潜在意識と無意識の違い|同じ意味に見える2つの言葉を、誰がどう使ってきたか

潜在意識と無意識の違い|同じ意味に見える2つの言葉を、誰がどう使ってきたか

浅いところが意識、下にいくほど無意識。フロイトは層で説明し、ユングは「意識は囲まれている」と書いた。
浅いところが意識、下にいくほど無意識。フロイトは層で説明し、ユングは「意識は囲まれている」と書いた。

潜在意識と無意識は同じだ、と書いてある本があります。違う、と書いてある本もあります。

どちらを信じればいいか、わからなくなる。

僕も、最初はそうでした。

先に結論を書きます。指しているものは、ほぼ同じです。ちがうのは、言葉の出どころのほう

「無意識」は、気づいていない、という状態の名前。「潜在意識」は、気づいていない側にもうひとつの心がある、と言うための名前です。

この差が、あとで効いてきます。

順番に書きます。

「無意識」は心理学の言葉、「潜在意識」は本屋の言葉

無意識 潜在意識
出どころ フロイトの精神分析 英語 subconscious の訳語
広めたもの 心理学の教科書 1968年のマーフィー邦訳
指すもの 気づいていない、という状態 気づいていない側の「もうひとつの心」
命令が効くか 効かない 効くことになっている
1926フロイトが subconscious を退け、意識と無意識に統一1963マーフィー『あなたの潜在意識の力』(原題)が出る1968邦訳『眠りながら成功する』。潜在意識が書店に並ぶ1987サイエンス誌の総説が「認知的無意識」を整2008無意識は意識の影ではない、とする総説1926フロイトが subconscious を退け、意識と無意識に統一1963マーフィー『あなたの潜在意識の力』(原題)が出1968邦訳『眠りながら成功する』。潜在意識が書店に並1987サイエンス誌の総説が「認知的無意識」を整理2008無意識は意識の影ではない、とする総説
2つの言葉が、それぞれ誰の手で広まったか。

無意識は、フロイトが精神分析の真ん中に置いた言葉です。ドイツ語の das Unbewusste。「意識されていないもの」という、状態の言い方です。

潜在意識は、英語の subconscious を日本語にしたもの。

日本で広まった出どころは、はっきりしています。

国立国会図書館の書誌によると、マーフィー『眠りながら成功する』の邦訳が出たのは1968年。原題は The Power of Your Subconscious Mind、訳すと「あなたの潜在意識の力」です。

それ以前にこの訳語がどこまで使われていたかは、たどれませんでした。

ひとつ、公平のために足します。英語の subconscious を専門語として使う研究者はいます。1987年のサイエンス誌の総説が、その一例です。

だから「潜在意識は非科学的だ」と切るのも、雑なんですよね。

フロイトが「潜在意識」を捨てた理由

おもしろいのは、フロイト本人が subconscious を退けていることです。

読み方①「意識の下で眠っている層」抜けるもの: 無意識は休んでいない。絶えず割り込み、押し戻されている読み方②「頭の中のもうひとりの小さな人」行き着く先: 2つの意識が主導権を争う分裂の話。フロイトは退けた出典: Freud Museum London「TheUnconscious: FAQ」
フロイトが subconscious を退けた理由。2通りに読めて、どちらも本質を外す。

理由を、ロンドンのフロイト博物館が説明しています。この言葉は、2通りに読めてしまうから。

ひとつ目は、「意識の下に、眠っている層がある」。底のほうでじっとしていて、上で意識が勝手にやっている、という絵です。

これだと、いちばん大事な性質が抜けます。

無意識は、休んでいません。絶えず意識に割り込み、そのたびに押し戻されている。動いている側です。

ふたつ目は、「頭の中に、もうひとりの小さな人がいる」。意識の下に、第二の意識がある、という絵。

こちらは、動いている感じは残ります。ただ、ひとりの中で2つの意識が争う、分裂の話になる。フロイトは、これを退けました。

だから「無意識」を選んだ。どちらの誤読も、この語なら起きないからです。

「潜在意識」は、フロイトが退けた2つ目の読み方を、そのまま採った言葉です。意識の下に、もうひとつの心がいる。

だから「語りかける」「お願いする」「書き換える」という文が成り立つ。

言葉が、やることを決めてしまう——ここが、いちばん大きなちがいです。

無意識には、3つの意味がある

無意識のほうも、ひとつではありません。

日常語の無意識自動になった動き。「無意識に足を組んでいた」フロイトの無意識押し込められた部屋。中身は動いていて、上がろうとする認知科学の無意識もともと入口がない処理。潜在記憶・潜在学習・気づかない刺激自己啓発の潜在意識願いを叶える力の倉庫。ここだけが「主体」の話
「無意識」は3つ、「潜在意識」は1つ。上の3つは状態の名前、4つ目だけが主体の名前。

