自分はできる、と朝いちばんに唱えて、半年たっても同じところにいる人。
本を読んで変わる気になって、次の日にはもとの自分に戻っている人。
僕は、変わるきっかけが外から来るのを、ずっと待っていた側です。
日本の13〜29歳で「自分自身に満足している」と答えた人は、57.4%でした。2024年にこども家庭庁が出した5か国の調査で、いちばん低い数字です。
アメリカは73.2%、フランスは75.6%。
だから、自分に言い聞かせる本が並びます。
効きそうに、見えます。
先に結論を書きます。セルフイメージ(自己像)の書き換えとは、言葉を入れ替えることではなく、自己像に合わない行動の記録を積み、経験の意味づけを変えることです。
唱えた人の気分が下がった実験と、記録で目標の達成率が上がった実験が、両方あります。
順番に書きます。
「自分はできる」と唱えると、必要な人ほど気分が下がる
2009年に、唱える型を2つの実験で測った研究があります。
参加した人に「自分は愛される人間だ」という一文を、くり返し唱えてもらいました。
自尊心が低い人は、くり返したあと、くり返さなかった人より気分が下がっています。
自尊心が高い人は、くり返したほうが気分がよくなりました。ただし、その差はかぎられていた。
向きが、割れています。
研究者の結論は、こうです。効く人もいる。でも、いちばん必要とする人には、裏目に出る。
唱えた回数は、証拠になりません。
自尊心を先に上げても、成績は上がらない
では、先に自信をつければいいのか。
2003年に、この問いへ44ページのレビュー論文が答えています。
自尊心と成績のつながりは、わずかでした。しかも向きは、自尊心が成績を生むのではなく、いい成績が一部は自尊心を上げている、というものです。
向きが、逆なのです。
生徒の自尊心を上げる取り組みは、成績が上がったことを示せていません。ときには逆効果になる、とも書かれています。
仕事のほうは、こう書いてあります。うまくいったことが自尊心を上げているのかもしれない。ただし、向きは決まっていない、とも。
「自分は伸びる」という信念のほうも、大きな集計では弱いという結果でした。その数字はセルフイメージとはに書きました。
ただし同じ集計は、成績が苦しい学生や、家庭が恵まれない学生には効くかもしれない、とも書いています。
平均で見ると、先にセルフイメージを上げて、あとから結果が来る、という順番は出てきません。
そこは、動きません。
人は、自分のセルフイメージを守る側に回る
なぜ、唱えるほど気分が下がるのか。
1987年の論文が、期待する側と、自分の見方を守る側のぶつかりをまとめています。守る側の動きが、自己確証です。
見る側が自分の見立てをたしかめようとするのと同じで、見られる側も、自分のセルフイメージをたしかめて、保とうとする。
「自分はだめだ」と思っている人にとって、「自分はできる」という言葉は、守っている自己像と食い違います。
だから本人が、打ち消す側に回る。反対の証拠を思い出して、もとの自己像をたしかめる。
そこで、はじかれます。
言葉は、自己像の外から来ます。自己像は、外から来たものをたしかめてから通す。
だから、通らない。
記録すると、目標の達成率が上がった
では、何が自己像を動かすのか。
ひとつ目は、記録です。
2016年に、目標の進み具合を記録させる実験を138件、19,951人分あつめた分析が出ています。
記録するだけで、目標の達成率が上がりました。効果の大きさは0.40で、95%信頼区間は0.32から0.48です。ゼロをまたぎません。
効き目が大きかったのは、紙などに物理的に記録したときと、人に見せたときでした。
頭の中で「できた」と思うのと、紙に「連絡を返した」と書くのとは、別ものだったのです。
そこに、差が出ました。
自己確証の話とつなぐと、こうなります。
唱えた言葉は、自己像と合わないのではじかれる。でも、やったことの記録は、事実です。本人がたしかめにいっても、そこにある。
記録は、残ります。
セルフイメージに合わない事実が、はじかれないところに残るということです。
紙のほうが、しぶといのです。
意味づけが変わると、3年もった
ふたつ目は、経験の意味づけです。
2011年に、アメリカの大学1年生92人で試した実験があります。アフリカ系49人、ヨーロッパ系43人です。
やったことは——1年目の、約1時間だけ。
「居場所がないと感じるのは、多くの人にある一時的なことだ」という話を、自分の言葉で語り直してもらいました。
「自分はできる」とは、言わせていません。自己像そのものにも、さわっていない。変えたのは、つらい経験の意味づけだけです。
結果は、群のあいだで分かれています。
介入を受けなかった学生では、アフリカ系とヨーロッパ系の3年ぶんの成績の差が0.29点。介入を受けた学生では0.14点でした。52%小さい。
健康の答えも分かれています。介入を受けなかったアフリカ系の学生は、60%が最近医者にかかったと答えました。受けた側は28%です。
どちらも自己申告で、受診の記録ではありません。
ここは、弱いところです。
そして本人たちは、最終学年の調べで、この介入が効いたことに気づいていませんでした。
僕の生活が動いたのも、自分の弱いところと向き合って、一歩踏み出したときでした。運が悪い、と呼んでいたころには、何も動いていません。
ここは、正直に書いておきます。
記録の分析が測ったのは目標の達成率で、意味づけの実験が測ったのは成績と健康の答えです。自己像そのものを測った研究ではありません。
そこをつないでいるのは、僕の読みです。
今日の話をまとめると
セルフイメージは、言葉では書き換わりません。「自分はできる」を唱えた人は、必要な人ほど気分が下がった。自尊心を先に上げても、成績はついてきませんでした。
人は、自分のセルフイメージを守る側に回るからです。
上がったのは、記録したときの目標の達成率です。138の研究・19,951人分で、効果は0.40でした。
そして、経験の意味づけが変わったとき。約1時間の語り直しが、3年ぶんの成績の差に残っています。
言葉より、記録のほうです。
今夜、3分だけ使ってください。今日やったことを、ひとつだけ紙に書く。「できた」「だめだった」の評価はつけず、「連絡を返した」の形で、事実だけを一行。
明日も同じ紙に、一行足す。自己像に合わない事実を、はじかれないところに置くのが目的です。
唱える型と書く型のちがいは、アファメーションは効果ないのかに、実験ごとに書きました。
誰が書いているかは、プロフィールにあります。





