大事にしていることを紙に書いてみた。三日で、やめた。
科学的根拠を調べたら、効くという報告と、効かないという報告が、両方出てきます。
僕も、そのどちらも読みました。
どちらも、うそではないです。
先に結論を書きます。自分の価値について書く型は、平均するとほとんど効きません。効いているのは、いま脅かされている人だけです。
ここで言う「脅かされている人」は、その場で自分の力をうたがわれている人です。成績で出身をうたがわれる生徒。運動不足を指摘される人。
どちらも、そういう場面にいます。
ここで言う「自分の価値について書く型」は、「自分にはできる」と唱える型とは別物です。実験で参加者に書かせるのは、大事にしている価値についての作文のほうです。
唱える型と書く型の違いは、アファメーションは効果ないのかに書きました。ここで見るのは、書く型が誰に効いて、どこまで残ったのかです。
順番に書きます。
58件を集めると、効き目はふたつに割れた
2021年に、教室でやった「自分の価値について書く型」を集めたメタ分析が出ています。
系統的に集めた研究は、58件です。
学力への効き目は、相手で割れました。
脅かされている生徒で、効果量が g = .15。脅かされていない生徒で、g = .01。
.01 は、ほぼゼロです。
平均だけを見ているかぎり、この介入は「効かない」に見えます。
データを相手で割って、はじめて効いている側が出てきます。
ここが、わかれめです。
年に何回かの15分の作文が、7〜9年後の進学率を動かした
2017年に、中学での介入を7〜9年おいかけた報告が出ています。
北東部の学区で作文をした生徒たちを、大学まで追いかけたものです。
やったのは、自分の価値について書く型です。1回15分。年度のはじめとテストの前に、何回か書く。
追ったのは339人。うち、アフリカ系アメリカ人の生徒が158人、白人の生徒が181人です。
ながい追跡です。
アフリカ系アメリカ人の生徒が大学へ進んだわりあいは、対照群で78%。作文をした群で92%です。
4年制にしぼると、対照群で47%、作文をした群で67%。
ちいさくないひらきです。
白人の生徒では、大学へ進んだわりあいが対照群で86%、作文をした群で80%。差は出ていません。
そこは、動きません。
紙に書いた人みんなに効いた、という話ではないんですよね。
2年後には、入るクラスそのものが変わっていた
おなじ2017年の報告の、別の学区です。185人で、ラテン系の生徒が81人、白人の生徒が104人。
ラテン系の生徒で、補習クラスに入るわりあいは、対照群で73%。作文をした群で38%です。
大学進学の準備になる選択科目をとったわりあいは、対照群で8%、作文をした群で44%。
2年後に地区の普通高校にいたわりあいは、対照群で50%、作文をした群で89%。
1.8ばいです。
白人の生徒では、補習クラスでも普通高校でも、差は出ていません。
白人は、動きません。
点数だけの話ではないです。入る場所のほうが、先に変わっていました。
この学区の実験を報告した2013年の元論文でも、成績が上がったのはラテン系の生徒だけでした。その効果は3年つづきました。
これは、別の実験ではないです。同じ学区の、同じ生徒たちの話です。
効くには、3つがそろっている必要がある
では、いつ効くのか。
2019年の総説とメタ分析が、条件を3つに整理しています。
脅かされていること。変わるための手立てが、手元にあること。そのふたつに対して、時期が合っていること。
3つとも、場面の話です。
脅威だけでも、手立てだけでも、時期が合っていれば効き目は大きくなりました。ふたつ重なると、さらに大きくなります。
58件のメタ分析も、おなじところを指しています。効き目が大きかったのは、特別なイベントではなく、ふつうの授業の課題として作文を出したときでした。
2018年に出た920人の報告では、学力差の広がりが、高校へ上がるときに半分に抑えられています。学区ぜんぶへ最初に広げたときの生徒を、高校まで追ったものです。
効き目は、学校のようすと、生徒の取り組み方で変わりました。
ただし、同じ学区で同じ手順をやり直した2017年の追試では、効き目が出ていません。あったとしても効果量0.10より小さい、というところまで絞れています。
920人の追跡と、この追試は、別の生徒たちです。
介入を学区ぜんぶに広げると、結果がそろわなくなります。
効き目は、もろいです。
日本の103人でも、効いたのは片側だけだった
日本でも、実験があります。
2021年、日本人の大学生103人。
少ない人数です。
健康のリスクを伝えるメッセージの前に、自分の価値を書いてもらった実験です。
ふだんの運動量は、スマホのアプリで測っています。
運動量の少ない人では、書いた群のほうが「運動を増やそう」という意図が強くなりました。
運動量の多い人では、効き目が出ていません。
多い側は、動きません。
運動量の少ない人は、そのメッセージに脅かされている側です。
健康メッセージだけに絞った、別の2015年のメタ分析(16件)も、平均は小さいままです。意図の効果量が d+ = .26、行動の効果量が d+ = .27。
どちらも、小さいプラスです。
ただし、意図が大きく動いた研究ほど行動も大きく動く、という関係はありませんでした。β = .03 です。
日本の実験とおなじ2021年に出た、実験3件の報告でも、効いたのは「病気を防ぎたい」という構えが強い人だけでした。d = .20。
その構えが強い人は、危険を伝えるメッセージを自分ごととして受け取りやすい側です。論文が言うのは、そこまでです。
効いたのは、いつも片側でした。
今日の話をまとめると
アファメーションの科学的根拠は、「ある・ない」の形では出てきません。
割れているのは、相手のほうです。
58件を集めると、脅かされている生徒で g = .15、脅かされていない生徒で g = .01。平均で見ると——消えます。
北東部の学区のアフリカ系アメリカ人の生徒では、7〜9年後に大学へ進んだわりあいが、対照群78%に対して92%。
別の学区のラテン系の生徒では、2年後に補習クラスへ入るわりあいが、対照群73%に対して38%でした。
日本の103人でも、効いたのは運動量の少ない側だけです。
効き目を決めているのは、うまく書けたかどうかではなく、書いたときの場面のほう。
だから、調子のいい日に書いても、何も変わらないまま終わります。
場面のほうが、先です。
今夜、3分だけ使ってください。あした緊張する予定をひとつ選んで、その直前に、大事にしている価値をひとつ書くと決める。
瞑想にも、同じ問い方ができます。科学的根拠は、瞑想に科学的根拠はあるのかにあります。
誰が書いているのかは、プロフィールにまとめてあります。





