腕を組んでみてください、という診断を見たことがあると思います。どちらの腕が上かで、右脳型か左脳型かがわかる、というやつです。
僕も、昔はそれを信じていました。
先に結論を書きます。人を右脳型・左脳型に分ける根拠は、見つかっていません。
2013年に1,011人分の脳を調べた研究が、そのタイプ分けを否定しています。
ただし、否定されたのはタイプ論のほうです。左右差そのものは、実在します。
どこまでが本当で、どこからが作り話なのか。数字で並べます。
信じているのは、あなただけではない
2017年にアメリカで、一般の人3,045名・教育者598名・神経科学に多く触れてきた層234名に、脳の通説の正誤を答えてもらった調査があります。
「右脳型の人と左脳型の人がいて、それが学習の差を説明する」の誤答率が、こうでした。
- 一般の人 64%
- 教育者 49%
- 神経科学に多く触れた層でも 32%
日本でも同じです。心理学系の学生30名は、講義でこの俗説を否定したあとでも、なお約65%が信じたままでした。
知識を足しても、消えない。しぶといんですよね。だから、信じていたことは恥ではないです。
1,011人の脳を、7,266区画に割って調べた
2013年、7歳から29歳までの1,011人分の安静時の脳画像を調べた研究があります。灰白質を5ミリ刻みで7,266の区画に分け、その総当たりのペアで左右差を測ったものです。
出たのは、2つです。
ひとつ。左優位のハブが9個、右優位のハブが11個、ちゃんと見つかった。
左には言語、右には注意を制御する領域が入っています。左右差は、あります。ここは、本当です。
ふたつ。ただし、それは局所的な性質でした。
論文の結論はこうです。左右差は脳ネットワークの局所的な性質であって全体の性質ではなく、「より左脳型」「より右脳型」という全脳レベルの型とは一致しない。
つまり、部品ごとの偏りはある。でも、人ごとの偏りはない。
OECDも2007年の報告書で結論を出しています。創造性と右半球の活動に相関があるという科学的証拠は、実際のところない。そのうえで、優位半球で人を分類することを、科学的に極めて疑わしく、社会的に危険でありうると書いています。
では、何が本当に偏っているのか
実際に偏っているものを、4つ並べます。
① 言語は、左に寄る。
健常者326名を直接測った研究があります。右半球が言語で優位だったのは、強い右利きで4%、両利きで15%、強い左利きで27%。
裏返すと、左半球優位は96%・85%・73%。
左利きだから右脳型、ではないんですよね。左利きでも4人に3人は、言語については左半球優位です。
② 空間の把握は、右に寄る。
右半球の脳卒中のあと、およそ半数に半側空間無視が出ます。左側にあるものを、見落とすようになる症状です。
③ 顔の認識も、右に寄る。
④ 感情のこもった話し方の聞き取りも、右寄り。
ただし④には、ただし書きがあります。メタ分析の結論は「両半球が支配していて、右半球は相対的に特化している」でした。
この「相対的に」の一語が、本物の左右差とタイプ論を分ける線です。
| タイプ論(否定されている) | 実際の左右差(確認されている) | |
|---|---|---|
| 何の性質か | 人の性質 | 脳の部位の性質 |
| 分け方 | 右脳型の人/左脳型の人 | 言語は左寄り、空間は右寄り |
| どちらかだけ働くか | 片方だけ使う | 常に両方が一緒に働く |
| 個人差は | タイプの差 | つながり方の差 |
通説は、どこから来たのか
起点は分離脳の研究です。てんかんの治療で脳梁を切った患者を調べたもので、1981年にノーベル賞を受けています。
ここでわかったのは、脳梁が何をしているか。性格の型では、ありません。
広まりはじめたのは1972年の本からです。西洋人は主に左半球を使い、東洋人は右半球を使う、という主張が置かれました。OECDはこれを、既存の科学的知見の誤読と歪曲の累積である、と評価しています。
いまも「右脳を鍛える」を掲げる教材があります。僕はこれを詐欺とは書きません。効果がないことを示した研究も、見つからないからです。
言えるのは、この型の主張を支持する査読論文が見つからない、というところまで。
腕組みで診断する話も同じで、根拠になる査読済み研究は確認できませんでした。
左右差の正体は「つながり方」だった
同じ2013年に、右利きの男性62名の脳を、分離と統合という2つの指標で測った研究が出ています。
わかったのは、左半球は自分自身とより排他的につながる、ということ。一方、右半球の視空間・注意の領域は、両半球と統合的につながる。
そして決定的なのが次です。この左右差の程度が、言語能力と視空間能力を実際に予測しました。
個人差は、あるんですよね。ただ、中身がちがう。それは「どっちを使っているか」の差ではない。「どうつながっているか」の差です。
能力は半球の持ち物ではなく、ネットワークの持ち物だった——ここが、この20年で入れ替わった一番大きいところです。
今日の話をまとめると
右脳と左脳に、違いはあります。言語は左寄り、空間と顔と抑揚は右寄り。
でも、人を右脳型・左脳型に分ける根拠は見つかっていません。1,011人の脳を調べても、そういう型は出てきませんでした。
だから「自分は右脳型だから論理が苦手」という説明は、根拠を失いました。逆に言えば、型のせいにしなくてよくなったということです。
今夜、3分だけ使ってください。「自分は◯◯型だから」と言って避けてきたことを、ひとつだけ書き出す。
やるかどうかは、明日でいいです。
脳の話を「潜在意識」の側から見たいなら、潜在意識と顕在意識の違いを先に読むと言葉が揃います。





