右脳の働きとは|創造性ではなく、注意・顔・抑揚と部位につけられた名前

右脳の働きとは|創造性ではなく、注意・顔・抑揚と部位につけられた名前

右脳の働きは「創造性」ではない。注意・顔・抑揚という仕事ごとに、別々の部位に名前がついている。
右脳の働きは「創造性」ではない。注意・顔・抑揚という仕事ごとに、別々の部位に名前がついている。

本はふつうに読めるのに、人の顔と名前がなかなか一致しない人。

話のなかみはわかるのに、相手が怒っているのか冗談なのか、よく読み違える人。

どちらも、僕のことです。

先に結論を書きます。右脳の働きは「創造性」という一語ではありません。注意・顔・抑揚という仕事ごとに、べつべつの部位が受けもっています。

人を右脳型・左脳型にわける根拠のほうは、そもそも見つかっていません。その話は右脳と左脳の違いに書いたので、ここではあつかいません。

ここでならべるのは、型ではなく部位です。

名前のあるほうです。

順番に書きます。

左脳の働きは、半球ではなく部位に名前がついている

左半球のことばの部位には、ひとつずつ名前と番号がついています。

左下前頭回(44野・45野)ブローカ野。話すほうが止まる左上側頭回の後部(22野の後部)ウェルニッケ野。話せても意味が入らない左角回(39野)・左縁上回(40野)語彙と意味の処理左紡錘状回の文字の区画書けるのに読めない状態になる出典: 脳科学辞典「言語中枢」(日本神経科学学会)
左半球のことばの部位。半球ではなく、区画ごとに名前と番号がついている。

脳科学辞典の「言語中枢」から、そのままならべます。

ブローカ野は、左下前頭回のあたり。ブロードマンの44野と45野に分かれます。

話すほうの部位です。

1861年に報告された患者は、理解のほうはわりあいたもたれていたのに、「タン、タン」としか話せませんでした。損傷の中心が、ここでした。

話すほうが、止まった。

ウェルニッケ野は、左上側頭回の後部。ブロードマンの22野の後部にあたります。

1874年の症例は、逆でした。

よくしゃべるのに、意味が入らない。

入ってこないのは、聞いている本人のほうです。

左角回が39野、左縁上回が40野。こちらは、語彙と意味をあつかいます。

左紡錘状回には、文字のかたちを見る区画があります。ここがこわれると、書けるのに読めなくなります。

書くほうは、のこります。

おなじ「ことば」でも、受けもつところはひとつではないんですよね。

半球ではなく、区画に名前がついている。

そこが、単位です。

右も、おなじです。

右半球にも、ことばの部位がある

おなじ辞典が、右半球についても書いています。

7.5%言語が右半球優位だった人中等度と強い右利き188人。男女差なし1970年代右で韻律の障害が示された話し方が平板になる出典: Knecht 2000/脳科学辞典「言語中枢」7.5%言語が右半球優位だった人中等度と強い右利き188人。男女差なし1970年代右で韻律の障害が示された話し方が平板になる出典: Knecht2000/脳科学辞典「言語中枢」
ことばは左だけの仕事ではない。右にも部位があり、右優位の人も一定数いる。

こんどは、右です。

ブローカ野の右側の相同部位が損傷されると、韻律が障害されて、話し方が平板になる。1970年代からしめされている、とあります。

言っている中身ではなく、言い方のほうです。

談話の処理、ユーモア、皮肉、比喩の理解にも、右半球のいくつもの領域がかかわる可能性がある。

ことばの仕事は、左右にわかれています。

左だけではない。

数のほうも、見ておきます。健康な右利き188人——中等度の右利きも入ったグループです——を測った2000年の研究では、言語で右半球が優位だった人が7.5%いました。

