波動はうさんくさいのか|根拠が認められなかった10件と、名前を変えれば残る中身

波動はうさんくさいのか|根拠が認められなかった10件と、名前を変えれば残る中身

波動を測る針は、ゼロのまま動かない。それでも、隣まで届いていく輪のほうは、たしかにある。
波動を測る針は、ゼロのまま動かない。それでも、隣まで届いていく輪のほうは、たしかにある。

「波動が合わない」と言われて、返すことばが出てこなかった人。波動を上げる商品の説明を読んで、さいふを出す手前で止まった人。

僕は、波動ということばを使う側の人間です。それでも、このことばで売られているものには、さいふを出しません。

先に結論を書きます。うさんくさいのは「波動」ということばではなく、測れていないものを測ったことにして、効果をうたっているところです

ことばの中身は、名前を変えればのこります。

順番に書きます。

物理の「波動」は、定義のあることば

まず、辞書を3つひきました。

物理の「波動」ある場所の変化が、次々に周囲へ伝わる現象辞書3つが、ほぼ同じ定義東京都の報告書にも、同じ定義があるスピリチュアルの「波動」人や場所の状態の良し悪しを指す何がどう伝わるのかは、書かれていな測り方の定義が、どこにもない物理の「波動」ある場所の変化が、次々に周囲へ伝わる現象辞書3つが、ほぼ同じ定義東京都の報告書にも、同じ定義があるスピリチュアルの「波動」人や場所の状態の良し悪しを指す何がどう伝わるのかは、書かれていない測り方の定義が、どこにもない
同じ「波動」でも、物理の側には定義があり、スピリチュアルの側には測り方がない。

デジタル大辞泉は「空間の一部に生じた状態の変化が、次々に周囲に伝わっていく現象」。精選版日本国語大辞典も、世界大百科事典も、ほぼおなじ書き方です。

変化が、となりへ、そのとなりへ。それが、物理でいう波動です。

ここまでは、物理です。

うさんくさいところは、ありません。

問題は、スピリチュアルの「波動」が、この定義と切れていることです。

使う側は、人や場所の状態のよしあしをさすのに、物理とおなじことばを借りている。なにがどうつたわるのかは、どこにも書かれていない。

ことばは本物で、測り方だけが抜けています。

東京都が「波動」の商品10件を調べた結果

この、測り方の抜けた効果の表示を、おおやけの機関が調べています。

80件4年間に届いた相談うち32件がマルチ商法10件調べた表示カタログ1・雑誌広告7・ネット210件根拠が認められなかった仕組みを検証した資料は、ひとつもなし出典: 東京都生活文化スポーツ局 2009年6月(景品表示法の観点)80件4年間に届いた相談うち32件がマルチ商法10件調べた表示カタログ1・雑誌広告7・ネット210件根拠が認められなかった仕組みを検証した資料は、ひとつもなし出典: 東京都生活文化スポーツ局2009年6月(景品表示法の観点)
2009年6月、東京都の調査。事業者が出した根拠の資料は、10件とも表示と対応していなかった。

きっかけは、相談でした。都内の消費生活センターに、波動や情報転写をうたった商品の相談が、4年間で80件。いちばん多いのは、マルチ商法の相談で32件。全体の4割です。

