引き寄せの法則とRAS|1949年の原典に願いの話はなく、選んでいたのは注意の設定

引き寄せの法則とRAS|1949年の原典に願いの話はなく、選んでいたのは注意の設定

同じ景色でも、探すと決めたものだけが浮かび上がる。決めているのは脳幹ではなく、本人。
同じ景色でも、探すと決めたものだけが浮かび上がる。決めているのは脳幹ではなく、本人。

RASを使えば、望むものが向こうからやってくる。そう聞いて、目標を紙に書き、毎朝ながめている人。

逆に、脳の名前が出てきたとたん、これは科学なんだと安心してしまった人。

僕は、あとに書いたほうでした。脳の言葉が出ると、たしかめずに信じたくなるんですよね。

先に結論を書きます。RAS(脳幹網様体賦活系。上行性網様体賦活系とも呼ばれます)は、起きている状態を保つための装置です。願いに合う情報を選び出す装置だという根拠は、原典にも、いまの研究にもありません

ただし、「意識したものが目に入る」という体験そのものは本物です。出どころが、RASではないだけで。

順番に書きます。

1949年の原典に、願いの話は一行もない

RASの出どころは、1949年の論文です。ネコの実験でした。

原典に書いてあることネコの脳幹を電気で刺激した脳波が、眠りの型から起きている型に変わったこの系の働きが落ちると、眠り・麻酔・病的な眠気につながる原典に無いこと願望・目標という言葉情報を選び出すという働き引き寄せという語原典に書いてあることネコの脳幹を電気で刺激した脳波が、眠りの型から起きている型に変わっこの系の働きが落ちると、眠り・麻酔・病的な眠気につながる原典に無いこと願望・目標という言葉情報を選び出すという働き引き寄せという語
1949年の論文にあるのは、ネコと脳波と覚醒だけ。願いを選ぶという話は、一行もない。

脳幹の網様体という場所を電気で刺激すると、脳波が変わった。

眠っているときの、そろった波が消える。かわりに、こまかく速い波が出てくる。

この系がはたらきつづけているから、目が覚めている。はたらきが落ちると、眠りや麻酔、病的な眠気につながるのではないか。10項目ある要旨の、最後の1項です。

論文が書いたのは、そこまででした。

要旨のどこにも、目標や願望という言葉は出てきません。

あるのは、ネコと脳波。そして、眠りです。

原典が見つけたのは「目を覚ましているしくみ」でした。「ほしいものを見つけるしくみ」ではありません。

いまの研究でも、相手は睡眠と昏睡

では、その後の研究で「選ぶ装置」だとわかったのか。

1949ネコの脳幹刺激で脳波が覚醒型に。覚醒を保つ系として提2005ネイチャー総説。視床下部のスイッチが眠りの間に覚醒系を切る2011ラットで経路を見直し。視床を壊しても覚醒はほぼ変わら2012ヒト3人の脳を画像で解析。傷つくと昏睡になる系として1949ネコの脳幹刺激で脳波が覚醒型に。覚醒を保つ系として提唱2005ネイチャー総説。視床下部のスイッチが眠りの間に覚醒系を切る2011ラットで経路を見直し。視床を壊しても覚醒はほぼ変わらず2012ヒト3人の脳を画像で解析。傷つくと昏睡になる系として
1949年から2012年まで、研究の相手はずっと覚醒・睡眠・昏睡。目標達成は一度も出てこない。

そうは、なっていません。

脳科学辞典(日本神経科学学会)は、RASを「覚醒状態を維持する脳内機序」と定義しています。願いを選ぶ一行は、ここにも見つかりません。

2005年のネイチャーの総説が扱ったのは、視床下部のスイッチが、眠っているあいだ覚醒の系を切るという話。薬と、ナルコレプシーの説明です。

2012年には、ヒトの脳3人分(うち2人は死後)を画像で調べた研究が出ています。テーマは昏睡。きずつくと、意識がなくなるという話でした。

RASの中身そのものが、いまも書き換え中です。

2011年のラットの実験では、視床を広くこわしても、脳波も動きもほとんど変わりません。かわりに、前脳基底部という場所をこわしたラットは、そっと触りつづけても反応しなくなりました。

