「脳科学的に証明された」と書いてある教材の前で、手が止まった人。
逆に、脳科学そのものを丸ごと疑うようになって、まともな本まで閉じた人。
僕は、あとのほうをやりました。
先に結論を書きます。胡散臭いのは脳科学という学問ではなく、脳科学を名乗る商品の売り方です。
その売り方なら、日本の行政がもう数えています。認知機能をうたう商品223件を、いっせいにひらいた記録が残っています。
何が削られていたのかまで、そこに出ています。
順番に書きます。
脳画像の一枚で、言えることは少ない
まず、研究の側の弱いところから。
脳の一部が光った写真を見せて、「ここが働いているから、こういう心のはたらきが起きている」と言う。この言いかたに、名前がついています。逆推論です。
2006年の論文が、これは論理として妥当ではない、と書いています。
逆推論は、まったくの無意味ではないです。
ただ、演繹としては通らない。
とくに、その場所がその機能だけに使われるわけではないとき、逆推論は慎むべきだ、と書いています。
脳画像の一枚は、根拠としてはそこまで強くないです。
数字のほうにも、ほころびがあります。
2009年の報告です。脳の活動と、性格や感情との相関が0.8を超えた——そう書かれた論文55本の著者に、やりかたを問い合わせました。
半分を超える人が、こう認めています。
しきい値を超えたところだけを選んで、その平均を相関として出していた、と。
選んでから測れば、数字は上がります。
あたりまえのことです。
からくりは、それだけ。
2013年の報告が、神経科学の研究は平均して検定力が低い、と書いています。
検定力というのは、本当に差があるときに、それを見つけられる確率のことです。
人数が少ないと、この確率が下がります。
差の出た研究だけが論文になるので、効果は実際より大きく見えます。
だから、やり直すと同じ結果が出にくくなる。
ただ、これは「脳科学がだめだ」という話ではないです。
写真の一枚では言えることが少ない、という限界の話でした。
限界を書けるのが、学問の側です。
胡散臭さは、研究室の外で生まれる
脳科学でわかったことは、研究室のなかで止まりません。
2012年の総説が、その広がりを並べています。
マーケティング、刑事司法、軍事、労働者の生産性。
商品になっているのは、日本だけの話ではないんですよね。
どこでも、おなじです。
わかりやすい例が、脳トレです。
2014年に、正反対の合意声明が2通出ました。
ひとつは70人を超える科学者の連名。脳トレに、頭のはたらきを高める科学的な裏づけはない、という内容です。
数か月後、133人の科学者と実務家が反論を出しています。効果を示した研究は文献にあふれている、と。
同じ文献を見て、まっぷたつです。
2016年に、この言い合いを調べた報告が出ました。
売る側が根拠としてサイトに並べていた論文を、一本ずつ見ています。
役に立つと言い切るのに欠かせない条件を、ぜんぶそろえたものは一本もなかった。
ひとつも、ないです。
脳トレの中身をどこまで確かめたのかは、右脳を鍛える方法にならべてあります。
根拠が「ある」か「ない」かで言い合っても、決着はつきません。
見る場所は、もっと手前にあります。
行政が最初に見るのは、その効果が誰に向けたものか
ここから、道具の話です。
効果をうたう広告に根拠を出させる仕組みが、日本にはあります。
その形を決めているのが、消費者庁の指針です。要件は2つあって、ならべ方は波動の科学的根拠に置きました。
ここで使うのは、ふたつ目だけです。
書いてある効果と、資料が実証した範囲が、対応しているかどうか。
指針は、例をひとつ挙げています。
「99%の紫外線をカット」と書いた衣料に、事業者が学術文献を出した。その文献がたしかめていたのは、50%の遮断まででした。
資料は、本物です。
うそではないです。
ずれていたのは、範囲のほうでした。
見るのは、広告の一文ではありません。
写真も、グラフも、体験談も入れた表示ぜんたいです。
そこから、ふつうの人が受け取る効果を見る。
そこが、分かれ目です。
認知機能をうたう223件を、行政が一斉に見た
2022年3月31日に、消費者庁が結果を出しています。
認知機能をうたう機能性表示食品は、その年の2月末で223件。
そのぜんぶを、いっせいに見ています。
まるごとです。
景品表示法と健康増進法にもとづく指導が、3事業者3商品。健康増進法だけのものが、112事業者128商品。
128商品のほうの一覧で、いちばん上に置かれているものがあります。
対象者の範囲です。
根拠が得られた相手は、中高年に限られていました。
それなのに広告には「受験生の考える力を鍛えるために」「学校・塾でお子様の集中力アップに」と書いてあった。
調べた相手と、呼びかけた相手が、別でした。
ここが、ずれです。
そろっていないです。
消費者庁は、別紙でこうも書いています。物忘れや認知症の治療、予防に根拠のあるサプリメントや特定の食品はありません、と。
そのうえで、こう続けています。
認知機能の機能性表示食品は、対象者の範囲や機能性の内容が限定されている。
自分に合った食品かどうか、表示をたしかめてほしい、と。
この監視でとくに見た表示は、あわせて8つの観点にまとめてあります。
うち3つは、ここまでの話と重なります。
- 届け出た範囲から、はみ出した表示
- 届け出た言葉や資料の一部だけを引いて、強く見せる表示
- 体験談の使いすぎ
ほかに、治っていない不安をならべて見せることや、グラフの大げさな見せ方も入っています。
ぜんぶ、おぼえなくていいです。
ひとつで足ります。
書いてある効果の相手と、実験が調べた相手。並べるのは、そこだけです。
今日の話をまとめると
脳科学という学問が胡散臭いのではありません。
言えることが少ない一枚の写真を、言い切りに使う売り方のほうが胡散臭いんですよね。
本当かどうかの言い合いは、そこで止まりません。
かみ合わないんですよね。
行政が223件をひらいて、いちばん上に置いたのは、対象者の範囲でした。
呼びかけた相手と、調べた相手が、同じかどうか。
そこだけです。
今夜、3分だけ使ってください。気になっている商品のページをひらいて、書いてある効果と、根拠に挙がっている実験の対象者を、並べて読む。
実験が調べた相手より広い人に呼びかけていたら、そこで閉じていいです。
脳のことばが説明をよく見せる仕組みは、脳科学と心理学の違いに数字で置いてあります。
なぜこの書きかたをするのかは、プロフィールに置いてあります。





