セルフイメージとは|合わない経験をはじく仕組みと、唱えても変わらない理由

セルフイメージとは|合わない経験をはじく仕組みと、唱えても変わらない理由

セルフイメージは額縁に近い。枠に合わない経験ははじかれる。動かすのは、毎日ひとつ積む小さな証拠のほう。
セルフイメージは額縁に近い。枠に合わない経験ははじかれる。動かすのは、毎日ひとつ積む小さな証拠のほう。

自分を変えたくて、前向きな言葉を毎朝、鏡の前で唱えている人。

逆に、うまくいっている人を見て「自分は、そういうタイプじゃない」と、先に引いてしまう人。

僕は、後ろのほうでした。現実が動かないことを、そのころは運が悪いと呼んでいました。

先に結論を書きます。セルフイメージとは、自分がどんな人間かについていだいている考えのことです

この考えが、合わない情報をはじきます。

だから、言葉を唱えるだけでは動きにくいのです。

順番に書きます。

セルフイメージとは何か

大辞泉に「セルフイメージ」の見出しはありません。

辞書(自己概念)自分がどんな人間であるかということについていだいている考え「セルフイメージ」単独の見出しは無自己概念・自己像の訳語として読むマルツ 1960年人格と行動の鍵。変えれば行動が変わ自分に何ができて何ができないかの境界を決める形成外科医が書いた本が、この言葉を広めた辞書(自己概念)自分がどんな人間であるかということについていだいている考え「セルフイメージ」単独の見出しは無い自己概念・自己像の訳語として読むマルツ 1960年人格と行動の鍵。変えれば行動が変わる自分に何ができて何ができないかの境界を決める形成外科医が書いた本が、この言葉を広めた
辞書の定義と、この言葉を広めた本の定義。中身はほぼ同じで、違いは「変えられる」を足したかどうか。

かわりに「自己概念」があります。定義は「自分がどんな人間であるかということについていだいている考え」です。

この訳語として読むのが、安全です。

自己啓発でよく見る「セルフイメージ」の出どころは、1960年のアメリカです。

形成外科医のマクスウェル・マルツの『サイコ・サイバネティクス』が、この言葉を広めました。

序文に、こう書いてあります。

セルフイメージは人格と行動の鍵で、変えれば人格と行動が変わる。そして、何ができて何ができないかの境界を決める、と。

辞書とほぼ同じ中身に、マルツは「変えられる」を足したのです。

過去の経験から作られ、合わない情報をはじく

心理学では、自分についての考えを「自己スキーマ」と呼びます。

過去の経験うまくいった、いかなかった、そう扱われた。その積み重ね自分についての枠組み自己スキーマ。自分に関する情報の処理を方向づけるふるい合う情報は速く通す。反する情報には抵抗する過去の経験うまくいった、いかなかった、そう扱われた。その積み重ね自分についての枠組み自己スキーマ。自分に関する情報の処理を方向づけるふるい合う情報は速く通す。反する情報には抵抗す
1977年の研究が示した流れ。枠組みは過去から作られ、入ってくる情報をふるいにかける。

1977年の研究の定義は、こうです。過去の経験からつくられた枠組みで、自分についての情報の処理を方向づけるもの。

研究では、女子学生を対象に、ある領域でスキーマをもつ人と、もたない人をくらべました。

もつ人は、その領域で自分についての判断が速い。行動の証拠を思い出しやすい。自分の行動を、自信をもって予測できる。

そして、スキーマに反する情報には抵抗しました。

つまり、セルフイメージは、入ってくる情報をふるいにかけていると読めます。

合うものは速く通す。合わないものは、はじく。

「人前が苦手だ」と思っている人が、うまく話せた日を、次の週にはわすれている。記憶力の問題ではないんですよね。

枠に合わない経験が、証拠として残らないだけです。

ただし、これは1本の研究です。対象も、領域もかぎられています。

周りにも、同じ見方を求める

はじくのは、自分の中だけではない。

周りの人「こういう人だ」という期待をもつその期待を当てはめて接する本人自分の見方を確認しようと動く裏づける反応を、周りから引き出す周りの人「こういう人だ」という期待をもつその期待を当てはめて接する本人自分の見方を確認しようと動く裏づける反応を、周りから引き出す
1987年の整理。両側の動きが噛み合って、自己像は保たれる。