こわす場所が、入れかわりました。

だから専門家は、網様体賦活系という呼び名を使わなくなっています。覚醒にかかわる細胞の多くが、網様体の中には見つからなかったからです。

名前ごと、見直し中です。

研究の相手は、1949年から今日まで、睡眠と昏睡です。

目標達成は、一度もない。

「意識したものが目に入る」は、本物

ここで、俗説の側にもどります。

ゴリラ・黒を数えた48人58%が気づいたゴリラ・白を数えた48人27%が気づいた傘の女性・黒を数えた48人62%が気づいた傘の女性・白を数えた48人69%が気づいた出典: Simons & Chabris 1999(ゴリラ条件96人・各群48人・気づいた割合)
黒いゴリラは、黒を追っていた人にだけ見えた。どちらの色でもない傘の女性では、差が出ない。

RASを引き寄せの正体だと説く記事は、「意識し始めたら、それが目に入るようになった」という体験を根拠にします。

この体験は、本物です。実験があります。

1999年の実験は、192人。2つのチームがパスする映像を見せて、片方のパスの回数を数えさせました。

そのあいだに、予期しないものが画面をよこぎります。半分の96人には、黒いゴリラの着ぐるみ。もう半分には、傘をさした女性。

ゴリラを見のがした人が、56%。半分をこえます。

大事なのは、その先です。

黒いシャツのチームを数えていた48人のうち、58%がゴリラに気づきました。白いシャツのチームを数えていた48人では、27%でした。

追っていた色と、ゴリラの色が同じでした。

効いたのは、色です。

同じ操作を傘の女性でやると、差はほとんど出ません。黒を数えた人が62%、白では69%。傘の女性の服は、どちらのチームの色でもない。

拾えたのは、決めていた色と同じものだけ。

58%と27%は、見せかたと数えかたのちがいをあわせた平均です。

選んでいるのは脳幹ではなく、本人の設定

では、その「何を追うか」は、脳のどこで決まっているのか。

1992年勝手に目に付く現象にも、先に作られた注意の設定が効いている2002年目標に沿って選ぶ働きの場所は大脳皮質。脳幹の網様体ではない2005年気づくかどうかの最大の要因は、本人の注意の目標1992年勝手に目に付く現象にも、先に作られた注意の設定が効いている2002年目標に沿って選ぶ働きの場所は大脳皮質。脳幹の網様体ではない2005年気づくかどうかの最大の要因は、本人の注意の目標
「探すと決めたものが目に入る」の出どころは、脳幹ではなく、注意の研究の側にあった。

1992年の4つの実験が、先に答えを出しています。勝手に目へ飛び込んでくるように見える現象でも、先につくられた「注意の制御設定」が効いていた。

決まるのは、先です。

2002年の総説は、場所まで示しました。目標に沿って情報を選ぶのは、頭頂間溝と上前頭皮質をふくむ大脳皮質のネットワーク。脳幹の網様体という場所では、ありません。

そして2005年、ゴリラ実験のチームが結論を書きます。気づくかどうかを強く左右するのは、刺激の性質ではなく、本人の注意の目標である、と。

論文の題は「What you see is what you set」。何を見るかは、何に設定したかで決まる

「意識したものが目に入る」の出どころは、RASではなく、この注意の研究でした。

RASは、明かりをつける係です。選ぶ係では、ない。

何を探すかは——明かりの下で、本人が決めている。

俗説の側には、出どころが無かった

さいごに、俗説の側もたどりました。

0本俗説の側が挙げた論文出版社の一般向け記事。研究者名も出典もない1949年原典が出た年扱ったのはネコの脳波と覚醒出典: 講談社 with class/Moruzzi・Magoun 19490本俗説の側が挙げた論文出版社の一般向け記事。研究者名も出典もない1949年原典が出た年扱ったのはネコの脳波と覚醒出典: 講談社 withclass/Moruzzi・Magoun1949
俗説の側が挙げた論文は、ゼロ。原典のほうは1949年から、ネコの脳波と覚醒の話をしている。

大手出版社のサイトの記事は、RASを「興味や関心があることを、無意識に脳が集める」フィルターだと説明し、引き寄せの法則の正体はこういうことなんだと思う、と書いています。

