超心理学の論文は1本で読まない|同じ号の批判と、3,289人の追試を三点で開く

超心理学の論文は1本で読まない|同じ号の批判と、3,289人の追試を三点で開く

肯定する論文と、おなじ号の批判と、追試。三本そろって、はじめて一つの話として読めます。
肯定する論文と、おなじ号の批判と、追試。三本そろって、はじめて一つの話として読めます。

「超心理学 論文」で検索して、いちばん上の1本を読み、やっぱりあるんだと思った人。批判されているらしいと聞いて、開かずに閉じた人。

僕は、どちらもやったことがあります。

先に結論を書きます。超心理学の論文は、1本では読みません。肯定する論文と、同じ号に載った批判と、独立した追試を、三点でそろえて開きます

三点がそろうと、同じデータから正反対の結論が出ている現場を、自分の目で見られるのです。

順番に書きます。

超心理学の論文は、心理学の雑誌に載っている

まず、置きどころの話。

辞書の定義いまの科学では説明できない精神現象を研究する、心理学の一部門あつかうものテレパシー・透視・予知・念力やり方ふつうの人を被験者にして、たくさんの資料を統計で処理するだから載る場所オカルトの本ではなく、心理学の学術誌出典: コトバンク「超心理学」(大辞泉・心理学事典・ブリタニカ)
超心理学は心理学の一部門。だから論文の置きどころも、心理学の学術誌になる。

辞書をひくと、超心理学は「心理学の一部門」とあります。テレパシー・透視・予知・念力をあつかう分野です。

心理学の事典のほうは、もうすこし細かい。ラインという研究者が、むかしの心霊研究を、実験心理学のやり方に載せかえた、とあります。

やり方は、ふつうの心理学と同じ。ふつうの人を被験者にして、統計にかけます。

だから論文は、オカルトの本ではなく、心理学の学術誌に載ります。

ここが、入口です。

1本目、肯定する論文

2011年、社会心理学の学術誌に、9つの実験をまとめた論文が載りました。著者はベム。参加者は、あわせて1,000人をこえます。

9実験1,000人超が参加時間のむきを逆にした実験0.22効果量の平均9つの実験のうち8つで有意出典: Bem 2011, JPSP 100(3):407-4259実験1,000人超が参加時間のむきを逆にした実験0.22効果量の平均9つの実験のうち8つで有意出典: Bem 2011, JPSP100(3):407-425
1本目だけ読むと、こう見える。数字は本物で、ここで止まると「ある」で終わる。

調べたのは、まだ起きていない刺激が、いまの反応に影響するかどうか。時間のむきだけを逆にした実験です。

結果は、こうでした。効果量の平均は0.22。9つの実験のうち、8つで有意。

数字だけ見れば、予知はあります。

ここで読むのをやめると、「やっぱりある」で終わるんですよね。

この1本が心理学そのものに何をしたかは、超心理学と心理学の違いに書きました。ここで開くのは、そのうしろの2本です。

2本目、同じ号に載った批判

その論文のすぐうしろのページに、批判が載っています。同じ雑誌の、同じ号です。

3.23中立の刺激1.57エロティックな刺激約40感情のある刺激エロティックなものを除く桁で見る数字。40でも足りない、というのが批判の結論。出典: Rouder& Morey 20113.23中立の刺激1.57エロティックな刺激約40感情のある刺激エロティックなものを除く桁で見る数字。40でも足りない、というのが批判の結論。出典: Rouder& Morey 2011
同じデータを計算しなおしたベイズ因子。どちらの説明が確からしいかの比で、1に近いほど、どちらとも言えない。

