瞑想の科学的根拠|47試験で効いた範囲と、218人で消えた「脳が変わる」話

瞑想の科学的根拠|47試験で効いた範囲と、218人で消えた「脳が変わる」話

脳の形は、変わらなかった。小さくやわらぐのは、不安と気分のほう。瞑想の根拠は、いまのところそこまでです。
脳の形は、変わらなかった。小さくやわらぐのは、不安と気分のほう。瞑想の根拠は、いまのところそこまでです。

瞑想がいいと聞いて始めて、3日で止まった人。

瞑想で脳が変わるという本を読んで、ほんとうかどうかを決めきれずにいる人。

僕も、決めきれない側にいました。

だから、調べました。

先に結論を書きます。瞑想の科学的根拠は「不安と気分を小さくやわらげる」までで、「脳の形が変わる」には、まだ届いていません

魔法ではないです。ただ、道具としてはつかえます。

順番に書きます。

効いたと言える範囲は、ここまで

まず、辞書の意味から。瞑想とは、目を閉じて深く静かに思いをめぐらすこと。宗教の事典では、ヒンドゥー教や仏教、道教の修行法のひとつとされています。

不安(8週)0.38痛み0.33うつ(8週)0.30不安(3〜6か月)0.22出典: Goyal et al. 2014(効果量。0.2=小さい・0.5=中くらいの目盛り。うつ8週は幅の下が0.00)
47試験3,515人のまとめ。不安・うつ・痛みに、小さめの効き目。8週から3〜6か月で、不安の差は縮む。

その瞑想を、医学の側が数えました。

2014年に、18,753件の論文から、条件にあう47の試験だけを残して、まとめて調べた研究があります。あわせて3,515人分です。

出た数字は、こうでした。

  • 不安は、8週の時点で0.38(幅は0.12〜0.64)。3〜6か月後は0.22(0.02〜0.43)
  • うつは、8週で0.30(0.00〜0.59)。3〜6か月後は0.23(0.05〜0.42)
  • 痛みは、0.33(0.03〜0.62)

効果量は、差の大きさをあらわす数字です。0に近いほど、差は小さい。

0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きい。統計の慣例の目盛りです。

つまり、小さいほうです。

括弧の中は、その数字がありうる幅を示しています。幅の下が0にかかると、差がなかった可能性も残ります。

うつの8週は、そこが、ちょうど0.00でした。この時点では、まだ0と区別がついていません。3〜6か月の0.23のほうは、下が0.05で0にかかっていない。

なので、効いていない、ではないです。不安・うつ・痛みには、中くらいの確かさで、小さめの効き目がある。ここまでが、はっきり言えるところです。

「8週間で脳が変わる」の出どころ

瞑想の話で、いちばんひろまっているのが「8週間で脳の形が変わる」です。

16人瞑想した側8週間のプログラム17人待つ側比べる相手27分1日の自宅練習論文の記載。8週間で平均22.6時間出典: Hölzel et al. 2011(海馬の灰白質が増えた)16人瞑想した側8週間のプログラム17人待つ側比べる相手27分1日の自宅練習論文の記載。8週間で平均22.6時間出典: Hölzel et al.2011(海馬の灰白質が増えた)
「8週間で脳が変わる」の元になった研究の大きさ。片側16人で、1日27分の自宅練習。

出どころは、2011年の研究でした。

小さな研究です。

8週間のマインドフルネスのプログラムを受けた16人と、待つ側の17人を、前とあとでMRIでくらべています。

家での練習は、8週間で平均22.6時間。論文には、1日あたり平均27分と書かれています。

その結果、左の海馬で、灰白質の濃さがふえていた。

ここから「瞑想は脳を作り替える」という話が、世界にひろがりました。

元は、この一本です。

僕が引っかかったのは、人数です。片側16人。

たった、それだけの人数です。

もうひとつあります。この研究の著者本人が加わった2015年のまとめの論文には、こう書かれています。瞑想の効き目を担う神経のしくみは、いまもわからないままで、もっと厳密な研究がいる、と。

言い出した側が——まだわからない、と言っている。ここは、おぼえておいていいところです。

218人で追試したら、消えた

では、人を増やして、もう一度やったら、どうなるのか。

元の研究(2011年)瞑想16人と、待つ側17人自宅練習は平均22.6時間左の海馬で灰白質が増えた追試(2022年)218人を3群に分けた自宅練習は平均32時間群で比べると、体積・密度・厚さは変化なし元の研究(2011年)瞑想16人と、待つ側17人自宅練習は平均22.6時間左の海馬で灰白質が増えた追試(2022年)218人を3群に分けた自宅練習は平均32時間群で比べると、体積・密度・厚さは変化なし
元の研究と、追試。人数は3倍を超え、練習の時間も増えた。それでも脳の形は動かなかった。

