天才はなぜ生まれるのか|遺伝率が年齢で上がる理由と、1,528人の追跡でわかったこと

天才はなぜ生まれるのか|遺伝率が年齢で上がる理由と、1,528人の追跡でわかったこと

川は、流れやすいほうを選びつづけて、岩を削る。天才の生まれ方も、同じ形をしている。
川は、流れやすいほうを選びつづけて、岩を削る。天才の生まれ方も、同じ形をしている。

同じ教室で、同じ授業を受けていました。それなのに、ひとりだけ、解き方をもう知っている人がいた。

自分の子どもや部下を見ていて、これは生まれかもしれない、と思ってしまう夜がある。

僕は、その差をつけられる側でした。

先に結論を書きます。天才は、生まれもった傾向に合う環境を自分で選びつづけて、途中でやめなかった人に、あとからつく名前です

生まれの側の数字も、育ちの側の数字も、そろっています。

順番に書きます。

「天才」は、ことばの時点で「生まれ」の話

辞書を引くと、はっきりしています。

デジタル大辞泉生まれつき備わっている、並み外れてすぐれた才能精選版 日本国語大辞典天性の才能。生まれつき備わっている、すぐれた才能どちらも生まれの側から書き出している
二つの辞書が、どちらも生まれの側から書き出している。ことばの時点で、答えの半分は「生まれ」の側にある。

デジタル大辞泉で「天才」は、生まれつき備わっている、並み外れてすぐれた才能。

精選版 日本国語大辞典は、天性の才能、と書き出します。

二つの辞書が、どちらも生まれの側から書き出しています。

天性。生まれつき。

つまり「天才はなぜ生まれるのか」と聞いた時点で、答えの半分は、ことばの側に先に入っているのです。

では、はかった数字はどうか。ここからです。

遺伝の影響は、大人になるほど強くなる

知能の遺伝率は、乳児期で約20%です。

乳児期約20%9歳41%12歳55%17歳66%成人約60%後期成人約80%(可能性乳児期約20%9歳41%12歳55%17歳66%成人約60%後期成人約80%(可能性)
知能の遺伝率は、生まれた直後がいちばん低く、大人になるほど上がる。両端の2点は2015年の総説、9〜17歳の3点は双生児11,000組のメタ分析。80歳以降は約60%に戻るという報告もある。

思春期で40%。成人で60%。

ここまでが、まっすぐ上がっていく線です。

後期成人では80%まで届く可能性がある、と2015年の総説にあります。ただし80歳を超えると、約60%に戻る。上限の80%は、そこまでの留保がついた数字です。

もう少しこまかい数字もあります。

4か国・双生児11,000組で、一般認知能力の遺伝率は、9歳で41%。12歳で55%。17歳で66%。まっすぐ上がっていました。

生まれた直後がいちばん遺伝が濃くて、そこから育ちでうすまっていく——僕も、そう思いこんでいました。

数字は、反対をむいています。

生まれつきで決まるなら、生まれたときがいちばん強いはずです。実際は、大人になるほど強くなる。

ここで、ひとつひっかかります。大人になるほど遺伝が強くなるなら、環境は、だんだん効かなくなるのか。

上がる理由は、人が自分で環境を選ぶから

論文の著者たちは、こう説明しています。

傾向生まれもった傾向がある選ぶ傾向に合う経験を選び、変え、作り出す伸びる選んだ環境が、傾向をさらに伸ばす上がる大人になるほど遺伝率が上がって見える傾向生まれもった傾向がある選ぶ傾向に合う経験を選び、変え、作り出す伸びる選んだ環境が、傾向をさらに伸ばす上がる大人になるほど遺伝率が上がって見える
環境が効かなくなるのではなく、環境を選ぶ側に遺伝が回っている。

子どもは育つにつれて、自分の生まれもった傾向にもとづいて、経験を選び、変え、そして自分でつくり出していく。

本を読むのが苦にならない子は、本のある環境へ行く。体を動かすのが好きな子は、そういう仲間の中に入る。

選んだ環境が、その傾向をさらにのばす。

その、くり返しです。

つまり、環境が効かなくなるのではないです。環境を選ぶ側に、遺伝がまわっている。だから大人になるほど、遺伝率が上がって見える。

天才は生まれか、育ちか。

この二択がずっと決まらなかった理由は、ここなんですよね。生まれもった傾向が、育つ環境を選んでいるからです。

貧しい家では、遺伝がほぼゼロになる

ただし、選べる環境がなければ、このしくみはまわりません。

家庭で共有する環境60%遺伝ほぼゼロ貧しい家庭の数字。裕福な家庭では、結果がほぼ正反対だった。西欧とオーストラリアの研究では、この差はゼロか逆向きだった
アメリカの7歳の双生児。貧しい家庭では、IQのばらつきを説明するのはほぼ家庭の環境で、遺伝の出番がなかった。

2003年に、7歳の双生児で調べた研究があります。アメリカの、貧困層を多くふくむ集団です。

貧しい家庭では、IQのばらつきの60%が、家庭で共有している環境で説明された。遺伝の寄与は、ほぼゼロ。

裕福な家庭では、結果がほぼ正反対でした。

同じ7歳です。

この差は、どこの国でも出るわけではないです。

2016年のメタ分析では、アメリカの研究でこの差がはっきり出て、西欧とオーストラリアの研究ではゼロか、逆向きでした。教育と医療に、どの家庭からも同じように手が届く社会だからだ、と著者たちは書いています。