批判の中身は、超能力の否定ではなく、数え方でした。

解析の一部が、あとから決められていたこと。まぐれの起きやすさを片側だけで数えると、証拠が大きく見えること。この2つです。

そして批判した側は、同じデータ——著者が出したそのままの数字——を、ベイズ流のt検定で計算しなおしました。出た答えは「証拠は弱いか、存在しない」。

疑う相手を説得したいなら、確かめるためだけの研究を組め。あまい検定で見るな。そう、むすんでいます。

同じ年、別のふたりも計算しなおしました。実験をまとめて、ひとつのベイズ因子にする方法です。

ベイズ因子は、どちらの説明が確からしいか、の比。1に近いほど、どちらとも言えない。

中立の刺激で3.23。エロティックな刺激で1.57。エロティックでない、感情のある刺激では、およそ40。

40は、目をひく数字です。それでも、超能力への疑いをくつがえすには、桁が足りない。ふたりは、そう書きます。

同じデータを見て、片方は「ある」と書き、片方は「弱いか存在しない」と書いている。

ここまでで、2本です。

3本目、独立した追試

2012年、イギリスの3つの研究室が、それぞれ追試をしました。エディンバラ、ゴールドスミス、ハートフォードシャーの3か所です。

元の論文(2011)9つの実験・1,000人超効果量の平均は0.229つの実験のうち8つで有意追試(2012)7つの実験・3,289人まとめた効果量は0.01を下回る載った雑誌は、元の論文と同じ元の論文(2011)9つの実験・1,000人超効果量の平均は0.229つの実験のうち8つで有意追試(2012)7つの実験・3,289人まとめた効果量は0.01を下回る載った雑誌は、元の論文と同じ
同じ手つづきを、3,289人でくり返した。効果量は0.22から0.01未満へ。載った雑誌は同じ。

こちらは、事前登録つき。はじめる前に仮説と数え方を登録して、あとから変えられなくしておく手つづきです。

元の論文の実験9と、ほぼ同じ手つづき。3つあわせて150人。統合したp値は、片側で0.83。

効果は、出ませんでした。3か所とも、です。

同じ年、もっと大きな追試も出ています。7つの実験、3,289人。元の実験8と9を、そのままくり返したものです。

元の論文の効果は、再現できませんでした。7つ分をまとめた効果量は、0.01を下回っています。

同じ著者たちが、元の論文の2つの実験と、ほかの研究者の追試10本もあわせました。19の実験、4,091人。まとめた効果量は0.04で、ゼロと変わらない。

載った雑誌も、元の論文と同じでした。

なお、3,289人のほうに事前登録の記載は、たどれませんでした。

1,000人超で0.22。3,289人で0.01未満。人数がふえて、効果が減ったのです。

まとめても、まだ割れる

ここで話が終われば、楽なのです。終わりません。

201029本のまとめで0.142。すぐうしろの頁で批判20111,000人超で0.22。同じ号で批判20123,289人の追試で0.01未満2015→1690実験のまとめで0.092018実在を支持するレビュー2020「真ではありえない」と反論201029本のまとめで0.142。すぐうしろの頁で批判20111,000人超で0.22。同じ号で批判20123,289人の追試で0.01未満2015→1690実験のまとめで0.092018実在を支持するレビュー2020「真ではありえない」と反論
肯定と批判が、同じ号か、同じ雑誌で対になって出つづけている。決着ではなく、対のまま。