分布は、左に寄った人がほとんどで、右に寄った人はわずか。そのあいだは、なだらかにつながっていました。

右が優位になる割合に、男女の差はありません。

男女で、差はなかった。

おなじ年に、強い右利きだけにしぼったべつの測定もあります。そちらは4%でした。

数がちがうのは、右利きの強さの取り方がちがうからです。

どちらも、ほんとうです。

少数だけど、いる。

右に寄っているのは、注意と顔

注意には、べつべつの2つのネットワークがあります。

背側の注意系頭頂間溝と上前頭皮質を含む目標に沿って注意を向ける腹側の注意系側頭頭頂皮質と下前頭皮質を含む大きく右半球に偏っている目立つもの・予期しないものを見つけるいま向けている注意を、いったん切る背側の注意系頭頂間溝と上前頭皮質を含む目標に沿って注意を向ける腹側の注意系側頭頭頂皮質と下前頭皮質を含む大きく右半球に偏っている目立つもの・予期しないものを見つけるいま向けている注意を、いったん切る
注意は2つのネットワークに分かれる。右へ大きく偏っているのは、腹側のほう。

ひとつは背側系。頭頂間溝と上前頭皮質をふくみ、目標に沿って注意を向けます。

もうひとつは腹側系。側頭頭頂皮質と下前頭皮質をふくみます。こちらは、大きく右半球にかたよっています。

腹側系の仕事は、目立つものや、予期しないものを見つけること。背側系にたいする回路遮断器としてはたらく、とあります。

いま向けている注意を、いったん切る役です。

注意が、切りかわる。

だから右半球がこわれると、左側にあるものに気づけなくなります。半側空間無視です。

左側が、まるごとぬけ落ちる。

これは、注意が右にかたよってしまう状態です。

やっかいなのは、見落としている自覚が出にくいところ。

顔のほうも、見ておきます。

1992年にPETで測った研究では、顔の同定で紡錘状回と前部側頭皮質が両半球とも動き、そこに右の海馬傍回とそのちかくがくわわりました。

顔だから右だけ、ではないんですよね。

物体の認識で動いたのは、おもに左の後頭側頭皮質です。

顔で動いた右半球の領域は、物体では動いていません。

そこは、かさなりません。

紡錘状回には、顔のときだけ強くはたらくところもあります。1997年の実験では、ためした15人のうち12人で見つかりました。

この区画が右に寄るかどうかは、要旨では確かめられませんでした。

そこは、たどれません。

顔だけ、べつあつかいです。

「ことばは左」は、半分だけ

ことばの処理にも、2本の道があります。

「ことばは左」で止める意味に向かう道まで、左だけの仕事にしてしまう2本の道に分けて見る腹側の道はおおむね両半球。強く左に寄るのは、音を調音へ写す背側の道だけ「ことばは左」で止める意味に向かう道まで、左だけの仕事にしてしまう2本の道に分けて見る腹側の道はおおむね両半球。強く左に寄るのは、音を調音へ写す背側の道だけ
強く左に寄るのは、音を口の動きへ写す背側の道だけ。意味に向かう道は、おおむね両半球。

腹側の道は、音を意味へつなぐ道。ここは、おおむね両半球におかれています。

背側の道は、音を前頭葉の調音——口の動き——へ写す道。強く左に寄るのは、こちらだけです。

寄るのは、片方だけ。

つまり「ことばは左」は、半分だけ当たっている。

意味に向かう半分は、右もいっしょに使っています。

宛先は、ここでも道のほうです。

左右差は、1本の物差しではない

安静時の脳の活動から左右差を測って、因子分析にかけた2009年の研究があります。おとな300人ぶんです。

視覚右へ寄る注意右へ寄る言語左へ寄る。4つのうち、この1本だけ内的思考左へ寄る出典: Liu ら2009/寄る向きは Corballis 2014
安静時の左右差を因子分析すると、たがいに独立した4つの因子が出てくる。言語は、そのうちの1本。

