直観と直感の違い|哲学の語と日常の語、そして直感が当たる2つの条件

直観と直感の違い|哲学の語と日常の語、そして直感が当たる2つの条件

直感の針は、結果を見ながら積み上げた経験の層の上でしか、正しい向きを指さない。
直感の針は、結果を見ながら積み上げた経験の層の上でしか、正しい向きを指さない。

直感で決めて、外れた。

逆に、考え抜いて決めたあとで「はじめの勘のほうが合っていた」と思った。

文を書いていて、「直観」と「直感」のどちらを打つかで、指が止まった。

僕は、三つとも身に覚えがあります。

先に結論を書きます。直観は、推理を使わずに、ものをじかにつかむ哲学の語。直感は、感覚でものごとをとらえる日常の語です

そして、直感が当たるかどうかは、その人がその分野で、結果を見ながら経験を積んできたかで決まります。センスの話ではないんですよね。

順番に書きます。

辞書の上では、直観と直感は別の語

デジタル大辞泉では、二つは別の項目です。

直観(哲学の語)推理を用いず対象を直接とらえるその認識能力も指す。直覚ともいう日常の「勘」は本来の直観ではない直感(日常の語)推理・考察によらず感覚でとらえる類語は勘・第六感・ひらめき・予感ふだん「当たった」と言うのはこちら直観(哲学の語)推理を用いず対象を直接とらえるその認識能力も指す。直覚ともいう日常の「勘」は本来の直観ではない直感(日常の語)推理・考察によらず感覚でとらえる類語は勘・第六感・ひらめき・予感ふだん「当たった」と言うのはこちら
辞書の線引き。直観は哲学の語、直感は感覚の語。ふだん「当たった」と言うのは右の側。

直観は「哲学で、推理を用いず、直接に対象をとらえること。また、その認識能力」。直覚ともいう、とあります。

直感は「推理・考察などによるのでなく、感覚によって物事をとらえること」。

似ています。違うのは、どこでつかむかです。

直観は、哲学のことばです。考えをはさまずに、ものそのものをじかにつかむ。

直感は、感覚のことばです。頭で運ぶのではなく、感覚のほうでつかむ。

類語の欄には、勘、第六感、ひらめき、予感、と並んでいます。

ブリタニカの事典は、もっとはっきり線を引いています。

日常で使われる「直観」は、勘と同じ意味の予感であって、憶測か、無意識的な推論にすぎない。本来の直観とはいえない、と。

ふだん「ちょっかんが当たった」と言っているのは、辞書の上では直感のほうです。

ここから先は、直感の話です。

二つの語が生まれた順番

日本国語大辞典によると、直観は Anschauung や intuition の訳語です。ドイツ哲学から広まりました。

1881『哲学字彙』は「直覚力」1897「直観」の用例(高山樗牛)1903「直感」の初出(独歩)いま直観=哲学、直感=感覚1881『哲学字彙』は「直覚力」1897「直観」の用例(高山樗牛)1903「直感」の初出(独歩)いま直観=哲学、直感=感覚
辞書の用例でたどれる順番。哲学の語が先に立ち、感覚の語はそのあとに出てきた。

1881年の『哲学字彙』では、intuition に「直覚力」が当てられていました。まだ「直観」ではありません。

「直観」そのものの用例は、1897年までさかのぼれます。高山樗牛が、詩人や小説家は直観を旨とする、と書いています。

いっぽうの直感は、初出の例が1903年です。国木田独歩の『悪魔』に「直感せよ」とあります。辞書の用例では、そこに「チョクカン」とふりがながふってあります。

哲学の語のほうが、先にありました。1897年の直観と、1903年の直感。用例でたどれる順番は、この向きです。

ただ、辞書を引いても、知りたいことは残ります。

直感は、現場でどう使われているのか。そして、どこでなら信じていいのか?

火事の現場で、直感はどう使われていたか

消防の指揮官を調べた研究があります。1985年の聞き取りです。結果は翌1986年に学会で発表され、原調査そのものが誌面に出たのは2010年です。

80%超状況を典型例と見て、そのまま動いた156の決定場面のうち12%未満いくつかの案を比べたあとがあった指揮官26人・平均23年出典: Klein et al. 1985年の聞き取り(1986年に発表・2010年に全文)。測ったのは決め方で、当否ではない80%超状況を典型例と見て、そのまま動いた156の決定場面のうち12%未満いくつかの案を比べたあとがあった指揮官26人・平均23年出典: Klein et al.1985年の聞き取り(1986年に発表・2010年に全文)。測ったのは決め方で、当否ではない
156の決定場面。指揮官は比べていない。状況を「あの型だ」と見て、そのまま動いていた。

経験の長い指揮官26人。平均で23年。決める場面を156件、ひとつずつ聞き取っています。

結果は、こうでした。

いくつかの案を並べて比べたあとがあったのは、12%未満。

80%を超える場面で、指揮官は目の前の火事を「よくあるあの型だ」と見て取り、その型に合う動きをそのまま選んでいました。

比べていない。計算もしていない——見て、動いている。

研究者は、これを認識主導の決定と名づけました。

測られたのは、決め方のほうです。当たったかどうかは、この研究では測っていません。

それでも、中身は勘ではないんですよね。23年分の火事が、目の前の火事はどの型かを、指揮官に一瞬で教えているのです。

カーネマンも2003年に、直感の思考は「おおむね熟練していて成功している」という見方と、バイアスの研究は両立する、と書きました。

直感は、外れる話ばかりではないのです。

直感の中身は、積んできた経験のほう

では、その「見て取る」は、どこから出てくるのか?