遺伝率は、その人の中に固定された数字ではなく、社会と、選べる環境の広さで動くことがある数字です。

選べる環境がないところでは、生まれもった傾向は、出番を待ったまま止まる。

天才が生まれない理由のひとつは、生まれの側ではなく、ここにあります。

環境の側です。

知能で選ばれた1,528人を、35年追うと

では、選べる環境があって、傾向も強かった人たちは、どうなったのか。

同じだったもの知能検査の点数差が開いたもの目的をやり遂げる粘り目標に向けて力をまとめること自信劣等感からの自由同じだったもの知能検査の点数差が開いたもの目的をやり遂げる粘り目標に向けて力をまとめること自信劣等感からの自由
知能検査の上位1%として選ばれた1,528人。1940年の追跡のあと、男性のうち最も成功した150人と最も成功しなかった150人をくらべた。

ここも、追った人がいます。

1921年から、アメリカで知能検査の上位1%として選ばれた子ども1,528人(男857・女671)を、35年追った研究です。主な基準はIQ140以上で、下限は135でした。

その第5巻に、1940年の追跡のあとでおこなわれた分析が、要約されています。

男性のうち、もっとも成功した150人と、もっとも成功しなかった150人をくらべたものです。

知能検査の点は、ちがいませんでした。

差がいちばんひらいたのは、4つです。目的をやり遂げる粘り。目標に向けて力をまとめること。自信。劣等感からの自由。

分けたのは知能ではなく、やめなかったかどうかでした。

粘りです。

ちなみに、この1,528人が全体として期待どおりの業績を出したかというと、そうではありません。そこは天才と秀才の違いに書きました。

同じシリーズの第2巻には、歴史上の人物301人の、子どものころの記録からIQを推定した研究があります。結論は、こうでした。

知能が最高ではなくても、粘り強さが最大級だった人。

その人のほうが、知能は最高でも、粘り強さがそれに少し劣る人より、高い名声に達する。

粘りのほうが、上に行く。

生まれもった傾向は、入口までを決める。そのあとを決めたのは、粘りの側でした。

今日の話をまとめると

天才は、ことばの上では「生まれつき」です。

生まれで決まる、と止まる辞書の「生まれつき」で止まる。選べる環境がなければ、傾向は出番を待ったま合う環境を選んで、やめない傾向がもう出番を得ている場所を見つける。分かれ目は知能ではなく、粘りと自生まれで決まる、と止まる辞書の「生まれつき」で止まる。選べる環境がなければ、傾向は出番を待ったまま合う環境を選んで、やめない傾向がもう出番を得ている場所を見つける。分かれ目は知能ではなく、粘りと自信
この記事の着地。生まれで止まるのではなく、傾向が出番を得る環境を決めて、やめない。

でも、数字の動きはこうでした。

遺伝率は乳児期の約20%から、成人で約60%へ上がる。後期成人では80%に届くという報告もあります。

上がる理由は、人が自分の傾向に合う環境を選びつづけるから。貧しい家では、その遺伝率がほぼゼロまでしずむ。

そして知能で選ばれた1,528人の中でも、わかれ目は知能ではなく、粘りと自信でした。

生まれで決まっているのではないです。

決めているのは、生まれたあとに選んだ環境と、やめなかった時間のほうです。

今夜、3分だけ使ってください。放っておいても、ついやってしまっていることを、ひとつ書き出す。

才能をさがすのではなく、生まれもった傾向がもう出番を得ている場所を見つけるのが目的です。

生まれつきの脳のタイプ、という話が引っかかっている人は、右脳と左脳の違いを読んでください。1,011人の脳を調べても、そのタイプは出てきませんでした。

書いている人間がどこから来たかは、プロフィールに書いてあります。

出典・参考文献

  1. 小学館. 天才. デジタル大辞泉/精選版 日本国語大辞典(コトバンク収録).
  2. Plomin R, Deary IJ. Genetics and intelligence differences: five special findings. Molecular Psychiatry 2015;20(1):98-108.
  3. Haworth CMA, Wright MJ, Luciano M, et al. The heritability of general cognitive ability increases linearly from childhood to young adulthood. Molecular Psychiatry 2010;15(11):1112-1120.
  4. Turkheimer E, Haley A, Waldron M, D'Onofrio B, Gottesman II. Socioeconomic status modifies heritability of IQ in young children. Psychological Science 2003;14(6):623-628.
  5. Tucker-Drob EM, Bates TC. Large cross-national differences in Gene × Socioeconomic Status interaction on intelligence. Psychological Science 2016;27(2):138-149.
  6. Terman LM, Oden MH. The Gifted Group at Mid-Life: Thirty-Five Years' Follow-Up of the Superior Child (Genetic Studies of Genius, Vol. V). Stanford University Press 1959;5:2-3, 148-149.(148〜149頁は、1940年の追跡のあとにおこなわれた分析の要約)
  7. Terman LM, Oden MH. The Gifted Child Grows Up (Genetic Studies of Genius, Vol. IV). Stanford University Press 1947.(150人ずつの比較の初出)
  8. Cox CM. The Early Mental Traits of Three Hundred Geniuses (Genetic Studies of Genius, Vol. II). Stanford University Press 1926;2:187.

生まれの側の数字も、育ちの側の数字も、同じ基準で並べています。数字は一次資料を開いて確かめたものだけです。ターマンの150人ずつの比較は1959年の第5巻148〜149頁で確かめましたが、そこに要約されているのは1940年の追跡のあとの分析で、初出は1947年の第4巻です。

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