無意識とは|心理学が一語でまとめている3つの気づかなさと、その測り方

無意識とは|心理学が一語でまとめている3つの気づかなさと、その測り方

無意識は、ひとつの装置ではない。心理学が測っているのは、内容・関係性・過程という3つの気づかなさ。
無意識は、ひとつの装置ではない。心理学が測っているのは、内容・関係性・過程という3つの気づかなさ。

心理学の本を開くと、無意識ということばが出てきます。ところが、書いてある中身が本ごとにちがう。

押し込められた記憶のことだと、書いてある本。気づかない処理のことだと書いてある本。

どちらが正しいのか、わからなくなる。

僕も、そこで止まりました。

先に結論を書きます。心理学でいう無意識は、ひとつのものにつけた名前ではありません。気づかれないまま働く現象を、まとめて呼んでいる名前です。

順番に書きます。

心理学の「無意識」は、ひとつのものではない

脳科学辞典に、「無意識」の項目があります。

ひとつの装置として読む意識の下にある、もうひとつの心そこへ働きかければ変わる本ごとの食いちがいが、謎になる現象群の名前として読む気づかれない働きの、まとめ名実験ごとに、中身がちがう食いちがいのほうが、いまの状態ひとつの装置として読む意識の下にある、もうひとつの心そこへ働きかければ変わる本ごとの食いちがいが、謎になる現象群の名前として読む気づかれない働きの、まとめ名実験ごとに、中身がちがう食いちがいのほうが、いまの状態
脳科学辞典の一行を、そのまま読むとこうなる。無意識は装置ではなく、複数の現象群につけられた名称。

定義は、こうです。志向的な表現が可能であるにも関わらず、一人称的主観として体験されない事態。

ことばにできるはずなのに、本人の体験としては出てこない。

そのうえで、こうも書かれています。

無意識は単一の過程・現象と考えるよりは、複数の現象群に対して与えられた名称と捉えた方が良いだろう。

ひとつでは、ないんですよね。

つまり、教科書がそろっていないのではない。そろっていないことのほうが、いまの学問の状態です。

そこは、まだ決まっていません。

気づいていないのは、内容か、関係性か、過程か

同じ辞典が、無意識性を3つに分けています。

内容の無意識性出されたものそのものに気づかない(閾下知覚・盲視)関係性の無意識性AとBがつながっていることに気づかない過程の無意識性答えは出せるのに、そこへ至った手つきがわからない日常の複雑な判断で多いのは、下の2つ(脳科学辞典 2013)
同じ辞典が立てている3つの無意識性。気づかない場所が、それぞれちがう。

内容の無意識性。関係性の無意識性。過程の無意識性。

ことばの意味を3つに分けた話は、潜在意識と無意識の違いのほうに書きました。日常語と、フロイトと、認知科学です。

そちらとは、別の切り方になります。

ここで分けているのは、気づかない場所のほうです。

内容は、出されたものそのものに気づかないとき。気づかない速さで映した文字などが、それにあたります。閾下知覚や盲視が、ここです。

関係性は、AとBがつながっていることに気づかないとき。

過程は、答えは出せるのに、そこへたどりついた手つきがわからないときです。

どれも、気づいていません。気づけない場所が、ちがうだけです。

そして、こうあります。日常生活における多くの複雑な判断では、内容の無意識性よりも、関係性・過程の無意識性に関連する現象が多く存在する。

見えていなかったのでは、ない。

見えていたのに、それが効いたことに気づかない。日常は、こちらです。

自転車も、キーボードも、そうです。やり方はうまく言えないのに、なぜかできてしまう。

「気づいている」を、どう測るのか

「気づいていない」を判定しないと、無意識は測れません。ふつうは、本人に聞きます。

観察者の予想・知能.98本人の報告・知能.94本人の報告・同情.14本人の報告・柔軟性.11出典: Nisbett & Wilson 1977(好意は−.31)
本人の報告と、書類を読んでいない観察者の予想。知能の評価では、観察者も同じだけ当てた。