表に出るもの「あの型だ」と、一瞬で分かるその下にあるもの型として残った、過去の現場いちばん下結果を見ながら積んだ、23年積んでいない場では、この層が無い。だから、当たる気がするだけになる
直感の断面。表に出るのは一瞬でも、その下に積まれているのは年数のほうです。

1997年の実験があります。どの選び方が得かを知らせないまま、ギャンブルの課題を選ばせました。

参加した人は、得な理由を言えるようになる前から、得なほうを選び始めていました。

わけを言えるより先に、選び方のほうが変わっている。

言えるのは、あとです。

直感は、結果を見ながら積んだ経験が、体の側に残ったもの

だから、経験を積んだ場では当たり、積んでいない場では当たりません。積んでいないところでは、当たる気がするだけです。

当たる直感には、条件が2つある

消防の指揮官を調べたクラインと、バイアスを研究してきたカーネマンが、2009年に共著の論文を出しています。

直感が育つ。火事の指揮官型はあるが、学べていない型が無い。学びようがない当たる気がするだけになる結果を見て学ぶ機会があった学ぶ機会がなかった規則性あり規則性なし
直感が育つのは左上だけ。右下では、当たる気がしても目安にならない。

ふたりの答えはこうです。直感で決めたものの質を見るには、2つの条件がいります。

ひとつ。決めようとしている相手の側に、先の読める規則性があるか。

もうひとつ。その人に、その規則性を学ぶ機会があったか。

火事の現場だと、こうです。指揮官が「あの型だ」と見て取れたのは、火事に型があったから。そして23年、結果を見ながら学んでいました。

ふたりは、もうひとつ書いています。

「当たる気がする」という本人の手ごたえは、当たるかどうかの目安にならない

裏づける数字があります。

人の健康や行動の先行きを、臨床家の判断と、統計の式とで当てさせて比べたメタ分析です。2000年に出ています。

式のほうが、平均で約10%、よく当たっていました。

多くの研究では、臨床家の判断も式と同じくらい当たっています。ただ、大きく上回ることは、ほとんどありませんでした。

式が大きく勝ったのは33〜47%の研究で、臨床家が大きく勝ったのは6〜16%だけ。

判断する人の経験が長くても、差は縮まっていません。年数では、埋まらなかったのです。

年数は、条件ではないんですよね。条件は、規則性と、それを学ぶ機会のほうでした。

今日の話をまとめると

直観は、推理を使わず、ものをじかにつかむ哲学の語。直感は、感覚でものごとをとらえる日常の語です。

当たる気がする、で決める確信の強さは、精度の目安にならない書き出して、あとで見る規則性を学ぶ機会を、自分で作る当たる気がする、で決める確信の強さは、精度の目安にならない書き出して、あとで見る規則性を学ぶ機会を、自分で作る
この記事の着地。確信で決めるのではなく、書き出して、結果と突き合わせる。

僕らが「当たった」「外れた」と言っているのは、直感のほうです。

火事の現場では、80%を超える場面で使われていました。

条件は2つ。その場に規則性があること。結果を見ながら学ぶ機会があったこと。

当たる気がするという手ごたえは、目安になりません。

23年の指揮官は、比べずに型で決めていました。経験の長い臨床家は、式を上回れませんでした。差は年数ではなく、結果を見て学べたかどうかです。

分かれるのは、そこです。

今夜、3分だけ使ってください。明日ひとつだけ、直感で決めることを、いまのうちに書き出しておく。決めた瞬間にどう思ったかを、その一行の下に足すだけです。

それだけです。結果が出たら、その横に当たりか外れかを書き足す。規則性を学ぶ機会が、自分の手元にたまっていきます。

直感が出てくる側の心については、潜在意識と無意識の違いに書きました。決める前に体の側で起きていることは、潜在意識とお金にあります。

この書き方をしているわけは、プロフィールに書いてあります。

出典・参考文献

  1. 小学館. デジタル大辞泉「直観」/精選版 日本国語大辞典「直観」/ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「直観」. コトバンク.
  2. 小学館. デジタル大辞泉「直感」/精選版 日本国語大辞典「直感」. コトバンク.
  3. Klein GA, Calderwood R, Clinton-Cirocco A. Rapid Decision Making on the Fire Ground. Proceedings of the Human Factors and Ergonomics Society Annual Meeting 1986;30(6):576-580.
  4. Klein G, Calderwood R, Clinton-Cirocco A. Rapid Decision Making on the Fire Ground: The Original Study Plus a Postscript. Journal of Cognitive Engineering and Decision Making 2010;4(3):186-209.(1985年の原調査の編集版。要約は1986年に発表)
  5. Kahneman D. A perspective on judgment and choice: mapping bounded rationality. American Psychologist 2003;58(9):697-720.
  6. Bechara A, Damasio H, Tranel D, Damasio AR. Deciding advantageously before knowing the advantageous strategy. Science 1997;275(5304):1293-1295.
  7. Kahneman D, Klein G. Conditions for intuitive expertise: a failure to disagree. American Psychologist 2009;64(6):515-526.
  8. Grove WM, Zald DH, Lebow BS, Snitz BE, Nelson C. Clinical versus mechanical prediction: a meta-analysis. Psychological Assessment 2000;12(1):19-30.

辞書の引用は、コトバンクに収録された各辞典の項目を開いて確かめたものです。年は、辞書に載っている用例の年です。研究の数字は、論文の要旨に書かれている範囲だけを書きました。本文を開けなかった部分の言い回しは使っていません。

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