と、出版バイアスが生む小さな効果を、区別できない。念力の研究380本をまとめた2006年のメタ分析は、出版バイアスで説明できると結論しました。

そして、追試を重ねるほど効果が縮む減衰効果。超心理学だけの話ではなく、2011年にネイチャーで心理学と医学全体の問題として論じられています。

最後が、いちばん重い。どうしてそうなるのかの見当が、誰からも出ていません。

1988年、米国科学アカデミーの報告は結論を出しています。130年の研究に、超心理現象の存在を支持する科学的正当化は見出せない。

争点は、データではなくなっている

2018年、心理学の最高峰の学会誌に肯定側のレビューが載りました。証拠は積み上がっており、よくある批判では簡単に説明できない。psiの証拠は、心理学や他分野で確立した現象と同程度である、という主張です。

2018年・肯定側のレビュー証拠は積み上がっている研究の質・不正・選択的報告では説明できない確立した現象と同程度の証拠2020年・反論主張は、真ではありえないデータに存在的な価値はないつまり、データを見る前に結論が決まっている2018年・肯定側のレビュー証拠は積み上がっている研究の質・不正・選択的報告では説明できな確立した現象と同程度の証拠2020年・反論主張は、真ではありえないデータに存在的な価値はないつまり、データを見る前に結論が決まってい
同じ雑誌に2年差で載った2本。片方だけを引くと、風景が見えなくなる。

その2年後、同じ雑誌に反論が載りました。

書き出しが強烈です。超心理学者の主張は、真ではありえない。古典的な言い回しを使えば、豚は飛べない。したがって飛べると示唆するデータは、必然的に欠陥がある。

データを見る前に、結論が決まっている。

争点は、もうデータではありません。データをどう扱うかの、前もっての構えのほうにある。

同じp値でも、扱いが変わる。理由は「特異な主張には特異な証拠が要る」という基準です。この言葉は、懐疑派組織の共同創設者が1978年ごろに書いた表現が原型でした。

今日の話をまとめると

超心理学と心理学の違いは、対象であって方法ではありません。

方法が違う、ではない同じ実験計画、同じ統計、同じ査読誌の同じ号違うのは、対象だけESPとPK。そして、この論争は心理学に事前登録という制度を返した方法が違う、ではない同じ実験計画、同じ統計、同じ査読誌の同じ違うのは、対象だけESPとPK。そして、この論争は心理学に事前登録という制度を返した
この記事の答え。違うのは対象で、方法ではない。

同じ道具を使い、同じデータを見て、160年間、正反対の結論に至り続けています。決着していないという事実そのものが、いちばん正確な要約です。

そして、この論争は心理学に、事前登録という制度を返しました。ここは、はっきりした収穫です。

今夜、3分だけ使ってください。「怪しい」と思って調べずに置いてある話を、ひとつだけ選んで、一次資料があるかどうかだけ検索する。

信じるかどうかは、そのあとです。この順番をもっているだけで、情報の受け取り方が変わるんですよね。

同じ手つきで引き寄せを見たいなら、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかを読んでみてください。

出典・参考文献

  1. Bem DJ, Honorton C. Does psi exist? Replicable evidence for an anomalous process of information transfer. Psychological Bulletin 1994;115(1):4-18.
  2. Hyman R. Anomaly or artifact? Comments on Bem and Honorton. Psychological Bulletin 1994;115(1):19-24.
  3. Milton J, Wiseman R. Does psi exist? Lack of replication of an anomalous process of information transfer. Psychological Bulletin 1999;125(4):387-391.
  4. Bem DJ. Feeling the future. Journal of Personality and Social Psychology 2011;100(3):407-425.
  5. Ritchie SJ, Wiseman R, French CC. Failing the future. PLOS ONE 2012;7(3):e33423.
  6. Cardeña E. The experimental evidence for parapsychological phenomena: A review. American Psychologist 2018;73(5):663-677.
  7. Reber AS, Alcock JE. Searching for the impossible: Parapsychology's elusive quest. American Psychologist 2020;75(3):391-399.
  8. Druckman D, Swets JA (eds). Enhancing Human Performance. National Academy Press, 1988.
  9. Bösch H, Steinkamp F, Boller E. Examining psychokinesis. Psychological Bulletin 2006;132(4):497-523.
  10. Open Science Collaboration. Estimating the reproducibility of psychological science. Science 2015;349(6251):aac4716.
  11. Schooler J. Unpublished results hide the decline effect. Nature 2011;470:437.
  12. Wiseman R, Watt C, Kornbrot D. Registered reports: an early example and analysis. PeerJ 2019;7:e6232.
  13. Chambers CD, Tzavella L. The past, present and future of Registered Reports. Nature Human Behaviour 2022;6:29-42.
  14. 日本超心理学会(学会公式サイト・大会/役員情報)
  15. 超心理学研究(日本超心理学会 学会誌・J-STAGE 収録)
  16. 石川幹人(明治大学 情報コミュニケーション研究科 教授)研究者紹介

肯定側と否定側を、同じ基準で並べています。どちらかに寄せた資料の選び方はしていません。

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