右脳を鍛える訓練に根拠はあるのか|文献4件の正体と、脳が実際に変わる条件

右脳を鍛える訓練に根拠はあるのか|文献4件の正体と、脳が実際に変わる条件

鍛えて変わるのは、脳の右半分ではない。続けた対象そのものに対応する、小さな部分だけが変わる。
鍛えて変わるのは、脳の右半分ではない。続けた対象そのものに対応する、小さな部分だけが変わる。

右脳を鍛えるドリルを買って、三日でやめた人。右脳を鍛えるアプリを入れて、どこがかわったのかわからないまま消した人。

右脳を鍛えると発想がよくなる、と教材は書いています。

僕は、その根拠になっている論文を、さがしに行きました。

先に結論を書きます。右脳を鍛える訓練で右脳が強くなった、としめした査読つきの論文はみつかっておらず、脳がかわるのは、うまくなりたい対象そのものをつづけたときだけです

順番に書きます。

「右脳を鍛える」の論文を、探した

日本の学術誌のデータベースで、題名に「右脳を鍛える」がはいる文献をさがしました。

4件題名「右脳を鍛える」4件とも2006年の、エンジン計算の資料7件題名 right-brain+training/education4件はリハビリ、2件は教育、1件は右半球の役割を測った研究出典: J-STAGE/Europe PMC 題名検索(2026年9月)4件題名「右脳を鍛える」4件とも2006年の、エンジン計算の資料7件題名 right-brain+training/education4件はリハビリ、2件は教育、1件は右半球の役割を測った研究出典: J-STAGE/Europe PMC題名検索(2026年9月)
題名で探した結果。日本の4件はエンジン計算の資料、英語の7件はどれも、鍛えて右脳が強くなったかを測ったものではなかった。

でてきたのは、4件です。

4件とも、2006年の機械学会の年次大会の資料でした。中身は、エンジンの中の流れを計算する話です。

脳の話では、ありません。

「右脳」だけでさがすと、49件です。神経の病気、リハビリ、随想が中心でした。

題名に「右脳を鍛えて」とある1件も、その中にありました。2013年の鋳造工学にのった、2ページの随想です。

研究では、ありません。

英語でもさがしました。題名に「right-brain」と「training」か「education」がはいる論文は、7件です。

内訳を書きます。

右脳を損傷した人のリハビリが、4件。医学教育と患者への教育が、あわせて2件。

残る1件だけが、健康な人を測っていました——2001年の、ロシアの研究です。

コンピュータの操作を4時間訓練させ、そのあいだ右半球が何をしているかを測っています。

結論は、右半球の役割は情報の受け取りと一次処理までで、活動水準の補正にはかかわっていない、でした。

鍛えて右脳が強くなったかを測った研究は、7件の中にゼロです。

国語辞典の「右脳」の項目も、ひらきました。

右脳は、大脳半球の右側の通称で、左半身を制御する。

図形や音楽の認識にかかわる、という説明は「〜ともいわれる」の補説だけでした。

市販の教材が根拠にしている論文そのものには、たどり着けていません。だから、教材が嘘だとは書きません。

書けるのは、そこまで。

そもそも「右脳が弱い人」はいるのか

右脳を鍛える、ということばは、「右脳が弱い人がいる」という想定の上に立っています。

教材が置いている想定右脳が弱い人がいるだから、右脳を鍛える必要がある脳画像のデータかたよりは、部位ごとにある人ぜんたいが右寄り・左寄りになる型は、出てこない教材が置いている想定右脳が弱い人がいるだから、右脳を鍛える必要がある脳画像のデータかたよりは、部位ごとにある人ぜんたいが右寄り・左寄りになる型は、出てこない
右脳を鍛える、ということばが立っている土台と、脳画像のデータが示したもの。

