引き寄せの法則は本当なのか|やり直すと4分の1に縮む、という物差し

引き寄せの法則は本当なのか|やり直すと4分の1に縮む、という物差し

本当かどうかは、もう一度やってみたときに出る。おなじ手順で、人数をふやして、やり直す。
本当かどうかは、もう一度やってみたときに出る。おなじ手順で、人数をふやして、やり直す。

引き寄せの本を何冊も読んだ。どれも自信たっぷりに書いてある。それでも、本当かどうかが決められない人。

効いたという話と、嘘だという話をどちらも読んで、判定を保留したままの人。

僕も、判定を保留したまま何年か置いていました。

先に結論を書きます。本当かどうかは、おなじ手順で人数をふやしてやり直したとき、おなじ結果が残るかどうかで決まります。これを再現性といいます。

心理学は2011年から、この物差しを自分自身に当ててきました。

その年に、データの集め方と分析のしかたを選びなおすだけで、どんなものでも有意にできる——と自分で実演してみせた論文が出ています。

その物差しで消えた側に、引き寄せが根拠として借りてきた話が入っています。

順番に書きます。

「有意だから偶然ではない」は、誤読

主張をひとつずつ判定したほうは、引き寄せの法則に科学的根拠はあるのかに置いてあります。

45/125有意と出たうちの偽陽性100件が本当のとき9%仮説が本当である事前の見込み44本の成否を当てさせた市場出典: 池田・平石 2016 / Dreber et al. 201545/125有意と出たうちの偽陽性100件が本当のとき9%仮説が本当である事前の見込み44本の成否を当てさせた市場出典: 池田・平石 2016 /Dreber et al. 2015
有意と出ただけでは決まらない。もとの分野で、本当の仮説がどれくらい混ざっているかで動く。

ここで渡すのは、判定そのものの物差しです。

論文には「p<.05」という書き方が出てきます。本当は差がないとしたとき、これくらいの差が偶然で出る見込みは5%より小さい——という意味です。

「差がない見込みが5%」ではありません。ここを取り違えると、外れます。

日本語の総説が、その計算をそのまま書いています。

1,000件の仮説のうち、100件が本当だとします。検定力が80%、有意水準が5%。

すると、本当の100件から80件が拾えて、はずれの900件から45件が拾えます。

有意と出た125件のうち、45件。つまり36%が、はじめから偽陽性です。

この数字は、その分野に本当の仮説がどれくらい混ざっているかで動きます。

心理学については、その割合も見積もられています。

2015年、研究者に賭けさせる市場をつくって、44本のやり直しの成否を当てさせた実験です。

そこで出た、仮説が本当である事前の見込みは、中央値で9%でした。

低い。

だから、論文1本だけでは、その仮説が本当かどうかは決まらないのです。

100件やり直すと、効果は半分になった

2015年、心理学の主な100件を、もとの著者の材料を借りて、大きな人数でやり直した計画があります。

もとの研究で有意97%やり直しで有意36%認知心理学の再現約50%社会心理学の再現約25%出典: Open Science Collaboration 2015 /池田・平石 2016(公開データを再集計)
2015年、100件を大きな人数でやり直した結果。全体で3分の1が残り、分野で割れた。

もとの研究では、97%が有意でした。

やり直しで有意だったのは、36%です。

効果の大きさも、もとの半分になりました。

半分です。

もとの効果がやり直しの信頼区間に入っていたのは47%。研究者の目で「再現した」と見たのは39%でした。

ここまでは、心理学ぜんぶの話です。

割れたのは、そのあとでした。

認知心理学は約50%、社会心理学は約25%。公開データを数えなおすと、認知が43件のうち21件、社会が57件のうち15件でした。

引き寄せの説明によく借りられるのは、25%のほう——社会心理学です。

そして、認知心理学のほうが高い理由も、おなじ総説が書いています。

認知心理学の実験は、おなじ人に何度もやってもらう形をとり、測りたいものを正確に測ります。すると効果が大きく出て、少ない人数でも足りるようになる。

差は、まじめさではなく——設計のほうにありました。

「効いた話」は、こうやって作れる

2016年、日本の社会心理学者2人が、社会的プライミングの有名な研究を396名でやり直しました。

全体 396名効果は出ない172名に絞る1品目だけ有意に近い品目を落とすあと一歩まで来る条件を削る有意差が出る全体 396名効果は出ない172名に絞る1品目だけ有意に近い品目を落とすあと一歩まで来る条件を削る有意差が出る
396名では効果が出なかった。そこから大学・品目・条件の順に削っていくと、有意差が現れる。全体に戻すと、また消える。