ところが、そこがあやしい。

1977年の論文が、その聞き方そのものを疑いました。

学生81名に、〈海—月〉のような単語のペアを先に覚えさせます。そのあとで、洗剤の名前を聞く。

すると、タイド(洗剤の商品名)と答える率が、10%から20%へ上がりました。

それでも、その理由としてペアを挙げた人は、ほとんどいませんでした。

ペアは、効いています。それでも、理由としては出てこない。

同じ論文に、もうひとつ実験があります。

仕事に応募した女性の書類を読ませ、5つの条件を入れ替える。そのうえで、好意・同情・知能・柔軟性の4つを評価させ、どの条件がどれに効いたかを本人に答えさせました。

書類を読んでいない人にも、条件の要約だけを渡して、同じ予想をさせています。

知能の評価では、本人の報告と本当の効果の相関が.94。書類を読んでいない観察者は、.98です。

観察者も、同じだけ当てています。

ほかの3つの評価では、本人の正確さは原文の言い方で「文字どおり、ゼロ」でした。好意が−.31、同情が.14、柔軟性が.11。

ゼロと、見分けがつかない。

好意にいたっては、向きが逆です。ここでも、観察者との差はつきませんでした。

本人の説明は、あてになりません。

そこで著者らは、判定の線を、こう引きなおしました。「気づいている」と言えるのは、刺激と反応の一般的な説明を渡された観察者よりも、本人の報告が正確なときだけだ、と。

当てただけでは、足りない。

他人と同じ当て方をしているなら——それは思い出したのではなく、あとから推測しただけです。

動きの実験が聞いているのは、理由ではなく時刻

本人に理由を聞くのが当てにならないなら、実験の側は聞く中身を変えるしかありません。

10秒前選ぶ中身が読み取れた最大値・前頭前野と頭頂葉・2008年1,019個記録したニューロン12名・2011年80%超700ミリ秒前の予測の精度補足運動野の256個出典: Soon 2008 / Fried 201110秒前選ぶ中身が読み取れた最大値・前頭前野と頭頂葉・2008年1,019個記録したニューロン12名・2011年80%超700ミリ秒前の予測の精度補足運動野の256個出典: Soon 2008 / Fried2011
どちらも、本人に理由を聞いていない。聞いたのは、決めたと気づいた時刻だけ。

2008年の研究は、脳の活動から、その人がどちらを選ぶかを読み取っています。決めた中身が、意識にのぼる最大10秒前の前頭前野と頭頂葉の活動に符号化されていた。

このとき本人が答えるのは、理由ではありません。0.5秒ごとに切り替わる文字を見せておいて、決めた瞬間に出ていた文字を選ばせる。それだけです。

2011年には、ひとつずつのニューロンでも同じでした。

てんかんの治療で脳に電極が入る12名から、1,019個のニューロンを記録しています。

決めたと本人が言うより、およそ1,500ミリ秒前から、発火が少しずつ変わっていく。補足運動野の256個のニューロンを使えば、本人が気づく700ミリ秒前に、その回の決定を80%を超える精度で当てられた。

こちらで聞いたのも、時刻だけです。針の回る時計を見せて、最初に動きたいと感じたとき針がどこにあったかを、あとから答えさせています。

理由は、聞いていません。

ただし「◯秒前」の0点になっているのは、その時刻の報告です。本人の報告そのものは、使っています。

では、この2つはもう揺るがないのか。

そこも、ちがいます。

「脳が先に決めている」の根拠だった準備電位は、読み替えられました。動作の前に、ゆっくり立ちあがっていく脳波の坂のことです。

2012年の論文によると、閾値を越える瞬間は、自発的なゆらぎで決まる。動作の瞬間にそろえて平均すると、それが坂に見えてしまう。

同じ読み替えは、2011年の発火にもかかります。2011年の論文自身が、閾値越えのモデルを立てていました。

越える瞬間が何で決まるのかは、まだ見えていません。

別の現象は、別の実験で判定されている

無意識ということばの下では、まったく別のものも測られているんですよね。

2006複雑な選択は無意識に任せよ、と発表2013潜在連合テストの予測力は乏しい2015399名の追試。無意識の優位は出ず2006複雑な選択は無意識に任せよ、と発表2013潜在連合テストの予測力は乏しい2015399名の追試。無意識の優位は出ず
無意識の優位という主張と、それを測り直した研究。赤は、落ちた主張のほう。