ひとつ目は、日常語です。「無意識に足を組んでいた」。くり返した動きが自動になって、意識しなくてもできる状態のこと。

ふたつ目が、フロイトの無意識。押し込められて、入れなくなった部屋です。

みっつ目が、認知科学の無意識。もともと入口がない処理のほうです。

ここは、確かめられている範囲がはっきりしています。

思い出せない経験が行動に残る潜在記憶。規則を説明できないまま規則を学ぶ潜在学習。気づかないほど短い刺激が、あとの判断に効くこと。

1987年の総説は、この3つを認知的無意識と呼びました。

2008年の総説は、もっと踏み込んでいます。

多くの心理学者はいまだに、無意識を「本物の意識」の影だと見ている。ただ、証拠を見るかぎり、無意識は意識より劣ってはいない。むしろ、無意識の行動のほうが先に来る。

潜在意識は、この3つのどれともちがいます。

願いを叶える倉庫。力の源。マーフィーの本が描いたのは、そちらでした。

上の3つは、どれも「気づいていない」という状態の話です。4つ目だけが、力をもった主体の話になっている。

ユングは、無意識を「自分の中だけ」にしなかった

もうひとり、触れておきます。ユングです。

意識中央の位置を占めるだけ。四方を無意識に囲まれている(p.186)個人的無意識本来なら意識できる内容が、押し込まれた層。先にここを見る(p.310)集合的無意識祖先から受け継いだ層。扉が開くのは、そのあと(p.95)意識中央の位置を占めるだけ。四方を無意識に囲まれている(p.186)個人的無意識本来なら意識できる内容が、押し込まれた層。先にここを見る(p.310)集合的無意識祖先から受け継いだ層。扉が開くのは、そのあと(p.95)
ユングの順番。個人的無意識を先に意識化しなければ、集合的無意識の扉は開かない(p.95)。

『心理学と錬金術』の186ページに、こんな一行があります。意識が要求できるのは、中央の位置にすぎない。その四方八方には無意識の心がそびえ立ち、意識を完全に包囲している。

大小の話ではない。囲まれている、という絵です。

ユングは、無意識を2層に分けました。個人的無意識と、集合的無意識です。

個人的無意識は、本来なら意識できるはずの内容が、無意識のほうに置かれている層(310ページ)。

集合的無意識は、その下。祖先から受け継いだ層です。

実務として大事なのは、95ページの一行です。

まず個人的無意識が処理されなければならない。さもなければ、集合的無意識への扉を開くことは不可能である。

順番が、あるんですよね。押し込めたものを、先に見る。深い層は、そのあとです。

そして244ページ。無意識は、まったくの未知の心であって、規定できないがゆえに無限のものである。

ユングでさえ、言い切っていない。

「潜在意識は◯◯です」と一行で言い切っている本を見たら、ここを思い出してください。

今日の話をまとめると

「無意識」は状態の名前で、「潜在意識」は主体の名前です。

無意識状態の名前(気づいていない)出どころは精神分析と認知科学「気づいていない処理がある」で止ま潜在意識主体の名前(もうひとつの心)出どころは1968年の邦訳「その主体に働きかけよう」まで進む無意識状態の名前(気づいていない)出どころは精神分析と認知科学「気づいていない処理がある」で止まる潜在意識主体の名前(もうひとつの心)出どころは1968年の邦訳「その主体に働きかけよう」まで進む
指すものは同じ、言葉の仕事がちがう。

状態の名前だと、「気づいていない処理がある」で止まります。主体の名前だと、「その主体に働きかけよう」まで進んでしまう。

だから「潜在意識に語りかける」はできて、「無意識に語りかける」は、少し変になる。

主体の名前で呼ぶと、つい語りかけたくなる。でも、そこは動きません。

効くのは、入力です。何を見て、何をくり返し、どの順番で動くか。そこを変えると、気づいていない側が勝手に変わります。

だから僕は、「書き換える」ではなく「味方につける」と言っています。

今夜、3分だけ使ってください。今日、気づかないうちにやっていたことを、ひとつ書く。その横に、始めたきっかけを書く。

思い出せなければ、「思い出せない」と書く。それが、入口のない処理の実物です。

顕在意識とのちがいは、潜在意識と顕在意識の違いに書きました。

そもそも嘘なのかを先に知りたい人は、潜在意識は嘘なのかから読んでください。

出典・参考文献

  1. Freud Museum London. The Unconscious: Frequently Asked Questions(「無意識」と「潜在意識」の違い/フロイトが subconscious を退けた理由)
  2. Kihlstrom JF. The cognitive unconscious. Science 1987;237(4821):1445-1452.
  3. Bargh JA, Morsella E. The unconscious mind. Perspectives on Psychological Science 2008;3(1):73-79.
  4. Schacter DL. Implicit memory: History and current status. J Exp Psychol LMC 1987;13(3):501-518.
  5. Reber AS. Implicit learning of artificial grammars. J Verbal Learning Verbal Behav 1967;6(6):855-863.
  6. ジョセフ・マーフィー『眠りながら成功する』大島淳一訳, 産業能率短期大学出版部, 1968(原題 The Power of Your Subconscious Mind, 1963)
  7. C・G・ユング『心理学と錬金術 I』池田紘一・鎌田道生訳, 人文書院・新装版, 2017, p.73, p.95, p.186, p.244, p.310

言葉の出どころは、一次資料と、その言葉を管理している側(フロイト博物館・国立国会図書館の書誌)を開いて確かめました。たどれなかったものは、たどれなかったと書いています。

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