1987年の論文が「自己確証」という動きをまとめています。

周りの人が期待をあてはめてくるのと同じように、本人も自分の見方を裏づけようと動く。両方がかみ合って、自己像が保たれる。

「自分は頼りない」と思っている人は、そうあつかわれているあいだは落ちついています。

急に頼られると、居心地が悪くなる。

周りが悪いのではなくて、自己像は、周りの反応まで使って自分を保っているのです。

前向きな言葉を唱えても、動かない理由

唱える言葉にも、同じ仕組みが働きます。

自尊心が低い人「自分は愛される人間だ」を繰り返すと、繰り返さなかった人より気分が悪くなった自尊心が高い人気分は上がった。ただし、効き方は限られていた自尊心が低い人「自分は愛される人間だ」を繰り返すと、繰り返さなかった人より気分が悪くなった自尊心が高い人気分は上がった。ただし、効き方は限られていた
2009年の実験。前向きな言葉は、いちばん必要としている人に裏目に出た。

2009年に、前向きな言葉の効き目を、調査1件と実験2件で調べた研究があります。

実験では、参加者に「自分は愛される人間だ」という言葉を、くり返してもらいました。

自尊心が低い人は、くり返したあと、気分が悪くなっています。くり返さなかった人より、悪い。

自尊心が高い人には効きました。ただし、効き方はかぎられていた。

前向きな言葉は、いちばん必要としている人に裏目に出る。

理由は、上の仕組みです。

「愛される人間だ」は、自己像に合わない情報としてあつかわれます。だから、はじかれる。自己像がはじくたびに、本人は「愛されていない」と感じた記憶のほうを思い出します。

……言葉は、証拠にならないんですよね。

「21日で変わる」の出どころ

セルフイメージの話には、きまって「21日」が出てきます。

21日出どころは臨床の見聞1960年の序文。統計も実験もない18〜254日実測した自動化までの日数解析82人分・12週間・2010年出典: Maltz 1960 序文/Lally et al. 201021日出どころは臨床の見聞1960年の序文。統計も実験もない18〜254日実測した自動化までの日数解析82人分・12週間・2010年出典: Maltz 1960序文/Lally et al. 2010
同じ「日数」でも、片方は見聞、片方は実測。測ると人によって18日から254日まで開いた。

出どころを調べると——同じマルツの序文でした。

手術を受けた人が、新しい顔に慣れるまで約21日かかる。腕や脚を失った人の幻肢が、約21日残る。新しい家が家らしく感じられるまで、3週間ほど。

そんな臨床の見聞から「古い像がとけて、新しい像がかたまるには、最低でも約21日かかる」と書いています。

統計も、実験も、ありません。

本人が書いたのは「最低でも」「そのあいだは判断を保留せよ」までです。

「21日で習慣になる」とは、どこにも書いていません。根拠は、序文の見聞だけです。

伝わるうちに「最低でも」が落ちて、いまの言い方になりました。

では、実際に測るとどうなるのか。

測った人がいます。

2010年に、96人が12週間、毎日同じ場面でひとつの行動をつづけた研究です。

分析に足るデータが出たのは、82人分でした。全員ではありません。

そのうち、自動になっていく曲線が当てはまった人で、上限の95%にとどくまでの日数は18日から254日までひらきました。

1回さぼっても、習慣はほとんどくずれません。

期限は、切らないほうがいいのです。

変えるなら、期限を切らずに証拠を積む

では、変えられないのか。

信念を入れるだけ(2018年)「能力はのばせる」を植えつける取り組み大きな集計では、全体の効果は弱い低所得・学業に危うさのある生徒には可能性周りと一致したとき(2019年)1時間に満たないオンラインの介入成績の低い生徒の成績が上がった規範が一致した学校ほど、差は大きい信念を入れるだけ(2018年)「能力はのばせる」を植えつける取り組み大きな集計では、全体の効果は弱い低所得・学業に危うさのある生徒には可能性周りと一致したとき(2019年)1時間に満たないオンラインの介入成績の低い生徒の成績が上がった規範が一致した学校ほど、差は大きい
信念だけでは弱く、周りの反応と合っているほど差が大きかった。自己確証と同じ形。

