自分を変えたくて、前向きな言葉を毎朝、鏡の前で唱えている人。
逆に、うまくいっている人を見て「自分は、そういうタイプじゃない」と、先に引いてしまう人。
僕は、後ろのほうでした。現実が動かないことを、そのころは運が悪いと呼んでいました。
先に結論を書きます。セルフイメージとは、自分がどんな人間かについていだいている考えのことです。
この考えが、合わない情報をはじきます。
だから、言葉を唱えるだけでは動きにくいのです。
順番に書きます。
セルフイメージとは何か
大辞泉に「セルフイメージ」の見出しはありません。
かわりに「自己概念」があります。定義は「自分がどんな人間であるかということについていだいている考え」です。
この訳語として読むのが、安全です。
自己啓発でよく見る「セルフイメージ」の出どころは、1960年のアメリカです。
形成外科医のマクスウェル・マルツの『サイコ・サイバネティクス』が、この言葉を広めました。
序文に、こう書いてあります。
セルフイメージは人格と行動の鍵で、変えれば人格と行動が変わる。そして、何ができて何ができないかの境界を決める、と。
辞書とほぼ同じ中身に、マルツは「変えられる」を足したのです。
過去の経験から作られ、合わない情報をはじく
心理学では、自分についての考えを「自己スキーマ」と呼びます。
1977年の研究の定義は、こうです。過去の経験からつくられた枠組みで、自分についての情報の処理を方向づけるもの。
研究では、女子学生を対象に、ある領域でスキーマをもつ人と、もたない人をくらべました。
もつ人は、その領域で自分についての判断が速い。行動の証拠を思い出しやすい。自分の行動を、自信をもって予測できる。
そして、スキーマに反する情報には抵抗しました。
つまり、セルフイメージは、入ってくる情報をふるいにかけていると読めます。
合うものは速く通す。合わないものは、はじく。
「人前が苦手だ」と思っている人が、うまく話せた日を、次の週にはわすれている。記憶力の問題ではないんですよね。
枠に合わない経験が、証拠として残らないだけです。
ただし、これは1本の研究です。対象も、領域もかぎられています。
周りにも、同じ見方を求める
はじくのは、自分の中だけではない。
1987年の論文が「自己確証」という動きをまとめています。
周りの人が期待をあてはめてくるのと同じように、本人も自分の見方を裏づけようと動く。両方がかみ合って、自己像が保たれる。
「自分は頼りない」と思っている人は、そうあつかわれているあいだは落ちついています。
急に頼られると、居心地が悪くなる。
周りが悪いのではなくて、自己像は、周りの反応まで使って自分を保っているのです。
前向きな言葉を唱えても、動かない理由
唱える言葉にも、同じ仕組みが働きます。
2009年に、前向きな言葉の効き目を、調査1件と実験2件で調べた研究があります。
実験では、参加者に「自分は愛される人間だ」という言葉を、くり返してもらいました。
自尊心が低い人は、くり返したあと、気分が悪くなっています。くり返さなかった人より、悪い。
自尊心が高い人には効きました。ただし、効き方はかぎられていた。
前向きな言葉は、いちばん必要としている人に裏目に出る。
理由は、上の仕組みです。
「愛される人間だ」は、自己像に合わない情報としてあつかわれます。だから、はじかれる。自己像がはじくたびに、本人は「愛されていない」と感じた記憶のほうを思い出します。
……言葉は、証拠にならないんですよね。
「21日で変わる」の出どころ
セルフイメージの話には、きまって「21日」が出てきます。
出どころを調べると——同じマルツの序文でした。
手術を受けた人が、新しい顔に慣れるまで約21日かかる。腕や脚を失った人の幻肢が、約21日残る。新しい家が家らしく感じられるまで、3週間ほど。
そんな臨床の見聞から「古い像がとけて、新しい像がかたまるには、最低でも約21日かかる」と書いています。
統計も、実験も、ありません。
本人が書いたのは「最低でも」「そのあいだは判断を保留せよ」までです。
「21日で習慣になる」とは、どこにも書いていません。根拠は、序文の見聞だけです。
伝わるうちに「最低でも」が落ちて、いまの言い方になりました。
では、実際に測るとどうなるのか。
測った人がいます。
2010年に、96人が12週間、毎日同じ場面でひとつの行動をつづけた研究です。
分析に足るデータが出たのは、82人分でした。全員ではありません。
そのうち、自動になっていく曲線が当てはまった人で、上限の95%にとどくまでの日数は18日から254日までひらきました。
1回さぼっても、習慣はほとんどくずれません。
期限は、切らないほうがいいのです。
変えるなら、期限を切らずに証拠を積む
では、変えられないのか。
そうでもありません。
「能力はのばせる」という信念を植えつける取り組みは、2018年の大きな集計では効果が弱いという結果でした。
ここで終わりません。
低所得の生徒や、学業に危うさのある生徒には、介入が効く可能性が残っています。
翌2019年、アメリカの全国代表サンプルで、1時間にみたないオンラインの介入の実験が出ました。
成績の低い生徒の成績が上がり、上級数学を取る生徒がふえています。全国の学校をまとめた数字です。
そのうえで、仲間の規範が介入の内容と合っている学校ほど、差は大きくなりました。
効果が出たのは、そこだけではありません。
ただし、規範は測っただけで、動かしてはいません。
信念を入れるだけでは弱い。入れた信念と、周りの反応が合っているほど、効果は大きく出ます。
自己確証と、同じ形です。
だから、自己像を動かすのは言葉ではありません。経験のほうです。
今日の話をまとめると
セルフイメージとは、自分がどんな人間かについていだいている考えです。
過去の経験からつくられ、合わない情報をはじき、周りの反応まで使って自分を保つ。
だから、前向きな言葉は、必要な人ほど裏目に出ました。「21日」に実測の裏づけはなく、習慣が自動になるまでの日数を測ると、18日から254日までひらいていた。
変わるのは、言葉ではなく、証拠が積まれたときです。
今夜、3分だけ使ってください。今の自分の像に合わない、小さな行動をひとつ決める。「朝、コーヒーをいれたら、止まっている連絡をひとつ返す」くらいの大きさで。
やったら、その日付を残す。それが、自分への証拠になります。
語りかけても動かない話は潜在意識は嘘なのかに、言葉の意味は潜在意識と顕在意識の違いに書きました。
この書き方をしている理由は、プロフィールに書きました。