2015年に出て、翌年に改訂されたメタ分析があります。元の論文の著者たちが、90の実験をあつめました。33の研究室、14か国。効果量は0.09で、zは6.40。

著者自身をのぞき、独立した追試だけにしても0.06。効果を0.01まで下げるには、未発表の実験が544本ないと足りない、と計算しています。

肯定する側は「小さいけれど、ある」をくずしていません。

同じ構図は、ひとつ前にもありました。2010年の、自由反応実験のメタ分析です。

1997年から2008年のガンツフェルト研究29本で、効果量は0.142。ガンツフェルトは、目と耳をふさいで、入ってくる刺激を減らす手つづきです。

雑音を減らす手つづきをつかった、ガンツフェルト以外の16本は0.110。こちらもプラスでした。

ただし、同じ論文の中で、標準的な自由反応研究14本は、効果量が−0.029です。マイナスでした。

そして、この論文のすぐうしろにも、批判が載っています。

外れ値をたくさんのぞき、データベースを合成して、見かけの均質さをつくっている。せいぜい、再現できる超能力実験のレシピを出しただけだ、と。

きびしい言いかたです。

2018年にも、別の学術誌に肯定のレビューが載り、2年後、同じ雑誌に反論が出ました。

超能力の主張は真ではありえないので、支持するデータは、方法が弱いか、偶然のあたりを本物と見まちがえたかだ、と。

ちがうのは、数字ではありません。

同じ数字を前にして、片方は「積みあがった」と読み、片方は「何も積みあがっていない」と読む。

読み方のほうが、はじめからちがうのです。

今日の話をまとめると

超心理学の論文は、1本で読むと、結論は、読んだその1本の側にかたむきます。

被験者数何人でやった実験なのか効果量0.22なのか、0.01未満なのか追試の有無ほかの研究室が、もう一度やっているか書き出す先は、紙1枚。出典は、この記事の末尾にあります
今夜つくるのは、この紙1枚。読むのはあとでいい。書き出す項目は、3つだけ。

1,000人超で0.22。同じ号のベイズ因子で3.23。3,289人の追試で0.01未満。それでも90実験のまとめでは0.09。

この4つの数字は、ぜんぶ本物です。どれか1つだけ持ち帰ると、ほかの3つが見えなくなる。

それが、落とし穴です。

……だから、三点で開きます。

今夜、5分だけ使ってください。この記事の出典から2011年の論文を開いて、被験者数と、効果量と、追試の有無を、紙1枚に書き出す。

読むのは、あとでいいのです。

3つの数字がならんだ紙があれば、「超心理学の論文で証明された」と聞いたとき、どの1本の話なのかを、自分でたしかめられます。

引き寄せの側を同じやり方で見るなら、引き寄せの法則の科学的根拠を先に読んでください。

出典・参考文献

  1. Bem DJ. Feeling the future: experimental evidence for anomalous retroactive influences on cognition and affect. Journal of Personality and Social Psychology 2011;100(3):407-425.
  2. Wagenmakers EJ, Wetzels R, Borsboom D, van der Maas HL. Why psychologists must change the way they analyze their data: the case of psi: comment on Bem (2011). Journal of Personality and Social Psychology 2011;100(3):426-432.
  3. Rouder JN, Morey RD. A Bayes factor meta-analysis of Bem's ESP claim. Psychonomic Bulletin & Review 2011;18(4):682-689.
  4. Ritchie SJ, Wiseman R, French CC. Failing the future: three unsuccessful attempts to replicate Bem's 'retroactive facilitation of recall' effect. PLoS ONE 2012;7(3):e33423.
  5. Galak J, LeBoeuf RA, Nelson LD, Simmons JP. Correcting the past: failures to replicate ψ. Journal of Personality and Social Psychology 2012;103(6):933-948.
  6. Bem D, Tressoldi PE, Rabeyron T, Duggan M. Feeling the future: A meta-analysis of 90 experiments on the anomalous anticipation of random future events. F1000Research 2016;4:1188(初版は2015年10月30日、version 2 は2016年1月29日).
  7. Storm L, Tressoldi PE, Di Risio L. Meta-analysis of free-response studies, 1992-2008: assessing the noise reduction model in parapsychology. Psychological Bulletin 2010;136(4):471-485.
  8. Hyman R. Meta-analysis that conceals more than it reveals: comment on Storm et al. (2010). Psychological Bulletin 2010;136(4):486-490.
  9. Cardeña E. The experimental evidence for parapsychological phenomena: A review. American Psychologist 2018;73(5):663-677.
  10. Reber AS, Alcock JE. Searching for the impossible: Parapsychology's elusive quest. American Psychologist 2020;75(3):391-399.
  11. コトバンク「超心理学」(デジタル大辞泉/最新 心理学事典/ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の各項を収載).

肯定する側の論文4本と、批判する側の論文6本を、どちらも一次資料で開いています。数字は抄録か本文で確かめたものだけで、抄録にない数字は書いていません。

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