その想定に、根拠が、ないのです。

脳の左右のかたよりは、部位ごとにあります。ただし、人ぜんたいが右寄り・左寄りになる型は、データに出てきません。

数字は、右脳と左脳の違い右脳・左脳診断は当たるのかにならべました。

右脳が弱い人は、データの側にはいません。

それでも、この話はきえません。

2012年に、脳科学に関心のある教師にきいた調査があります。脳の知識が多い教師ほど、神経神話も信じやすい、という結果でした。

脳の知識を足しても、神経神話は、きえないのです。

脳トレは、やった課題にしか効かない

では、右脳ということばを外して、脳を鍛える訓練そのものは効くのか。

訓練していない課題効果は移らなかった。認知的に近い課題でも、移らない訓練した課題全部が上達した。11,430人・6週間・週に数回のオンライン訓練訓練していない課題効果は移らなかった。認知的に近い課題でも、移らない訓練した課題全部が上達した。11,430人・6週間・週に数回のオンライン訓練
11,430人が6週間。上達したのは、やった課題だけだった。

いちばん大きな実験が、2010年にあります。

11,430人が、6週間、週に数回、オンラインで課題を訓練しました。推論、記憶、計画、視空間、注意の課題です。

やった課題は、ぜんぶ上達しました。

ただし、やっていない課題には、なにも移りませんでした。認知的に近い課題でも、移らなかった。

上達は、そこまでです。

2016年には、脳トレ企業が根拠にした論文を点検した報告がでました。

結論は、こうです。

やった課題は、上達する。

近い課題への効果は、それより少ない。

遠い課題と、日常の認知機能がよくなる証拠は、ほとんどない。

しかも、どの研究も、いちばんいい設計の基準を満たしていませんでした。

遠くへは、移らない

別の角度から数えた研究も、あります。

近い転移(伸びた)言葉のワーキングメモリ視空間のワーキングメモリ訓練の直後に、確認できた遠い転移(出なかった)知能読解・算数訓練で伸びた量と、遠い転移の大きさに関連は無かった近い転移(伸びた)言葉のワーキングメモリ視空間のワーキングメモリ訓練の直後に、確認できた遠い転移(出なかった)知能読解・算数訓練で伸びた量と、遠い転移の大きさに関連は無かった
87報・145の比較。近い課題は伸びる。遠い課題は、対照群と比べて信頼できる改善が無かった。

2016年に、ワーキングメモリの訓練の研究87報、145の比較をまとめた分析がでています。

訓練の直後、近い課題は伸びました。ことばのワーキングメモリと、視空間のワーキングメモリです。

でも、知能、読解、算数への「遠い転移」は、対照群とくらべて、信頼できる改善がありませんでした。

ワーキングメモリがどれだけ伸びたかと、遠い転移の大きさにも、関連はありませんでした。

2017年には、チェス、音楽、ワーキングメモリ訓練の3つのメタ分析をならべた論文がでています。

効果の大きさは、実験の質が高いほど小さくなっていました。

結論は、遠い転移はめったに起きない、でした。

右脳を鍛えて、仕事や発想がよくなる。その道は、数えたかぎり、つながっていません。

変わるのは、使った部分だけ

脳がかわらない、という話ではありません。

ジャグリングを覚えた人変わったのは、複雑な視覚の動きを処理して保存する領域一時的で、選択的な変化2004年・MRIで追跡ロンドンのタクシー運転手海馬の後ろの部分が、対照群より大き前のほうの海馬は、対照群のほうが大きい大きさは、運転手歴の長さと相関2000年ジャグリングを覚えた人変わったのは、複雑な視覚の動きを処理して保存する領域一時的で、選択的な変化2004年・MRIで追跡ロンドンのタクシー運転手海馬の後ろの部分が、対照群より大きい前のほうの海馬は、対照群のほうが大きい大きさは、運転手歴の長さと相関2000年
続けた対象がちがえば、変わる場所もちがう。変わったのは、どちらも局所だった。