2009年6月、東京都が、その表示を調べました。景品表示法の目です。調べたのは10件。カタログが1件、雑誌広告が7件、ネットの表示が2件でした。

商品は、置物が1つ、機器が4つ。あとは、ボール、マグカップ、ご飯茶碗、スプレー、水でした。

東京都は事業者に、根拠の資料を出させました。

結果は、こうでした。出された資料は表示の内容と対応しておらず、効果の表示は客観的な根拠に基づくものとは認められなかった。10件すべてで、です。

資料を出さなかった事業者もいた、とも書いてあります。

波動が体にどう作用するのか。そのしくみを検証した資料は、ひとつもありません。

報告書にも、物理の波動の定義が書いてあります。

『水からの伝言』と、江本勝の実験

波動の話で、いちばんひろまったお話があります。

2004本人が代替医療の医学誌に3ページを寄稿。所属は自分の研究所2006物理学者が公開ページで「今の科学で、まちがっていると断言できる」2006本人共著の二重盲検。約2,000人が意図を送り100人が採点。片側p=0.001。著者自身が「パイロット試験」2008追試。1,900人が送り2,500人超が採点。差はすぐ近くの対照水とだけ、片側p=0.032004本人が代替医療の医学誌に3ページを寄稿。所属は自分の研究所2006物理学者が公開ページで「今の科学で、まちがっていると断言できる」2006本人共著の二重盲検。約2,000人が意図を送り100人が採点。片側p=0.001。著者自身が「パイロット試験」2008追試。1,900人が送り2,500人超が採点。差はすぐ近くの対照水とだけ、片側p=0.03
本人の寄稿から追試まで。差が出たのはすぐ近くの対照水とだけで、両方の論文に本人が共著者として入っている。

「ありがとう」のようないい言葉を見せた水は、きれいな結晶をつくる。「ばかやろう」のようなわるい言葉を見せた水は、きたない結晶になる。

それを写真で見せたのが『水からの伝言』という写真集で、そのあとに出た『水は答えを知っている』が、ベストセラーになりました。

2006年、学習院大学の物理学者、田崎晴明が書いています。これは「今の科学ではまだわからないこと」ではなく、「今の科学で、まちがっていると断言できるもの」だ、と。

『水は答えを知っている』にある「言葉の出す『波動』」の説明は、科学として見るかぎり、意味をなさない。実験は温度も過飽和度も一定にしていないので、出てくるのは思いこみがつくった「みかけ」だ、とも。

では、著者の側に実験はないのか。

あります。2006年に、江本勝本人を共著者に入れた二重盲検の試験が出ています。

東京の約2,000人がカリフォルニアの水にいい意図をおくり、100人が結晶の写真の美しさを採点した。意図をおくった水のほうが、高い点でした。片側のp値は0.001です。

ただし、著者たち自身がこれを「パイロット試験」と呼んでいます。予備の試験、ということです。

2008年の追試では、1,900人が意図をおくり、2,500人をこえる人が採点しました。

差が出たのは「すぐ近くに置いた対照の水」との比較だけ。片側のp値は0.03。差が出たといえる線を、ぎりぎりで踏んだ、という値です。

そして両方の論文に、江本勝が共著者として入っています。調べる側と、調べられる側が、おなじ人です。

証拠としては、弱いです。

2004年には、代替医療の医学誌にも3ページ書いています。所属は自分の研究所、連絡先は hado.net。

僕がたどれた範囲で、査読のある雑誌にのこる波動の実験は、この2本でした。

効果をうたう表示の、どこを見ればいいか

報告書には、東京都が資料のどこを見たのかが書いてあります。そこが、買う側の見どころです。

① 対応出された資料は、うたった効果と対応しているか② 方法試験のやり方は、妥当と認められる方法か③ 仕組み仕組みを検証した資料はあるか(10件ともゼロ)① 対応出された資料は、うたった効果と対応しているか② 方法試験のやり方は、妥当と認められる方法か③ 仕組み仕組みを検証した資料はあるか(10件ともゼロ)
東京都が事業者の資料を見た3つの目のつけどころ。そのまま、買う側の見どころになる。

ひとつ目。出された資料が、うたっている効果と対応しているか。

出てきたのは、測定器の測り方の資料や、特許の資料でした。特許は、効果の証明にはなりません。

ふたつ目。試験のやり方が、妥当と認められる方法か。

みっつ目。しくみを検証した資料があるか。

東京都のアドバイスは、ひと言。科学的な根拠に基づくかのように見える表示でも、うのみにしない。

この3つで見ると、江本勝の論文も引っかかります。調べたのが本人で、差が出たのも、すぐ近くの水とだけだからです

名前を変えれば、のこるもの

ここから、のこるほうを書きます。

689,003人見えるものを変えた実験2012年1月の1週間。前向きな投稿を減らすと、本人のことばも変わった出典: Kramer ほか 2014(掲載誌が懸念表明を出している)689,003人見えるものを変えた実験2012年1月の1週間。前向きな投稿を減らすと、本人のことばも変わった出典: Kramer ほか2014(掲載誌が懸念表明を出している)
顔を合わせなくても、気分はうつる。ただし効果はとても小さく、掲載誌は懸念表明を出している。

