アファメーションを毎朝となえて、3か月。でも、なにも変わらない。
鏡の前で「自分は愛される人間だ」と言ったあとのほうが、すこし落ち込む。
……そういう朝のほうが、多い。
この2つは、たいてい同じ人に起きます。
先に結論を書きます。アファメーションのうち、効かないのは「自分は愛される人間だ」と唱える型で、効いているのは、自分が大事にしている価値を紙に書く型です。
おなじ名前でも、結果は正反対です。
順番に書きます。
唱える型は、自尊心の低い人で逆効果だった
2009年に、唱える型を調査1件と実験2件で調べた論文が出ています。
使った文は「自分は愛される人間だ」。
この実験は、おなじ文の扱い方を4つに割っています。
くり返す。くり返さない。その文が本当だという理由だけを考える。本当でもあり、本当でもないと考える。
自尊心の低い人で気分が悪くなったのは、くり返した人と、本当だという理由だけを考えた人でした。
くり返さなかった人や、本当でもあり本当でもないと考えた人より、悪い。
自尊心の高い人は、くり返すと気分がすこしよくなった。ただし、その改善はかぎられていました。
論文の要旨は、こう結んでいます。ある人には力になる。でも、いちばん「必要としている」人にこそ、はね返る。
調査のパートでは、人々が肯定の言葉をふだんから使い、効くと信じていました。
でも、効くこと自体は、それまで実証されていません。
信じられてはいた。たしかめられてはいなかった。
ここが、出発点です。
参加者の人数と気分の数値は、要旨に出ていません。僕は本文まで開けなかったので、書きません。
同じ言葉に、2つの中身がある
アファメーション(affirmation)は、辞書では「肯定」「断言」です。
自己啓発の分野で「自分の能力や価値を肯定的に認識するための言葉やフレーズ」をさすこともある、と辞書は別の語義として並べています。
辞書は、派生とは書いていません。
ここでは、この2つ目のほうを見ていきます。
2014年の総説によると、心理学の「セルフ・アファメーション」は、たいてい「自分の核となる価値について書く」形をとります。
声に出して唱えるのではなく、紙に書く。
書くと、自分の見え方がひろがって、おびやかされている感じがよわまる。
教育・健康・人間関係の成果が改善し、効果が数年つづくこともある。総説の整理です。
「アファメーションは効果ない」と感じた人がためしたのは、たぶん唱える型です。
実験で効いたという報告は、書く型のほうです。
書く型は、ストレスホルモンを下げた
2005年の研究です。
85人を、ストレスのかかる課題の前に、価値を確認する群と対照の群に分けました。
価値を確認した人は、コルチゾールというストレスホルモンの反応が、対照の人より有意に低かった。
体のほうは、下がった。
ただし、おなじ論文には続きがあります。
気分のほうのストレスがいちばん低かったのは、もともと自尊心や楽観性が高かった人でした。
体の反応と、気分の反応は、おなじ向きではなかったんですよね。
唱える型は、下がってほしくない気分のほうを下げた。書く型は、下げたかったストレスの反応を下げた。
おなじ「下げた」でも、下げたものが逆です。
書く型は、成績まで動かした
2006年に、学校で無作為化の実地実験が2つ行われました。
授業の中で、大事にしている価値について、みじかい作文を書かせた。
それだけで、アフリカ系アメリカ人の生徒の成績が有意に上がり、人種のあいだの成績差が40%ちぢまりました。
2年の追跡では、アフリカ系アメリカ人の生徒のGPAが、平均で0.24点上がっていた。
成績が下位のアフリカ系アメリカ人の生徒では、0.41点です。
その層のうち、補習や留年になったわりあいは5%でした。おなじ層の対照群は18%です。
大学でも、おなじ形の実験があります。
2010年に、物理の入門クラスで、399人を二重盲検で調べた実験です。授業のはじめに、大切な価値を2回書く。
男女の成績差がちぢまり、女子学生でいちばん多い成績が、C帯からB帯に上がった。
ただし、おびやかされていない白人の生徒には、なにも起きていません。
効いたのは、おびやかされている側だけです。
ここは、鏡うつしに見えます。唱える型は、自尊心が低い人ほど、はね返った。書く型は、おびやかされている生徒ほど、効いた。
ただし、この鏡は、そのままでは置けません。
2017年に、効果が出た学区で、おなじ手順のままやり直した追試があります。
効果は、出ませんでした。
効果量0.10より大きい利益は否定できる、という精度です。
広くやったときのもろさを、論文は書いています。
効き目は小さい。でも、行動にいちばん出る
2015年に、健康行動の分野で「大事な価値や持ち味を思い返す」介入の分析が出ています。
書くやり方だけでなく、選ぶ・順位をつけるやり方も入ります。
実験でしらべたものが、144件。
受け入れ・意図・行動のどれにも、ちいさいプラスが確かに出ました。
メッセージの受け入れは34件3,433人で、効果量が0.17。意図は64件5,564人で0.14。行動は46件2,715人で0.32。
いちばん大きいのが、行動です。
だから「気分が上がった感じがしない」は、はずれではないんですよね。効き目は、気分ではなく、そのあとの行動に出ています。
ただし、健康の現場でも、外れた試験があります。
2021年に、血圧の薬をのむ960人を無作為に分けた試験です。診察の直前に、価値を書いてもらった。
薬ののみ方も、血圧も、変わりませんでした。
効くときと、効かないときがある。条件は、まだわかっていない。
今日の話をまとめると
アファメーションは、効かないのではなく、型がふたつある。
唱える型は、自尊心の低い人で気分を下げた。いちばん必要としている場面で、はね返る。
書く型は、85人でストレスホルモンを下げ、学校で成績差を40%ちぢめ、144件の分析で行動を動かした。
ただし、おなじ手順の追試では、効果が出ていません。
唱える型は、いまの自分に言葉をぶつける。書く型は、いまの自分がもっているものをたしかめる。
わかれ目は、口か手かではなく——ここです。
今夜、3分だけ使ってください。自分が大事にしているものを、ひとつだけえらぶ。そして、なぜ大事なのかを、紙に3行だけ書く。
家族でも、正直さでも、仕事の腕でもいいです。
唱えなくても、届きます。
唱える型がなぜ効かないかは、潜在意識は嘘なのかに書きました。聞くだけで自尊心が上がる音声の実験と、いっしょに置いてあります。
願うほうの話は、引き寄せの法則は嘘なのかに置いてあります。
書いている人間のことは、プロフィールにあります。