出てきたのは、たがいに独立した4つの因子でした。

ひとつめが視覚、ふたつめが内的思考。

みっつめが注意で、よっつめが言語です。

軸は、4本あります。

言語にあたるのは、そのうちの1つだけ。

どちらへ寄るのかは、2014年の総説がまとめています。視覚と注意は右へ、言語と内的思考は左へ。

4本は、連動しません。

著者は、左右差にただ1つの普遍的な意味があるという考えは、さらに疑わしくなると書いています。

1本のものさしでは、たりませんでした。

創造性についても、おなじ総説が書いています。創造的な思考は広いネットワークを動かし、どちらの半球にもかたよらない。画像では、右に寄る証拠が見つかっていません。

創造性の宛先は、まだきまっていません。

今日の話をまとめると

右脳の働きは「創造性」ではないです。

① 半球で言うのをやめる「右脳を使いたい」を、いったん外す② 仕事の名前にする顔・抑揚・見落とし。どれかひとつに決める③ 宛先が決まる決まれば、やることのほうも決まる① 半球で言うのをやめる「右脳を使いたい」を、いったん外す② 仕事の名前にする顔・抑揚・見落とし。どれかひとつに決める③ 宛先が決まる決まれば、やることのほうも決まる
今夜やること。半球の名前をやめて、仕事の名前に書き直すところまで。

注意を向けなおすこと、顔を見分けること、話し方の抑揚をひろうこと。それぞれべつの部位が、べつべつに受けもっています。

左もおなじで、44野・45野・22野の後部・39野・40野と、区画ごとに名前がついている。

左右差の軸が4本あったのも、おなじ話でした。半球ひとつでは、宛先になりません。

右脳の働きは、半球の名前ではなく、仕事の名前で分かれている。

だから「右脳を働かせる」という言い方は、宛先が決まっていないんですよね。

今夜、3分だけ使ってください。「右脳を使いたい」と思っていたことを、仕事の名前に書き直す。

顔を覚えたいのか、相手の抑揚を読みたいのか、見落としをへらしたいのか。宛先がきまれば、やることのほうもきまります。

鍛える側の話は、右脳を鍛える訓練に根拠はあるのかにおいてあります。

出典から先に書いている理由は、プロフィールにあります。

出典・参考文献

  1. 犬伏知生・酒井邦嘉「言語中枢」脳科学辞典(日本神経科学学会)2014年4月21日完成
  2. 石合純夫「半側空間無視」脳科学辞典(日本神経科学学会)2016年12月31日完成
  3. Corbetta M, Shulman GL. Control of goal-directed and stimulus-driven attention in the brain. Nature Reviews Neuroscience 2002;3(3):201-215.
  4. Hickok G, Poeppel D. The cortical organization of speech processing. Nature Reviews Neuroscience 2007;8(5):393-402.
  5. Knecht S, Deppe M, Dräger B, et al. Language lateralization in healthy right-handers. Brain 2000;123(Pt 1):74-81.
  6. Knecht S, Dräger B, Deppe M, et al. Handedness and hemispheric language dominance in healthy humans. Brain 2000;123(Pt 12):2512-2518.
  7. Liu H, Stufflebeam SM, Sepulcre J, Hedden T, Buckner RL. Evidence from intrinsic activity that asymmetry of the human brain is controlled by multiple factors. PNAS 2009;106(48):20499-20503.
  8. Corballis MC. Left brain, right brain: facts and fantasies. PLoS Biology 2014;12(1):e1001767.
  9. Sergent J, Ohta S, MacDonald B. Functional neuroanatomy of face and object processing. Brain 1992;115(Pt 1):15-36.
  10. Kanwisher N, McDermott J, Chun MM. The fusiform face area. Journal of Neuroscience 1997;17(11):4302-4311.

ブローカ1861年とウェルニッケ1874年の原著は開けていません。年と症状と損傷の場所は、脳科学辞典「言語中枢」の記述として書いています。角回と縁上回の役割も同じ扱いです。4つの因子と、その中身(視覚・内的思考・注意・言語)は Liu ら2009年の要旨で確かめました。どの軸がどちらへ寄るかと、創造的な思考の画像研究については、Corballis 2014 の記述として書いています。紡錘状回の顔の区画が右に寄るかどうかは要旨で確かめられなかったので、書いていません。

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