「超心理学 論文」で検索して、いちばん上の1本を読み、やっぱりあるんだと思った人。批判されているらしいと聞いて、開かずに閉じた人。
僕は、どちらもやったことがあります。
先に結論を書きます。超心理学の論文は、1本では読みません。肯定する論文と、同じ号に載った批判と、独立した追試を、三点でそろえて開きます。
三点がそろうと、同じデータから正反対の結論が出ている現場を、自分の目で見られるのです。
順番に書きます。
超心理学の論文は、心理学の雑誌に載っている
まず、置きどころの話。
辞書をひくと、超心理学は「心理学の一部門」とあります。テレパシー・透視・予知・念力をあつかう分野です。
心理学の事典のほうは、もうすこし細かい。ラインという研究者が、むかしの心霊研究を、実験心理学のやり方に載せかえた、とあります。
やり方は、ふつうの心理学と同じ。ふつうの人を被験者にして、統計にかけます。
だから論文は、オカルトの本ではなく、心理学の学術誌に載ります。
ここが、入口です。
1本目、肯定する論文
2011年、社会心理学の学術誌に、9つの実験をまとめた論文が載りました。著者はベム。参加者は、あわせて1,000人をこえます。
調べたのは、まだ起きていない刺激が、いまの反応に影響するかどうか。時間のむきだけを逆にした実験です。
結果は、こうでした。効果量の平均は0.22。9つの実験のうち、8つで有意。
数字だけ見れば、予知はあります。
ここで読むのをやめると、「やっぱりある」で終わるんですよね。
この1本が心理学そのものに何をしたかは、超心理学と心理学の違いに書きました。ここで開くのは、そのうしろの2本です。
2本目、同じ号に載った批判
その論文のすぐうしろのページに、批判が載っています。同じ雑誌の、同じ号です。
批判の中身は、超能力の否定ではなく、数え方でした。
解析の一部が、あとから決められていたこと。まぐれの起きやすさを片側だけで数えると、証拠が大きく見えること。この2つです。
そして批判した側は、同じデータ——著者が出したそのままの数字——を、ベイズ流のt検定で計算しなおしました。出た答えは「証拠は弱いか、存在しない」。
疑う相手を説得したいなら、確かめるためだけの研究を組め。あまい検定で見るな。そう、むすんでいます。
同じ年、別のふたりも計算しなおしました。実験をまとめて、ひとつのベイズ因子にする方法です。
ベイズ因子は、どちらの説明が確からしいか、の比。1に近いほど、どちらとも言えない。
中立の刺激で3.23。エロティックな刺激で1.57。エロティックでない、感情のある刺激では、およそ40。
40は、目をひく数字です。それでも、超能力への疑いをくつがえすには、桁が足りない。ふたりは、そう書きます。
同じデータを見て、片方は「ある」と書き、片方は「弱いか存在しない」と書いている。
ここまでで、2本です。
3本目、独立した追試
2012年、イギリスの3つの研究室が、それぞれ追試をしました。エディンバラ、ゴールドスミス、ハートフォードシャーの3か所です。
こちらは、事前登録つき。はじめる前に仮説と数え方を登録して、あとから変えられなくしておく手つづきです。
元の論文の実験9と、ほぼ同じ手つづき。3つあわせて150人。統合したp値は、片側で0.83。
効果は、出ませんでした。3か所とも、です。
同じ年、もっと大きな追試も出ています。7つの実験、3,289人。元の実験8と9を、そのままくり返したものです。
元の論文の効果は、再現できませんでした。7つ分をまとめた効果量は、0.01を下回っています。
同じ著者たちが、元の論文の2つの実験と、ほかの研究者の追試10本もあわせました。19の実験、4,091人。まとめた効果量は0.04で、ゼロと変わらない。
載った雑誌も、元の論文と同じでした。
なお、3,289人のほうに事前登録の記載は、たどれませんでした。
1,000人超で0.22。3,289人で0.01未満。人数がふえて、効果が減ったのです。
まとめても、まだ割れる
ここで話が終われば、楽なのです。終わりません。
2015年に出て、翌年に改訂されたメタ分析があります。元の論文の著者たちが、90の実験をあつめました。33の研究室、14か国。効果量は0.09で、zは6.40。
著者自身をのぞき、独立した追試だけにしても0.06。効果を0.01まで下げるには、未発表の実験が544本ないと足りない、と計算しています。
肯定する側は「小さいけれど、ある」をくずしていません。
同じ構図は、ひとつ前にもありました。2010年の、自由反応実験のメタ分析です。
1997年から2008年のガンツフェルト研究29本で、効果量は0.142。ガンツフェルトは、目と耳をふさいで、入ってくる刺激を減らす手つづきです。
雑音を減らす手つづきをつかった、ガンツフェルト以外の16本は0.110。こちらもプラスでした。
ただし、同じ論文の中で、標準的な自由反応研究14本は、効果量が−0.029です。マイナスでした。
そして、この論文のすぐうしろにも、批判が載っています。
外れ値をたくさんのぞき、データベースを合成して、見かけの均質さをつくっている。せいぜい、再現できる超能力実験のレシピを出しただけだ、と。
きびしい言いかたです。
2018年にも、別の学術誌に肯定のレビューが載り、2年後、同じ雑誌に反論が出ました。
超能力の主張は真ではありえないので、支持するデータは、方法が弱いか、偶然のあたりを本物と見まちがえたかだ、と。
ちがうのは、数字ではありません。
同じ数字を前にして、片方は「積みあがった」と読み、片方は「何も積みあがっていない」と読む。
読み方のほうが、はじめからちがうのです。
今日の話をまとめると
超心理学の論文は、1本で読むと、結論は、読んだその1本の側にかたむきます。
1,000人超で0.22。同じ号のベイズ因子で3.23。3,289人の追試で0.01未満。それでも90実験のまとめでは0.09。
この4つの数字は、ぜんぶ本物です。どれか1つだけ持ち帰ると、ほかの3つが見えなくなる。
それが、落とし穴です。
……だから、三点で開きます。
今夜、5分だけ使ってください。この記事の出典から2011年の論文を開いて、被験者数と、効果量と、追試の有無を、紙1枚に書き出す。
読むのは、あとでいいのです。
3つの数字がならんだ紙があれば、「超心理学の論文で証明された」と聞いたとき、どの1本の話なのかを、自分でたしかめられます。
引き寄せの側を同じやり方で見るなら、引き寄せの法則の科学的根拠を先に読んでください。





