潜在意識は嘘なのか|嘘だった3つの話と、実験が本物だと示した2つのこと

潜在意識は嘘なのか|嘘だった3つの話と、実験が本物だと示した2つのこと

語りかけても、扉は開かない。潜在意識に命令が効かないことは、100年前から書かれている。
語りかけても、扉は開かない。潜在意識に命令が効かないことは、100年前から書かれている。

潜在意識を書き換えれば人生が変わる。

そう聞いて本を買って、音声を聞いて、何も変わらなかった人。逆に、潜在意識なんて嘘だと言われて、少し腹が立った人。

僕は、どちらの側にも立ったことがあります。

先に結論を書きます。潜在意識そのものは嘘ではありません。嘘なのは「語りかければ現実が変わる」というところです

嘘の側にも、本物の側にも、実験の記録があります。

順番に書きます。

嘘だった話①「潜在意識に語りかける音声」

聞くだけで自尊心が上がる、記憶力が上がる。そういう音声が、1990年ごろのアメリカでたくさん売られていました。

測った結果自尊心の指標は、変化なし記憶の指標も、変化なし別の音声で2回やり直しても、同じ本人の手応え「自尊心用」と思った人は、上がった気がした「記憶用」と思った人は、よくなった気がした中身とラベルが逆でも、同じだった測った結果自尊心の指標は、変化なし記憶の指標も、変化なし別の音声で2回やり直しても、同じ本人の手応え「自尊心用」と思った人は、上がった気がし「記憶用」と思った人は、よくなった気がし中身とラベルが逆でも、同じだった
5週間、毎日聞いたあと。測った結果と、本人の手応えが、きれいに割れた。

社会心理学者のチームが、これを調べています。

しかけは、ラベルにありました。半分の人には、中身とラベルを入れ替えて渡す。

記憶用の音声を「自尊心用」として、その逆も。

みんな、メーカーの言うとおり5週間、毎日聞きました。

自尊心も、記憶も、変わりません。

上がりも、下がりもしない。

ところが、手ごたえは別でした。

「自尊心用」だと思って聞いた人は、中身がどちらでも、自尊心が上がったと感じていた。「記憶用」だと思った人は、記憶がよくなったと感じていた。

研究者は、これを幻の偽薬効果と呼んでいます。中身は、効いていない。

効いていたのは、ラベルのほうでした。

同じチームが、別の音声で2回やり直しています。

同じでした。

嘘だった話②「サブリミナル」の出どころ

1957年、アメリカの映画館で「ポップコーンを食べろ」という文字を3000分の1秒だけ映したら、売り上げが伸びた。

1957映画館で売り上げが伸びたと発表。コーラ18%、ポップコーンほぼ58%1958調査団体がデータの公開を求める。出てこない1962本人が認める。データは意味をもつには小さすぎた2006喉が渇いている人にだけ、飲み物の名前が効くと確認1957映画館で売り上げが伸びたと発表。コーラ18%、ポップコーンほぼ58%1958調査団体がデータの公開を求める。出てこない1962本人が認める。データは意味をもつには小さすぎた2006喉が渇いている人にだけ、飲み物の名前が効くと確
サブリミナルの出どころが消えるまでと、そのあと確かめられた「効く範囲」。

コーラが18%、ポップコーンがほぼ58%。6週間で、数千人が対象だった、と発表されました。

騒ぎは、本物でした。

放送業界は、このやり方を禁じています。

ただし、この実験の一次報告は、いまもありません。

翌1958年、広告の調査団体がデータを出すよう求めます。

出てきませんでした。

そして1962年、発表した本人が業界誌で認めています。もっていたデータは少なく、意味をもつには小さすぎた、と。

出どころは、そこで消えました。

では、全部が嘘なのか。

そこは違います。

2006年に、条件つきで効くことが確かめられました。飲み物の名前を気づかない速さで見せると、その飲みものを選ぶ人が増える。

ただし、増えたのはのどが渇いている人だけでした。

効くのは、もともと欲しいものの名前を、選ぶ直前に見せたときだけです。

嘘だった話③「現実と想像の区別がつかない」

潜在意識は現実と想像の区別がつかない。だからはっきり思い描けば、それが現実になる——そういう説明の出どころを探しました。

区別がつかない、と言う思い描けば現実だと思い込む、という説明。実験の報告にはたどり着けない強さで線を引いている想像の信号はふだん弱い。だから区別がつく。強すぎたときだけ、本当に混ざる区別がつかない、と言う思い描けば現実だと思い込む、という説明。実験の報告にはたどり着けない強さで線を引いている想像の信号はふだん弱い。だから区別がつく。強すぎたときだけ、本当に混ざる
「区別がつかない」ではなく、「強さで線を引いている」。線を越えるのは、想像が現実なみに強いときだけ。

実験の報告には、たどり着けません。

代わりに見つかったのが、2023年の研究でした。

想像と現実を脳がどう見分けているかを、参加者ひとりにつき1回だけ試すやり方で調べたものです。

わかったことは、こうでした。

想像の信号と現実の信号は、脳の中で混ざっている。その混ざったものが、ある強さを超えたときに「現実だ」と決まる。

ふだん、想像の信号は弱い。だから区別がつきます。

ただし、想像が現実なみに強くなると、本当に見分けがつかなくなる。研究者自身が、そう書いています。

つまり脳は、信号の強さで線を引いている。区別がつかないのではなく、線があるということです。

本物だった話①「理由は、自分でわからない」

嘘の側を3つ落としました。

4対1右はしと左はしの選ばれ方52名。4足とも同じ品0人場所を理由に挙げた人直接たずねても、ほぼ全員が否定出典: Nisbett & Wilson 1977, pp.243-2444対1右はしと左はしの選ばれ方52名。4足とも同じ品0人場所を理由に挙げた人直接たずねても、ほぼ全員が否定出典: Nisbett & Wilson1977, pp.243-244
同じ靴下4足。品質を選ばせると右はしに偏り、理由を聞くと場所を挙げる人はいなかった。