そうでもありません。

「能力はのばせる」という信念を植えつける取り組みは、2018年の大きな集計では効果が弱いという結果でした。

ここで終わりません。

低所得の生徒や、学業に危うさのある生徒には、介入が効く可能性が残っています。

翌2019年、アメリカの全国代表サンプルで、1時間にみたないオンラインの介入の実験が出ました。

成績の低い生徒の成績が上がり、上級数学を取る生徒がふえています。全国の学校をまとめた数字です。

そのうえで、仲間の規範が介入の内容と合っている学校ほど、差は大きくなりました

効果が出たのは、そこだけではありません。

ただし、規範は測っただけで、動かしてはいません。

信念を入れるだけでは弱い。入れた信念と、周りの反応が合っているほど、効果は大きく出ます。

自己確証と、同じ形です。

だから、自己像を動かすのは言葉ではありません。経験のほうです。

今日の話をまとめると

セルフイメージとは、自分がどんな人間かについていだいている考えです。

合わない経験今の自己像に合わない、小さな行動をひとつ決める毎日同じ場面で「朝、コーヒーをいれたら」のように、場面に結びつける証拠として残すやった日付を残す。期限は切らない。かかる日数は人によってちが合わない経験今の自己像に合わない、小さな行動をひとつ決める毎日同じ場面で「朝、コーヒーをいれたら」のように、場面に結びつける証拠として残すやった日付を残す。期限は切らない。かかる日数は人によってちがう
この記事の着地。言葉ではなく、証拠を積む。期限は切らない。

過去の経験からつくられ、合わない情報をはじき、周りの反応まで使って自分を保つ。

だから、前向きな言葉は、必要な人ほど裏目に出ました。「21日」に実測の裏づけはなく、習慣が自動になるまでの日数を測ると、18日から254日までひらいていた。

変わるのは、言葉ではなく、証拠が積まれたときです。

今夜、3分だけ使ってください。今の自分の像に合わない、小さな行動をひとつ決める。「朝、コーヒーをいれたら、止まっている連絡をひとつ返す」くらいの大きさで。

やったら、その日付を残す。それが、自分への証拠になります。

語りかけても動かない話は潜在意識は嘘なのかに、言葉の意味は潜在意識と顕在意識の違いに書きました。

この書き方をしている理由は、プロフィールに書きました。

出典・参考文献

  1. 小学館. デジタル大辞泉「自己概念」. Weblio辞書経由で閲覧 2026-09-03.
  2. Maltz M. Psycho-Cybernetics: A New Way to Get More Living Out of Life. Prentice-Hall, 1960(Pocket Books版・Preface, ix, xiii–xiv).
  3. Markus H. Self-schemata and processing information about the self. Journal of Personality and Social Psychology 1977;35(2):63-78.
  4. Swann WB Jr. Identity negotiation: Where two roads meet. Journal of Personality and Social Psychology 1987;53(6):1038-1051.
  5. Wood JV, Perunovic WQE, Lee JW. Positive self-statements: Power for some, peril for others. Psychological Science 2009;20(7):860-866.
  6. Sisk VF, Burgoyne AP, Sun J, Butler JL, Macnamara BN. To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses. Psychological Science 2018;29(4):549-571.
  7. Yeager DS, Hanselman P, Walton GM, et al. A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature 2019;573(7774):364-369.
  8. Lally P, van Jaarsveld CHM, Potts HWW, Wardle J. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology 2010;40(6):998-1009.

セルフイメージを否定するために集めた資料ではありません。この言葉を広めた本と、それを測った心理学の実験を、同じ基準で並べています。数字は一次資料か要旨を開いて確かめたものだけです。習慣の日数も、要旨で確認できた範囲(18日から254日)だけを書いています。

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