2006年のサイエンス誌に、注意を向けない熟慮という報告が載ります。単純な選びかたは意識して考え、家や車のような複雑なものは無意識に任せたほうがよい、と。

「難しい決断は寝かせろ」の出どころは、ここです。

ところが、あとになって測り直されます。

2015年に、399名を集めた追試がありました。無意識のほうが優れているという証拠は、出ません。

優位が出ていたのは、標本数の小さい研究だけだった。同じ論文のメタ分析に、そうあります。

無意識の偏見を測る潜在連合テストも、同じ道です。2013年のメタ分析では、脳活動をのぞくすべての基準で予測力が乏しかった。

自己申告の指標を、上回っていません。

ここまで、ぜんぶ同じことばで呼ばれています。

でも、測っている場所も、出てくる答えも、別々です。

2014年の総説が、そこを名指ししています。無意識の影響力が、ほんとうより大きく見積もられてきた。理由は3つ。気づきの測り方が雑だったこと、目玉の結果に別の読み方があるのを見なかったこと、直感に合う結論をそのまま受け入れたこと。

今日の話をまとめると

無意識は、装置ではない。気づかれないまま働く現象の、まとめ名です。

一語で、まとめて判定する無意識はすごい、無意識は嘘。どちらも、答えをひとつに決めようとしている現象ごとに、別々に測る気づかない場所がちがえば、測り方もちがう。判定も、別々に出る一語で、まとめて判定する無意識はすごい、無意識は嘘。どちらも、答えをひとつに決めようとしている現象ごとに、別々に測る気づかない場所がちがえば、測り方もちがう。判定も、別々に出る
この記事の着地。無意識は装置ではなく、まとめ名。だから判定も、ひとつにはならない。

気づかなさには、内容・関係性・過程の3つがある。日常で効いているのは、うしろの2つです。

そこが、見えにくい。

測り方も、ばらばらでした。理由を聞く実験。時刻だけを聞く実験。選んだ答えの良し悪しだけを見る実験。

だから「無意識は◯◯だ」と、一語でまとめて判定することはできません。 ひとつずつ別に測られて、ひとつずつ別に判定されています。

今夜、3分だけ使ってください。今日、自分で決めたことをひとつ書いて、その理由を紙に書く。

その横に、同じ場面を説明されただけの人なら挙げそうな理由を書き足す。

2つが同じ理由になったなら、あなたが書いたのは、思い出した理由ではありません。あとから推測した理由のほうです。

僕がなぜ、中身より測り方のほうばかり書くのかは、プロフィールに置いてあります。

出典・参考文献

  1. 渡邊克巳. 無意識. 脳科学辞典(日本神経科学学会ほか) 2013; DOI:10.14931/bsd.3968.
  2. Nisbett RE, Wilson TD. Telling more than we can know: Verbal reports on mental processes. Psychological Review 1977;84(3):231-259.
  3. Soon CS, Brass M, Heinze HJ, Haynes JD. Unconscious determinants of free decisions in the human brain. Nature Neuroscience 2008;11(5):543-545.
  4. Fried I, Mukamel R, Kreiman G. Internally generated preactivation of single neurons in human medial frontal cortex predicts volition. Neuron 2011;69(3):548-562.
  5. Schurger A, Sitt JD, Dehaene S. An accumulator model for spontaneous neural activity prior to self-initiated movement. PNAS 2012;109(42):E2904-E2913.
  6. Dijksterhuis A, Bos MW, Nordgren LF, van Baaren RB. On making the right choice: the deliberation-without-attention effect. Science 2006;311(5763):1005-1007.
  7. Nieuwenstein MR, Wierenga T, Morey RD, et al. On making the right choice: A meta-analysis and large-scale replication attempt of the unconscious thought advantage. Judgment and Decision Making 2015;10(1):1-17.
  8. Oswald FL, Mitchell G, Blanton H, Jaccard J, Tetlock PE. Predicting ethnic and racial discrimination: a meta-analysis of IAT criterion studies. J Pers Soc Psychol 2013;105(2):171-192.
  9. Newell BR, Shanks DR. Unconscious influences on decision making: a critical review. Behavioral and Brain Sciences 2014;37(1):1-19.

数字と引用は、脳科学辞典と各論文を開いて確かめたものだけです。開けなかった数字は、この記事には入れていません。

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