もとの効果を80%の見込みで拾うのに要る人数は42名。9倍以上を集めています。

効果は、出ませんでした。

そこは、動きません。

ふつうなら、ここで終わります。

この2人は、終わらせませんでした。おなじデータから、仮説を支持する有意差を、あとづけで作ってみせたのです。

やったことは、みっつです。

データを、ひとつの大学の172名に絞る。すると、10品目のうち1品目だけが、有意に近くなります。

そこから、都合の合わない品目を落とす。10品目のうち4品目を外して、残った6品目で指標を作り直す。ここで、あと一歩まで来ます。

そのうえで、3つあった条件をひとつ削る。ここで有意差が出ました。

論文には「仮説を支持する結果を得た」と書けます。

全体の396名に戻すと、その効果は消えます。

消えます。

藤島さんと樋口さんは、絞った理由も書きのこしています。

大学ごとに分ければ、検定力の低い分析を何度もやれる。そのどれかで、仮説に都合のいい結果が出る。

そのために、検定力をわざと下げた、と。

理論的な根拠はない、とも書いてあります。

効いた話は、こうやって作れます。

消えた側に、何が入っていたか

やり直しで消えたもののなかに、自己啓発が根拠にしてきた定番が入っています。

笑顔をつくれば楽しくなるもとの差は10点満点で0.8217研究室でやり直すと0.03信頼区間はゼロをまたいだ意志力は使うと減る23研究室・あわせて2,141人効果の大きさは0.04信頼区間はゼロを含んだ笑顔をつくれば楽しくなるもとの差は10点満点で0.8217研究室でやり直すと0.03信頼区間はゼロをまたいだ意志力は使うと減る23研究室・あわせて2,141人効果の大きさは0.04信頼区間はゼロを含んだ
どちらも先に計画を登録して、多数の研究室で測りなおした結果。信頼区間がゼロをまたいだ。

ひとつめは「笑顔をつくれば楽しくなる」です。

ペンを口にくわえて顔の形だけ変えると、漫画が面白く感じる。1988年の実験でした。

2016年、17の研究室が、おなじ手順で、先に計画を登録してやり直しています。

もとの差は、10点満点で0.82。

17研究室をまとめた差は、0.03でした。信頼区間は、ゼロをまたいでいます。

ふたつめは「意志力は使うと減る」です。

我慢をすると、次の我慢が続かなくなる。自己啓発の本で、よく見る話です。

23の研究室、あわせて2,141人。こちらも先に計画を登録して測りなおしました。

効果の大きさは0.04。信頼区間は、やはりゼロを含んでいます。

ゼロと変わりません。

引き寄せそのものを、先に計画を登録してやり直した研究は、探しても見つかりませんでした。

見つかったのは、引き寄せが借りてきた側の成績のほうです。

効果は、半分から4分の1に縮む

ここまでを、持ち歩ける数字にします。

0.60→0.15効果の大きさの中央値28の知見・15,305人62%やり直しで残った割合ネイチャーとサイエンスの21本出典: Many Labs 2 / Camerer et al. 20180.60→0.15効果の大きさの中央値28の知見・15,305人62%やり直しで残った割合ネイチャーとサイエンスの21本出典: Many Labs 2 /Camerer et al. 2018
2018年の2つの計画。残る割合も、残った効果の大きさも、こちらの数字に収まった。