出どころは、書かれていません。

論文名も、ない。研究者名も、ない。

俗説の側の記事を、ほかに2本開きました。1本は脳科学辞典と一般書を挙げています。ただし、RASが願いに合う情報を選ぶと述べた論文は、3本とも挙げていません。

僕がたしかめた範囲では、「RASが願いに合う情報だけを通す」と述べた研究は、たどれませんでした。

信じるなという話では、ありません。役割を取りちがえると、使い方までまちがえるという話です。

RASに願いをあずけても、明かりがつくだけ。選ぶ係は、別にいます。

今日の話をまとめると

RASは、起きている状態を保つ装置です。1949年の原典も、そのあとの研究も、相手は睡眠と昏睡でした。

フィルターに願いを預けるRASが集めてくれると思って待つ。RASは明かりをつける係で、選ぶ係は別にいる探すものを自分で決める明日探すものをひとつ、目で見つかる粒度で紙に書く。設定が変われば、拾うものが変わるフィルターに願いを預けるRASが集めてくれると思って待つ。RASは明かりをつける係で、選ぶ係は別にいる探すものを自分で決める明日探すものをひとつ、目で見つかる粒度で紙に書く。設定が変われば、拾うものが変わ
この記事の着地。RASに願いを預けるのではなく、今夜、探すものをひとつ決める。

「意識したものが目に入る」は本物です。ただし出どころは、注意の研究でした。決め手は、設定です。

ゴリラに気づいたのは、同じ色を追っていた人でした。黒を数えた48人は58%、白では27%。

分けていたのは、色です。

だから、フィルターに願いをあずけるのではなく、探すものを自分で決める。ここまでが、研究の支える範囲です。

今夜、3分だけ使ってください。明日ひとつだけ、探すものを色か形で決める。

「いい話」ではなく、「青い封筒」くらい、目で判定できるところまで落とします。

そこまで落とすと、目が先に見つけます。

願いと結果のあいだで何が効いているかを見たい人は、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかを読んでください。

ゴリラの実験を潜在意識の側からくわしく書いたのは、潜在意識と顕在意識の違いです。

出典・参考文献

  1. Moruzzi G, Magoun HW. Brain stem reticular formation and activation of the EEG. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1949;1(4):455-473. DOI:10.1016/0013-4694(49)90219-9(本文は有料。本記事の記述は、10項目の要旨で確認できる範囲にとどめた)
  2. 本村啓介. 脳幹網様体賦活系. 脳科学辞典(日本神経科学学会) 2016(改訂); DOI:10.14931/bsd.2413.
  3. Fuller PM, Sherman D, Pedersen NP, Saper CB, Lu J. Reassessment of the structural basis of the ascending arousal system. J Comp Neurol 2011;519(5):933-956.
  4. Edlow BL, Takahashi E, Wu O, et al. Neuroanatomic connectivity of the human ascending arousal system critical to consciousness and its disorders. J Neuropathol Exp Neurol 2012;71(6):531-546.
  5. Saper CB, Scammell TE, Lu J. Hypothalamic regulation of sleep and circadian rhythms. Nature 2005;437(7063):1257-1263.
  6. Simons DJ, Chabris CF. Gorillas in our midst: sustained inattentional blindness for dynamic events. Perception 1999;28(9):1059-1074.(192人を16条件に均等配分。ゴリラ条件96人・各群48人)
  7. Most SB, Scholl BJ, Clifford ER, Simons DJ. What you see is what you set: sustained inattentional blindness and the capture of awareness. Psychol Rev 2005;112(1):217-242.
  8. Folk CL, Remington RW, Johnston JC. Involuntary covert orienting is contingent on attentional control settings. J Exp Psychol Hum Percept Perform 1992;18(4):1030-1044.
  9. Corbetta M, Shulman GL. Control of goal-directed and stimulus-driven attention in the brain. Nat Rev Neurosci 2002;3(3):201-215.
  10. 講談社 with class「未来に起こることは自分のメンタル次第!?願いを叶える脳の仕組み「RAS」って?」連載・教えて!バツイチ先生 2023/04/11(一般向け記事・原著論文の記載なし)
  11. わかさ生活「成功を引き寄せる!? 脳の『RAS』機能と活用法」わかさ生活ラジオ 2024/06/11(一般向け記事・参考は辞典と一般書のみで、原著論文の記載なし)
  12. mizukara「目標達成を加速させる脳科学「RAS」とは?活用法もわかりやすく解説」2025/10/15 更新(一般向け記事・出典の記載なし)

RASを否定するために集めた資料ではありません。原典と、いまの研究と、俗説の側を同じ基準でたどっています。数字は一次資料を開いて確かめたものだけです。

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