「あの人といると波動が下がる」。この感じそのものは、気のせいではないです。ただし、名前は「感情伝染」です。

人の気分が、そばにいる人へうつる。それだけのことです。

顔を合わせなくても、うつります。2012年1月の1週間、Facebookで689,003人を対象にした実験があります。

その人のタイムラインに出る、ほかの人の前向きな投稿を減らすと、その人自身の投稿から前向きなことばが減り、後ろ向きなことばが増えました

ただし、効果はとても小さい。研究者自身が、そう書いています。

この実験には、載せた雑誌が「懸念表明」を出しています。参加者に断らないまま、見えるものを操作したからです。数字は借りますが、やり方はまねしません。

気分は、波動ではなく——見ている相手のほうから届いていた。

「波動が合わない」の中身は、相手の気分が、こちらへうつってきていることです。

今日の話をまとめると

波動は、物理では定義のあることばです。

波動を測る測り方の定義がない。東京都が調べた10件は、どれも根拠と認められなかった気分のむきを見る気分は、見ている相手からうつる。今夜、いちばん長く見ていた相手をひとり書波動を測る測り方の定義がない。東京都が調べた10件は、どれも根拠と認められなかった気分のむきを見る気分は、見ている相手からうつる。今夜、いちばん長く見ていた相手をひとり書く
この記事の着地。波動を測ろうとせず、いちばん長く見ていた相手の機嫌を見る。

スピリチュアルの波動をうたった商品は、東京都が調べた10件で、根拠が認められませんでした。

江本勝の側の実験には、差が出ています。ただし、本人が共著者のままで、差が出たのも、すぐ近くの水とだけです。

それでも「波動が合わない」の中身は、のこります。名前は、感情伝染。

だから、測らなくていいです。

今夜、3分だけ使ってください。きょう、いちばん長く見ていた相手をひとり書いて、その人の機嫌を、ひとことで添える。画面ごしでも、かまいません。

自分の夜の気分と、むきがおなじかだけ、見てください。機械は、いりません。

おなじ線引きを引き寄せでやったのが、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかです。

僕が波動ということばをどう使っているかは、プロフィールに置いてあります。

出典・参考文献

  1. 小学館ほか. 「波動」. コトバンク(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典・改訂新版世界大百科事典).
  2. 東京都生活文化スポーツ局. 「波動・情報転写による効果・性能をうたった商品」の表示に関する科学的視点からの調査結果について. 平成21年6月(Internet Archive 保存版).
  3. 田崎晴明. 「水からの伝言」を信じないでください. 学習院大学理学部 田崎研究室ウェブページ 2006(最終更新2006年12月9日).
  4. Radin D, Hayssen G, Emoto M, Kizu T. Double-blind test of the effects of distant intention on water crystal formation. Explore (NY) 2006;2(5):408-411.
  5. Radin D, Lund N, Emoto M, Kizu T. Effects of distant intention on water crystal formation: a triple-blind replication. J Sci Explor 2008;22(4):481-493.
  6. Emoto M. Healing with water. J Altern Complement Med 2004;10(1):19-21.
  7. Kramer ADI, Guillory JE, Hancock JT. Experimental evidence of massive-scale emotional contagion through social networks. Proc Natl Acad Sci USA 2014;111(24):8788-8790.(掲載誌が Editorial Expression of Concern を出している: PNAS 2014;111(29):10779)

東京都の報告書はインターネットアーカイブの保存版を全文、田崎晴明のページも全文、Facebookの実験は本文まで開いてたしかめました。2006年と2008年の水の論文だけは本文が開けなかったので、要旨に書かれた範囲までしか書いていません。

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