2018年、28の有名な知見を、36の国と地域・125のサンプル・15,305人でまとめてやり直した計画があります。

おなじ向きで有意だったのは、15件で54%。

効果の大きさの中央値は、もとの0.60から、0.15へ落ちました。4分の1です。

9件、32%は、もとと逆を向いていました。

逆です。

おなじ年、ネイチャーとサイエンスに載った社会科学の実験21本も、もとの著者のレビューを受けた計画で、平均5倍の人数でやり直されています。

おなじ向きで有意だったのは13本で62%。効果の大きさは、およそ半分でした。

この計画は、もうひとつ測っています。

どれが残るかを研究者仲間に先に予想させたら、実際の結果とよく合いました。

消えたのは、運ではありません。

読める人には、読めていた。

これから読む引き寄せ本の数字は、半分から4分の1に割り引いて受け取る。

それが、この記事で渡せる物差しです。

この割引は、僕がこのメディアで書いた記事にもかかります。

効くと確かめられたと書いた3つも、1行足すと動いたという実験も、おなじ物差しの下に置いてあります。

今日の話をまとめると

引き寄せの法則が本当かどうかは、1冊の本の中では決まりません。

1冊の中で決める効いたと書いてある実験を、書いてある大きさのまま受け取るやり直しを見てから決める半分から4分の1に割り引く。人数が書いていなければ、そこは判定を保留する1冊の中で決める効いたと書いてある実験を、書いてある大きさのまま受け取るやり直しを見てから決める半分から4分の1に割り引く。人数が書いていなければ、そこは判定を保留する
この記事の着地。本当かどうかは、1冊の中ではなく、やり直しの記録の側で決まる。

決まるのは、おなじ手順で人数をふやして、やり直したあとです。

効果の中央値は0.60から0.15。笑顔の実験は0.82から0.03。100件の追試で残ったのは36件。

そして、消えたはずの効果は、データを絞れば、あとから作れてしまう。

それを、自分たちの失敗したデータで実演してみせた研究者が、日本にいます。

今夜、3分だけ使ってください。手元にある引き寄せの本を1冊開いて、根拠として出てくる実験をひとつ選ぶ。

その効果の大きさに、半分から4分の1をかけた数を、横に書く。大きさも人数も書いていなければ、「たどれない」と、そのまま書いておく。

判定は、そこから始まります。

作り話だと判定ずみの根拠のほうは、引き寄せの法則は嘘なのかに分けてあります。

公開データを自分で数えなおしている理由は、プロフィールに置いてあります。

出典・参考文献

  1. Simmons JP, Nelson LD, Simonsohn U. False-Positive Psychology: Undisclosed Flexibility in Data Collection and Analysis Allows Presenting Anything as Significant. Psychological Science 2011;22(11):1359-1366.
  2. Open Science Collaboration. Estimating the reproducibility of psychological science. Science 2015;349(6251):aac4716.
  3. 池田功毅, 平石界. 心理学における再現可能性危機:問題の構造と解決策. 心理学評論 2016;59(1):3-14.
  4. 藤島喜嗣, 樋口匡貴. 社会心理学における "p-hacking" の実践例. 心理学評論 2016;59(1):84-97.
  5. Wagenmakers E-J, et al. Registered Replication Report: Strack, Martin, & Stepper (1988). Perspectives on Psychological Science 2016;11(6):917-928.
  6. Hagger MS, et al. A Multilab Preregistered Replication of the Ego-Depletion Effect. Perspectives on Psychological Science 2016;11(4):546-573.
  7. Klein RA, et al. Many Labs 2: Investigating Variation in Replicability Across Samples and Settings. Advances in Methods and Practices in Psychological Science 2018;1(4):443-490.
  8. Camerer CF, et al. Evaluating the replicability of social science experiments in Nature and Science between 2010 and 2015. Nature Human Behaviour 2018;2:637-644.
  9. Dreber A, et al. Using prediction markets to estimate the reproducibility of scientific research. PNAS 2015;112(50):15343-15347.

引き寄せを否定するために集めた資料ではありません。やり直しで残った側も、消えた側も、おなじ物差しで並べています。数字は一次資料を開いて確かめたものだけです。ただし2015年の追試計画の本文は有料で開けなかったため、分野ごとの割合は日本語の総説の記述と、公開データを自分で数えなおした結果を併記しました。論文の本文は、もとの研究で有意だった97件に絞って認知21/42・社会14/55と書いています。この記事は100件すべてを数えたので、分母が43と57になります。引き寄せそのものを、先に計画を登録してやり直した研究は、今回は見つかっていません。

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