速読のやり方を調べて、目を速く動かす練習から始めた人。
買った本が、読まれないまま机に積まれている人。
たどり着く理由は、だいたい同じです。読む時間が、足りない。
文化庁の令和5年度の調査では、16歳以上で1か月に本を読まない人が62.6%でした。
同じ調査で、読書量は減っていると答えた人が69.1%。その人たちに理由を聞くと、いちばん多かったのは、情報機器で時間が取られる、が43.6%。次が、仕事や勉強が忙しくて読む時間がない、で38.9%です。
先に結論を書きます。速読で効くのは、目を速くすることではなく、読む時間をどこに配るかを先に決めることです。
目を鍛える話は、研究に残っていません。残ったのは、配り方です。
順番に書きます。
「普通の速さ」を、先に知っておく
辞書を引くと、速読は「本などを普通よりも速く読むこと」とあります。反対は、遅読。
似た言葉のうち5つは、斜め読み、拾い読み、抜き読み、走り読み、流し読み。この5つは、どれも飛ばす読み方です。
速読のやり方も、結局はここに入ります。
では、その「普通」は、どのくらいなのか。
190の研究、18,573人分をまとめた2019年の分析があります。英語のおとなが黙読するとき、非フィクションで平均238語/分、フィクションで260語/分でした。
声に出して読むと、183語/分です。黙読と音読の差は、思ったより小さいんですよね。
よく言われる300語/分という数字は、多すぎると書かれています。ほとんどの人は、非フィクションで175〜300語/分におさまる。
古い文献では200〜400語/分と書かれることが多いんですが、2019年の分析は、その数字を過大だとしています。
目を速くする練習が、先ではない理由
速読の本やアプリは、たいてい目の動きから入ります。
でも、2016年のレビューは、速さと理解は引き換えになる、と書いています。両方が高いという特別な読み方は、見つかっていない。
読む速さを決めているのは、目の動きよりも、言葉を処理する側だからです。
目は、あとです。
もうひとつ。読む速さには、目的ごとの「ギア」があるという古い説があります。5段階に分ける案で、先ほどの2019年の分析が引いているものです。
ただ、その2019年の分析は、この案を支持していません。証拠があるのは「読む」と「探す」の違いだけ。そのあいだの段は、確かめられていない。
やり方①:段落の頭とページの上に、時間を配る
飛ばし読みが「落とす」読み方なら、何を落とすかを先に決めればいい。
2009年に、読む時間を半分にして測った実験があります。
半分の時間でスキミングした人は、ふつうに半分だけ読んだ人より、重要な考えをよく覚えていました。ただし、細部と、行間の推論は、よくなっていません。
段落の前半だけ、後半だけを読んだ人と比べると、差はありませんでした。
別のレイアウトで試すと、この差は、ページを行き来しやすいかどうかで消えています。
読むあいだの時間を測ると、スキミングする人の配り方が見えます。段落の前のほう、ページの上のほう、文書の前のほうに、時間を多く使っていた。
論文では、これを「満足化」と呼びます。すべてをいちばんよく読むのではなく、そこそこで足りる読み方。
読んでいる途中で入ってくる量が落ちたら、そこで切って次へ飛ぶ。だから飛ばした場所と、ふつうに読んだ場所が、交互に並びます。
研究がたしかめたのは、ここまでです。時間は、前のほうに集まる。
そこから先は、僕の使い方になります。文書のいちばん前、つまり目次を、先に開く。
やり方②:読み返しを、禁じない
速読アプリには、言葉をひとつずつ順に流すものがあります。戻れません。
2014年の実験は、そこをじかにたしかめています。ふつうに読む条件と、目が通り過ぎた語を隠していく条件。隠す条件では、読み返しができない。
理解は、下がりました。しかも、わかりにくい文だけでなく、ふつうの文でも下がっている。
読み返しは、読みの自然な一部だ、と論文は書いています。
戻れないことは、速さではなく、欠落です。
紙の本なら、指で戻る。画面なら、スクロールで戻る。それでいいんです。
やり方③:思い出すのを、間をあけてやる
読み終えたあとの時間を、どこに配るか。ここで残る量が変わります。
2013年に、10の学び方を比べたレビューが出ています。
評価が高かったのは2つ。練習テストと、間をあけて練習することです。
低かったのは5つで、そのなかに再読とハイライトが入っています。多くの学生が頼っているのに、成績を一貫して上げない、と。
読み終えたあとの時間を、読み直しではなく、思い出すほうに配る。しかも一度で終わらせず、日をあけてもう一度やる。
閉じて思い出した人と、読み直した人の差が、何日後にどれだけ開くのか。その数字と、速さを上げたとき理解がどこまで落ちるかは、速読は意味ないのかに置いています。
今日の話をまとめると
速読で効くのは、目の速さではなく——時間の配り方でした。
目次で先に、何の話かを知る。段落の頭とページの上に、時間を配る。
戻りたいときは、戻る。読み終えたら、間をあけて思い出す。
英語での普通の速さは238語/分。そこを2倍、3倍にして理解を保つ根拠は、見つかっていません。
今夜、3分だけ使ってください。読みかけの本の目次だけを開いて、いま読んでいる章がどこに置かれているかを見る。
自分では気づかないまま、配り方が先に決まっている。その仕組みは、潜在意識と顕在意識の違いに書いています。