残ったものを書きます。

1977年の論文に、こんな実験があります。

道ゆく人52名に4足の靴下を見せて、いちばん品質のいいものを選ばせる。じつは4足とも、同じ品です。

右はしの靴下が、左はしの4倍近く選ばれています。

ちがいは、置いた場所だけ。

わけを聞くと、場所を挙げた人はひとりもいません。直接たずねても、ほぼ全員が否定しました。

判断は、気づかないところで先に決まっている。そのうえで、それらしいわけを、あとから作る。

ここが、潜在意識の本物の側です。

ひとつ、注意も書いておきます。

この分野には、もっと派手な実験もありました。老人を思わせる言葉を見せると、歩く速さが落ちるという1996年の実験です。

2012年に120名で追試したところ、効果は出ませんでした。

心理学のおもな実験100件を追試した2015年の調べでも、再現できたのは36%です。

本物は、地味なほうです。

本物だった話②「想像は、筋肉にまで効く」

もうひとつ、残った本物があります。

実際に小指を動かした+53%頭の中で小指を動かした+35%頭の中で肘を曲げた+13.5%何もしなかった変化なし出典: Ranganathan et al. 2004(筋力の増加率)
12週間、1日15分。頭の中で動かすだけでも力は上がる。ただし、実際に動かすほうが強い。

2004年の研究で、頭の中だけで筋肉を動かす練習をさせています。

30名を分けて、ひとつの群は小指を横に開く動作を、頭の中で12週間くり返しました。1日15分、週5日。

指は動かしません。

小指の力が、35%上がりました。

何もしなかった群は、変わりません。

ただし、実際に指を動かした群は53%です。肘を曲げる動作を頭でやった群は、13.5%でした。

同じ形の研究を37件集めた2020年の分析でも、小さいけれど確かな効果がある、と出ています。

大事なのは、何が効いたかです。

効いたのは「成功した自分」という像ではなく、小指を動かすという具体的な動作のほうでした。

語りかける相手として扱うと、何も動かない。

動作を渡す相手として扱うと、筋肉まで動く。

ここが、分かれ目です。

今日の話をまとめると

潜在意識は、嘘ではありません。

語りかける「自分には価値がある」と聞かせる。測ると、何も動いていない動作を渡す明日やる動作をひとつ、頭の中で最初から最後までやる。体まで動く語りかける「自分には価値がある」と聞かせる。測ると、何も動いていない動作を渡す明日やる動作をひとつ、頭の中で最初から最後までやる。体まで動く
この記事の着地。潜在意識は、語りかける相手ではなく、動作を渡す相手。

嘘だったのは、語りかける音声、サブリミナルの出どころ、そして「区別がつかない」という説明の3つです。

本物だったのは、判断が気づかないところで先に決まっていること。そして、具体的な動作の想像が、体まで動かすことでした。

語りかけた5週間は、何も動きませんでした。頭の中で小指を動かした12週間は、35%動いた。

差は、命令したか、動作を渡したかです。

今夜、3分だけ使ってください。明日やる動作をひとつ選んで、目を閉じて、頭の中で最初から最後まで一回やる。

「うまくいった自分」ではなく、「机に座って、ファイルを開く」くらいの粒度で。

言葉の意味からそろえたい人は、潜在意識と顕在意識の違いを先に読んでください。

僕がなぜこの書き方をしているのかは、プロフィールに置いてあります。

出典・参考文献

  1. Pratkanis AR. The cargo-cult science of subliminal persuasion. Skeptical Inquirer 1992;16(3):260-272.
  2. Greenwald AG, Spangenberg ER, Pratkanis AR, Eskenazi J. Double-blind tests of subliminal self-help audiotapes. Psychological Science 1991;2(2):119-122.(Pratkanis 1992 経由)
  3. Karremans JC, Stroebe W, Claus J. Beyond Vicary's fantasies: The impact of subliminal priming and brand choice. Journal of Experimental Social Psychology 2006;42(6):792-798.
  4. Dijkstra N, Fleming SM. Subjective signal strength distinguishes reality from imagination. Nature Communications 2023;14:1627.
  5. Nisbett RE, Wilson TD. Telling more than we can know: Verbal reports on mental processes. Psychological Review 1977;84(3):231-259.
  6. Bargh JA, Chen M, Burrows L. Automaticity of social behavior. Journal of Personality and Social Psychology 1996;71(2):230-244.
  7. Doyen S, Klein O, Pichon C-L, Cleeremans A. Behavioral priming: It's all in the mind, but whose mind? PLoS ONE 2012;7(1):e29081.
  8. Open Science Collaboration. Estimating the reproducibility of psychological science. Science 2015;349(6251):aac4716.
  9. Ranganathan VK, Siemionow V, Liu JZ, Sahgal V, Yue GH. From mental power to muscle power—gaining strength by using the mind. Neuropsychologia 2004;42(7):944-956.
  10. Toth AJ, McNeill E, Hayes K, Moran AP, Campbell M. Does mental practice still enhance performance? Psychology of Sport and Exercise 2020;48:101672.

潜在意識を否定するために集めた資料ではありません。嘘だと判定された側も、本物だと確かめられた側も、同じ基準で並べています。数字は一次資料を開いて確かめたものだけです。

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