2004年に、ジャグリングをおぼえた成人の脳をMRIで追った研究があります。かわったのは、複雑な視覚の動きを処理して保存する領域だけ。

一時的で、選択的な変化。

2000年には、ロンドンのタクシー運転手の脳をしらべた研究があります。運転手は対照群より、海馬の後ろの部分が大きかった。その大きさは、運転手歴の長さと相関していました。

ただし、前のほうの海馬は逆で、対照群のほうが大きかった。

増えたというより、配分がちがっていたのです。

かわったのは、どちらの研究でも局所でした。

論文はこう書いています。健康な成人の脳は、環境の求めに応じて、局所的に構造がかわる。

かわるのは、いつも、つづけた対象そのものに対応する部分だけです

練習も、万能ではない

練習を持ち上げすぎない数字も、あります。

ゲーム26%音楽21%スポーツ18%教育4%出典: Macnamara et al. 2014。職業は1%未満
「意図的な練習」がパフォーマンスの差を説明する割合。どれも、対象そのものを練習した場合の数字。

2014年の分析では、「意図的な練習」がパフォーマンスの差を説明する割合は、ゲームで24%、音楽で23%、スポーツで20%、教育で5%、職業では1%でした。

この5つは、2018年の正誤表で置きかわったあとの値です。

練習は大事だが、いわれてきたほどではない。それが、この分析の結論。

ただし、この数字はぜんぶ、対象そのものを練習したときの数字です。

間接的に鍛える発想には、数字がありません。測った研究が、ないのです。

今日の話をまとめると

右脳を鍛える訓練で右脳が強くなった、としめした査読つきの論文は、みつかっていません。

右脳を鍛える右脳が強くなったと示した論文は、見つからない。効果は、やった課題の外へ移らない対象そのものをやるジャグリングの場所、道を覚える場所。続けた対象に対応する部分だけが変わる右脳を鍛える右脳が強くなったと示した論文は、見つからない。効果は、やった課題の外へ移らない対象そのものをやるジャグリングの場所、道を覚える場所。続けた対象に対応する部分だけが変わる
この記事の着地。鍛える場所は右脳ではなく、うまくなりたいことそのもの。

11,430人が6週間鍛えても、上達はやった課題の外へ移りませんでした。87報をあつめても、遠い転移はでませんでした。

脳がかわっていたのは、ジャグリングをつづけた人の、ジャグリングのところ。道を走りつづけた人の、道をおぼえるところです。

だから、右脳ではないのです。鍛える場所は、うまくなりたいことそのものです。

今夜、3分だけ使ってください。うまくなりたいことを、ひとつだけ書き出す。

海馬の後ろの大きさと釣り合っていたのは、運転手歴の長さでした。

やった課題だけが上達する、という同じ形の話は、速読は意味ないのかでもでてきます。

だれが書いているのかは、プロフィールに置いてあります。

出典・参考文献

  1. 科学技術振興機構. J-STAGE 論文タイトル検索「右脳を鍛える」(4件). 2026年9月3日検索.
  2. 科学技術振興機構. J-STAGE 論文タイトル検索「右脳」(49件). 2026年9月3日検索.
  3. 鳥越猛. 右脳を鍛えて未来を拓こう(随想). 鋳造工学 2013;85(3):186-187.
  4. Europe PMC. 題名検索 "right-brain" AND (training OR education)(7件). 2026年9月3日検索.
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  16. Macnamara BN, Hambrick DZ, Oswald FL. Corrigendum: Deliberate practice and performance in music, games, sports, education, and professions: a meta-analysis. Psychological Science 2018;29(7):1202-1204.(この記事の分野別の数字は、こちらの訂正後の値)

右脳を鍛える教材を否定するために集めた資料ではありません。検索の日付と件数は、そのまま書いています。数字は、一次資料の要旨か本文を開いて確認できたものだけを書いています。2014年のメタ分析だけは要旨の値が古いので、2018年の正誤表(Psychological Science 29(7):1202-1204)の訂正後の値を使っています。

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