2022年に、その追試が出ました。

答えは、あっけないものでした。

集めたのは、瞑想の経験がない218人。くじで3つに分けています。待つ側が70人、8週間のプログラムが75人、時間と形をそろえた別のプログラムが73人。

前とあとで、MRIをとりました。

見たのは、灰白質の体積、密度、皮質の厚さ。

群で比べると、どれも動いていません。待つ側と、別のプログラムの側、どちらとくらべても、です。

ひとつだけ、続きがあります。練習した時間が長い人ほど、右の扁桃体の体積が減る、という関係は出ました。ただしこれは群と群の比較ではなく、追加で調べた側の結果です。

人数は、元の研究の3倍をこえています。1群75人で、それまでのものは1群20人以下でした。

家での練習も、へっていない。平均32時間で、それまでのものの平均23時間より多いです。

練習の時間は長く、人数も多い。その追試で、脳の形は変わりませんでした。 これが、いまのところの答えです。

2018年には、瞑想を研究する15人の連名で、警告する論文も出ています。あやまった情報と貧弱な方法が、一般の人を害し、誤解させ、失望させうる、と。

厚生労働省のサイトも、脳の働きや構造に影響する可能性を示す研究はあるが、「解釈は難しく、実用上の意義は明らかではない」と書いています。

運動より上だ、とは言えない

根拠の強さを見るとき、もうひとつ外せない比べ方があります。

なにもしない側とくらべる不安・うつ・苦痛が下がった運動などほかの手段とくらべる上回る証拠は出なかった出典: Galante et al. 2021(負荷の高い人ほど、効き目は大きく出ている)
136試験11,605人のまとめ。なにもしない側には差が出る。運動などを上回る証拠は、出ていない。

なにもしない側とではなく、ほかの手段とくらべたらどうなるのか。

2021年のまとめが、そこを見ています。病気の治療の場ではないところ——職場や学校など——で行われた136試験、11,605人分です。

なにもしない側とくらべると、不安・うつ・苦痛は下がっていました。

ただ、運動のようなほかの手段とくらべると、上回る証拠はなかった。

上だとも、下だとも出ていません。

もともと負荷の高い人ほど、効き目は大きく出ています。

2014年のまとめも、同じところで止まっています。薬や運動、ほかの行動療法より瞑想がすぐれている、という証拠は見つからなかった。気分の明るさや注意、睡眠、体重には、効いたと言える証拠が足りない。

効き目は、あります。でも、瞑想だけがとくべつなわけではない。

厚生労働省のサイトも、瞑想を従来のケアに置き換えたり、受診を先延ばしにする理由にしたりしないよう書いています。

今日の話をまとめると

瞑想の科学的根拠は、不安と気分を小さくやわらげるところまでです。47の試験、3,515人でたしかめられています。

脳を作り替える魔法16人の研究から広まり、218人の追試で脳の形は変わらなかった気分と注意を整える道具不安・うつ・痛みに、小さめの効き目。ただし運動より上だとは言えない脳を作り替える魔法16人の研究から広まり、218人の追試で脳の形は変わらなかった気分と注意を整える道具不安・うつ・痛みに、小さめの効き目。ただし運動より上だとは言えない
この記事の着地。瞑想は、脳を作り替える魔法ではなく、気分と注意を整える道具。

「8週間で脳の形が変わる」は、16人の研究からひろまり、218人の追試で消えました。

運動より上だ、とは言えない。医療の代わりにもしない。

だから、瞑想は脳を作り替える魔法ではなく、気分と注意を整える道具としてもつ。……それが、いまの正しい距離です。

今夜、3分だけ使ってください。手元の瞑想の本かアプリをひらいて、効き目をうたっている一文を、ひとつ書き写す。

そこに人数が書いてあるかどうかだけ、見てください。16人と218人では、同じ「研究によると」でも重さが変わります。

副作用がどのくらい出るのか、何週目から差が出るのかは、瞑想は意味ないのかのほうに置きました。

科学的根拠があるかどうかを測るものさしは、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかでも同じものをつかっています。

少人数の研究で出た結果が、大人数の追試で消える話は、右脳と左脳の違いにも置きました。

出典・参考文献

  1. Goyal M, Singh S, Sibinga EM, et al. Meditation programs for psychological stress and well-being: a systematic review and meta-analysis. JAMA Intern Med. 2014;174(3):357-368.
  2. Kral TRA, Davis K, Korponay C, et al. Absence of structural brain changes from mindfulness-based stress reduction: Two combined randomized controlled trials. Sci Adv. 2022;8(20):eabk3316.
  3. Hölzel BK, Carmody J, Vangel M, et al. Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density. Psychiatry Res. 2011;191(1):36-43.
  4. Tang YY, Hölzel BK, Posner MI. The neuroscience of mindfulness meditation. Nat Rev Neurosci. 2015;16(4):213-225.
  5. Van Dam NT, van Vugt MK, Vago DR, et al. Mind the Hype: A Critical Evaluation and Prescriptive Agenda for Research on Mindfulness and Meditation. Perspect Psychol Sci. 2018;13(1):36-61.
  6. Galante J, Friedrich C, Dawson AF, et al. Mindfulness-based programmes for mental health promotion in adults in nonclinical settings: A systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. PLoS Med. 2021;18(1):e1003481.
  7. 厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』eJIM. 瞑想(海外の情報・NCCIH日本語訳). 英語版最終アクセス確認日 2022年6月.
  8. デジタル大辞泉「瞑想」/世界宗教用語大事典「瞑想」(いずれもWeblio辞書 収録).

瞑想をすすめるためにも、止めるためにも、集めていません。効いた数字と、消えた数字を、同じ基準で並べました。数字は一次資料を開いて確かめたものだけです。

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