引き寄せの本を読んで、実践して、変わらなかった。それで「引き寄せの法則 嘘」と検索している人。
僕も、そちら側でした。信じたいし、裏切られるのも怖い。
先に結論を書きます。嘘なのは、「法則」と言っているところです。願いが宇宙を経由して届く、という因果は確かめられていません。
ただし、引き寄せを信じた人に起きている変化は、本物です。
そして根拠のほうには、作り話だと判定済みのものが混ざっています。順番に書きます。
「法則」と言っているところが、嘘
2006年の『ザ・シークレット』は、引き寄せを「法則」と呼びました。通信社の2007年の記事によると、当時すでに520万部が印刷され、DVDは200万本売れています。
中身は、「似たものが似たものを引き寄せる」。
ここまでなら、ひとつの考え方です。問題は、例外を認めない形で書かれていることでした。
本には、こうあります。多くの命が失われた歴史上の出来事では、亡くなった人たちの思考の波長が、出来事の波長と一致していた。
僕はここで、「法則」という言葉のほうを問題にします。物理の法則は、例外がひとつ見つかった時点で崩れます。
ところが引き寄せの「法則」は、うまくいけば証拠になり、うまくいかなければ「思いが足りなかった」になる。災害に遭えば——「波長が合っていた」になる。
どんな結果が出ても正しいことになる主張は、法則ではありません。 確かめようが、ないからです。
自己啓発本を研究している心理学者が、同じ記事でこう言っています。この理屈だと、貧しい人は自分の思考でそれを招いたことになる、と。
作り話①「100匹目の猿」
ひとつ目が「100匹目の猿」。ある島で芋を洗う猿が100匹に達した瞬間、海を越えた別の島の猿まで一斉に洗い始めた、という話です。出どころは、1979年のライアル・ワトソンの本でした。
元になった研究は実在します。1965年に日本の霊長類学者が発表した、宮崎県の幸島の観察記録です。
原論文の数字は、こうです。
- 群れの数は1952年に20匹。1962年でも59匹
- 洗い始めたのは1953年9月、1歳半のメスが1匹
- 1962年8月の時点で、2歳以上の49匹中36匹が洗っていた
100匹目の猿は、数のうえで存在しない。群れが100匹に届いたことが、一度もないからです。
広がり方も、一斉ではない。若い猿が覚え、その母親が覚え、生まれた子が母親から覚えた。9年かけて、ゆっくりです。
「一斉に広まった年」とされる1958年に新しく覚えたのは、2匹だけでした。
ワトソン本人が、本の中で「細部は即興で補うしかない」と書いています。「99匹だったとしよう」「火曜日の午前11時だったとしよう」という書き方で。
海を越えた話にも、原論文に別の説明があります。1960年に、芋を洗う1匹のオスが泳いで別の島に渡り、1964年に戻ってきた。猿は、泳ぐんですよね。
1996年には、原論文の著者本人が答えています。通常より速く広がった技能は知らない。他の群れに洗う個体はいるが、群れの中に広がった例は観察されていない。
テレパシーの発想は、西洋から持ち込まれたものだろう、とも。
作り話②「イェール大学の1953年の目標調査」
ふたつ目は、目標の話です。
1953年、イェール大学の卒業生のうち、目標を紙に書いていたのは3%だった。20年後、その3%が残りの97%を合わせたより多くの資産を持っていた。引き寄せの本でも、目標設定の本でも、くり返し引かれてきました。
イェール大学の図書館が、公式に答えを出しています。
1953年卒業生の「目標調査」が実際に行われた事実は、確認されなかった。
図書館は、長年この問い合わせを受けてきました。卒業生の代表にも同級生にも聞き、大学の記録も調べた。痕跡は、ありませんでした。
1991年に成功をテーマにした雑誌が記事にし、その筆者の情報源は、ある講演家の音声テープでした。
筆者がたずねると、講演家の答えはこうです。長年この数字を耳にしてきたが、具体的な出典は持っていない。語り継がれるうちに、事実の形になった。
なぜ「効いた」と感じるのか
根拠が消えたのに、効いたと感じる人がいる。しかも、たくさんいる。
1998年に、確証バイアスについての大きな総説が出ています。定義は、すでに持っている信念に有利な形で、証拠を探したり解釈したりすること。しかも、自分では気づかないまま。
引き寄せに当てはめると、こうなります。
| 起きた | 起きなかった | |
|---|---|---|
| 願った | 「引き寄せた」と数える | 「思いが足りなかった」で消える |
| 願わなかった | 「偶然」で消える | そもそも見ない |
4つのマスのうち、記憶に残るのは左上だけです。残りの3つは、それぞれ別の理由で消えていく。
だから、効いた話だけが積み上がります。嘘をつく気は、まったくないんですよね。数え方のほうが、最初から偏っている。
DVDには、自転車を盗まれるのを心配して太い鎖で縛った男が、結局盗まれる場面があります。心配が引き寄せた、という例として。
でも、心配して縛って盗まれなかった日は、数えられていない。そちらのほうが、たぶんずっと多い。
本物の部分は、どこか
否定して終わりには、しません。
実験で確かめられているものが、3つあります。
期待が体を動かすこと。注意の向け方で、見えるものが変わること。行動を先に決めておくと実行されること。
ここは本物です。
ただし、同じ流れから逆の結果も出ています。明るく思い描くだけだと、体のエネルギーが下がり、行動が減る。2年後の就職や、減量の結果まで悪くなっていました。
効いているのは「引き寄せ」ではなく、願ったあとに変わる注意と行動のほうです。
思い描くだけで止まると、その行動が減る。
法則の部分を落としても、ここは残ります。むしろ落としたほうが、残った部分がよく効くようになる。
今日の話をまとめると
引き寄せの法則は、「法則」と言っているところが嘘です。
どんな結果が出ても正しいことになる主張は、確かめようがない。そして根拠のうち、100匹目の猿とイェールの目標調査は、たどると作り話でした。
猿は59匹しかいなかった。調査は、行われていなかった。
効いたと感じるのは、確証バイアスのせいです。願って起きたことだけが、記憶に残る。
本物なのは、願ったあとに変わる注意と行動のほうです。
今夜、3分だけ使ってください。この1ヶ月で「引き寄せた」と思った出来事を、ひとつ書く。その横に、その前に自分がやった行動を、ひとつ書く。
行動が見つかれば、それが本物の側です。
願いと結果の関係を、効く形まで落としたい人は、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかを読んでください。
「科学的に確かめる」という手つきそのものに興味があれば、超心理学と心理学の違いが近いと思います。





