「波動が合わない」と言われて、返すことばが出てこなかった人。波動を上げる商品の説明を読んで、さいふを出す手前で止まった人。
僕は、波動ということばを使う側の人間です。それでも、このことばで売られているものには、さいふを出しません。
先に結論を書きます。うさんくさいのは「波動」ということばではなく、測れていないものを測ったことにして、効果をうたっているところです。
ことばの中身は、名前を変えればのこります。
順番に書きます。
物理の「波動」は、定義のあることば
まず、辞書を3つひきました。
デジタル大辞泉は「空間の一部に生じた状態の変化が、次々に周囲に伝わっていく現象」。精選版日本国語大辞典も、世界大百科事典も、ほぼおなじ書き方です。
変化が、となりへ、そのとなりへ。それが、物理でいう波動です。
ここまでは、物理です。
うさんくさいところは、ありません。
問題は、スピリチュアルの「波動」が、この定義と切れていることです。
使う側は、人や場所の状態のよしあしをさすのに、物理とおなじことばを借りている。なにがどうつたわるのかは、どこにも書かれていない。
ことばは本物で、測り方だけが抜けています。
東京都が「波動」の商品10件を調べた結果
この、測り方の抜けた効果の表示を、おおやけの機関が調べています。
きっかけは、相談でした。都内の消費生活センターに、波動や情報転写をうたった商品の相談が、4年間で80件。いちばん多いのは、マルチ商法の相談で32件。全体の4割です。
2009年6月、東京都が、その表示を調べました。景品表示法の目です。調べたのは10件。カタログが1件、雑誌広告が7件、ネットの表示が2件でした。
商品は、置物が1つ、機器が4つ。あとは、ボール、マグカップ、ご飯茶碗、スプレー、水でした。
東京都は事業者に、根拠の資料を出させました。
結果は、こうでした。出された資料は表示の内容と対応しておらず、効果の表示は客観的な根拠に基づくものとは認められなかった。10件すべてで、です。
資料を出さなかった事業者もいた、とも書いてあります。
波動が体にどう作用するのか。そのしくみを検証した資料は、ひとつもありません。
報告書にも、物理の波動の定義が書いてあります。
『水からの伝言』と、江本勝の実験
波動の話で、いちばんひろまったお話があります。
「ありがとう」のようないい言葉を見せた水は、きれいな結晶をつくる。「ばかやろう」のようなわるい言葉を見せた水は、きたない結晶になる。
それを写真で見せたのが『水からの伝言』という写真集で、そのあとに出た『水は答えを知っている』が、ベストセラーになりました。
2006年、学習院大学の物理学者、田崎晴明が書いています。これは「今の科学ではまだわからないこと」ではなく、「今の科学で、まちがっていると断言できるもの」だ、と。
『水は答えを知っている』にある「言葉の出す『波動』」の説明は、科学として見るかぎり、意味をなさない。実験は温度も過飽和度も一定にしていないので、出てくるのは思いこみがつくった「みかけ」だ、とも。
では、著者の側に実験はないのか。
あります。2006年に、江本勝本人を共著者に入れた二重盲検の試験が出ています。
東京の約2,000人がカリフォルニアの水にいい意図をおくり、100人が結晶の写真の美しさを採点した。意図をおくった水のほうが、高い点でした。片側のp値は0.001です。
ただし、著者たち自身がこれを「パイロット試験」と呼んでいます。予備の試験、ということです。
2008年の追試では、1,900人が意図をおくり、2,500人をこえる人が採点しました。
差が出たのは「すぐ近くに置いた対照の水」との比較だけ。片側のp値は0.03。差が出たといえる線を、ぎりぎりで踏んだ、という値です。
そして両方の論文に、江本勝が共著者として入っています。調べる側と、調べられる側が、おなじ人です。
証拠としては、弱いです。
2004年には、代替医療の医学誌にも3ページ書いています。所属は自分の研究所、連絡先は hado.net。
僕がたどれた範囲で、査読のある雑誌にのこる波動の実験は、この2本でした。
効果をうたう表示の、どこを見ればいいか
報告書には、東京都が資料のどこを見たのかが書いてあります。そこが、買う側の見どころです。
ひとつ目。出された資料が、うたっている効果と対応しているか。
出てきたのは、測定器の測り方の資料や、特許の資料でした。特許は、効果の証明にはなりません。
ふたつ目。試験のやり方が、妥当と認められる方法か。
みっつ目。しくみを検証した資料があるか。
東京都のアドバイスは、ひと言。科学的な根拠に基づくかのように見える表示でも、うのみにしない。
この3つで見ると、江本勝の論文も引っかかります。調べたのが本人で、差が出たのも、すぐ近くの水とだけだからです。
名前を変えれば、のこるもの
ここから、のこるほうを書きます。
「あの人といると波動が下がる」。この感じそのものは、気のせいではないです。ただし、名前は「感情伝染」です。
人の気分が、そばにいる人へうつる。それだけのことです。
顔を合わせなくても、うつります。2012年1月の1週間、Facebookで689,003人を対象にした実験があります。
その人のタイムラインに出る、ほかの人の前向きな投稿を減らすと、その人自身の投稿から前向きなことばが減り、後ろ向きなことばが増えました。
ただし、効果はとても小さい。研究者自身が、そう書いています。
この実験には、載せた雑誌が「懸念表明」を出しています。参加者に断らないまま、見えるものを操作したからです。数字は借りますが、やり方はまねしません。
気分は、波動ではなく——見ている相手のほうから届いていた。
「波動が合わない」の中身は、相手の気分が、こちらへうつってきていることです。
今日の話をまとめると
波動は、物理では定義のあることばです。
スピリチュアルの波動をうたった商品は、東京都が調べた10件で、根拠が認められませんでした。
江本勝の側の実験には、差が出ています。ただし、本人が共著者のままで、差が出たのも、すぐ近くの水とだけです。
それでも「波動が合わない」の中身は、のこります。名前は、感情伝染。
だから、測らなくていいです。
今夜、3分だけ使ってください。きょう、いちばん長く見ていた相手をひとり書いて、その人の機嫌を、ひとことで添える。画面ごしでも、かまいません。
自分の夜の気分と、むきがおなじかだけ、見てください。機械は、いりません。
おなじ線引きを引き寄せでやったのが、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかです。
僕が波動ということばをどう使っているかは、プロフィールに置いてあります。





