毎朝、かなった場面を思いえがいている人。ノートにも書いた。それでも、現実はなにも動かない。
「願い方が足りない」と言われて、もっとつよく念じてみた人。
僕も、その順番でやっていました。
動きませんでした。
先に結論を書きます。引き寄せがうまくいかないのは、願いが弱いからではなく、望む未来だけを見て、そこへ行く途中にある障害を見ていないからです。
願う力を上げても、ここは直りません。
順番に書きます。
願い方が弱いのではない
2002年に、ひとつの区別が追跡調査でたしかめられています。
「実現しそうだ」と見積もること。これが期待です。
「かなった場面を気持ちよく思いえがく」こと。こちらは空想です。
似ているようで、働きは逆でした。
求職中の卒業生、片思いの学生、試験前の学生、手術を受けた患者。この4つの集団を、長いもので2年まで追いかけています。
期待の高い人ほど、努力も成果も高かった。
空想を気持ちよく味わった人ほど、どちらも低かった。
4つとも、同じ向きです。
引き寄せの本が教えるのは、たいてい空想のほうです。気持ちよく思いえがく人ほど、努力も成果も低かった。
足りなかったのではない。
向きが、逆だった。
気持ちよく思いえがくと、追いかける力がぬける
なぜ空想が成果を下げるのか。
仕組みのほうも、測られています。
2011年の4つの実験で、望む未来を気持ちよく空想させたあと、血圧などの生理指標と行動でエネルギーを測りました。
下がっていました。
未来を疑う空想や、暗い空想、どちらでもない空想とくらべても、気持ちのいい空想だけがエネルギーを落としていた。
しかも、切実な望みほど、落ち方が大きかった。
いちばんかなえたいことを、いちばん気持ちよく思いえがく——それが、いちばん追いかける力のぬけるかたちだったんですよね。
きびしい環境の人でも、同じでした。
低所得の家庭が多く、少数派の生徒が通う職業訓練校。その生徒を追った3つの研究では、年度のはじめに空想が多い生徒ほど、年度の終わりの成績が低かった。
3つのうち2つでは、欠席も多かった。
もとの学力と、実現しそうだという見積もりをそろえても、この差は残っています。
人に話すのも、似た働きをします。
2009年の4つの実験で、「法律家になる」のような自分のあり方にかかわる意図は、人に気づかれたものほど行動に移されにくかった。
1週間の追跡でも、実験室でも同じです。
示された理由は、こうです。
人に知られると「もうその自分になれた」という早すぎる感覚が生まれる。
思いえがいて満足しても、宣言して満足しても、追いかける力は同じようにぬける。
力がぬけるのは、満足した時点です。
未来のあとに、今の障害を見た人だけが動いた
では、思いえがくのをやめればいいのか。
そうでもないんです。順番の話でした。
2013年の3つの研究で、人の考え方を4つに分けています。
- 未来だけに浸る
- 今の現実だけを見る
- 現実を見てから未来を描く
- 未来を描いてから現実を見る
はじめの3つは、どれも同じ結果でした。見込みに関係なく、手当たりしだいに目標を追う。
未来を描いてから今の現実を見た人だけが、見込みの高い目標を追い、低いものからは手を引いていました。
だれに教わらなくても、自然とこの順番で考えている人にも、同じ選び分けが起きていました。
この順番でなにが起きているかも、2009年にしらべられています。
見込みが高い目標には、つよく取り組む気持ちが生まれる。その仲立ちをしていたのが、エネルギーでした。
生理指標で測った研究と、エネルギーを本人に答えてもらい、カメラの前で話す課題で取り組みを測った研究の、両方でたしかめられています。
空想は追いかける力をぬき、障害を見ると追いかける力が戻る。
引き寄せの本には、ここが書かれていません。障害を見ることは「ネガティブ」だとされているからです。
望む未来と自分のあいだに、石がひとつある。障害というのは、その石のことです。
「もし〜になったら、こうする」を1行足す
障害が見えたら、もう1行足します。
「もし〜になったら、こうする」。いつ、どこで、どう動くかを先に決めておくかたちです。
理由は、意図と行動のあいだの穴にあります。2016年の総説によると、意図したことが実際の行動になるのは、およそ半分。
残りの半分は「やるつもりだったのに、やらなかった人」です。
ここが、穴です。
この穴を埋めるかたちとして、2006年に94件の検証をまとめた分析があります。効果の大きさは、中から大。
取りかかること、途中でじゃまされないこと、失敗している道から降りること。どれにも効いていました。
「望む未来 → 今の障害 → もし〜になったら、こうする」。この順番で書かせた実験が、いくつもあります。
高校2年生66人では、30分の書き込み課題を1回やった群が、くらべた群より、練習問題を解いた量が60%以上多くなった。
小学5年生77人の実験は、くらべる相手が「ポジティブに考える」練習でした。それでも、この順番で書いた子どものほうが、成績表と出席と素行がよくなっています。
ここが、いちばんの差です。
ただし、効かなかった試験もあります。
2025年に、イギリスの28の職場・225人を4週間追ったランダム化試験が出ました。
この順番を教わった群と、待ってもらった群で、自分で答えた進み具合に差は出ていません。7段階の尺度で、平均差はマイナス0.19。不安のほうは、上がっていました。
効いた実験の多くは、この手法を作った研究室のものです。
外でやると、こうなることもある。
数字は、そのまま置いておきます。
今日の話をまとめると
引き寄せがうまくいかないのは、願いが弱いからではありません。
気持ちよく思いえがく人ほど、追いかける力がぬける。4つの集団で、職業訓練校の生徒で、血圧で、同じ向きが出ています。
動いたのは、未来を描いたあとに今の障害を見て、「もし〜になったら、こうする」を足した人でした。
30分の書き込み1回で、練習問題の量が、くらべた群より60%以上多い。
外の研究室では効かなかった試験も、1本あります。
それでも、足りなかったのは願う力ではなく、障害を見る1行です。
今夜、3分だけ使ってください。紙に「もし〜になったら、こうする」を1行だけ書く。〜に入るのは、いま望んでいることの、いちばんじゃまになるものです。
願いは、消さなくていいです。となりに、もう見えている石を、ひとつ書き足すだけです。
引き寄せのどこが本物でどこが作り話かは、引き寄せの法則は嘘なのかに分けて書きました。
期待と注意と行動の3つが効くとたしかめられた話と、2002年の追跡の数字は、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかにあります。





