なりたい自分を紙に書いてみたけれど、三日で止まった人。
書くワークをすすめられて、ノートを開いたら、何を書けばいいのか分からなかった人。
僕は、やり方を渡されないまま「変わりたい」とだけ思っていた側でした。
先に結論を書きます。セルフイメージを書き換えるワークとして研究室で渡されていたのは、いちばん深いところの思いと気持ちを、1回15〜20分・3〜5回書くこと。それだけでした。
足すものは、ありません。
順番に書きます。
研究室で渡されていた教示文
この手順には、筆記開示(expressive writing)という名前がついています。
2005年の総説に、参加者へ渡していた文が、そのまま載っています。
訳すと、こうです。
「これから4日間、あなたの人生でいちばんつらかった出来事、または、あなたとあなたの人生に影響を与えた、とても大事な感情の問題について、いちばん深いところの思いと気持ちを書いてください。書くときは、本当に手放して、いちばん深い感情と考えを探ってください。(中略)書いたものは、すべて完全に秘密です。つづりも、文法も、文の組み立ても気にしなくていい。決まりはひとつだけ。書き始めたら、時間になるまで書き続けること」
この教示文は、4日ぶんの言い方です。
ただ、総説が手順としてまとめているのは、1回15〜20分を3〜5回のほう。多くの研究では、連続した日に書かせています。
渡されたのは、時間と、止めないという決まりだけでした。
上限は20分。題材も、評価も、こちらからは渡さない
同じ総説は、使う側への注意も並べています。
1回20分を上限にすること。重すぎる作業に見えないため、と理由も付いています。
いつでもやめていいと、先に伝えること。
書く題材を、こちらが指定しないこと。選ぶのは本人です。
構造を押しつけないこと。感想を返さないこと。治療の代わりにしないこと。
日本語の論文は、近い手続きを書いています。3〜5日連続で、1日20〜30分。
ただし、この20〜30分は、総説の上限20分より長いほうです。同じ数字では、ありません。
書いた直後は、気分が悪くなる。これも同じ総説に、ふつうのことだと書かれています。
効かなかった合図では、ありません。
書き換えそのものの中身は、セルフイメージの書き換え方に書きました。
気分が上がる作業を、同じ紙の上でやらない
自分を励ます言葉をいちばん必要としている人ほど、気分が下がりました。2009年の実験の結果が、そう出ています。ここはアファメーションは効果ないのかに書きました。
混ぜてはいけないものが、もうひとつあります。
1982年に、成績を心配している大学1年生40人を集めた実験があります。選ぶ条件は4つ。そのひとつが、前の学期の成績(GPA)が3.50以下でした。
この実験は、2つの操作を掛け合わせています。
ひとつめは、他人のデータを1回だけ見せるかどうかです。上級生への調査結果と、その人が話しているビデオでした。
67%が、1年目の成績は思っていたより低かったと答えている。62%が、上級生になって上がったと答えている。そういう中身でした。
ふたつめは、成績が上がる理由を書き出させるかどうかです。
掛け合わせて、4つの組。1組10人ずつでした。
つまり、理由を書き出した20人のうち10人は、データも見ています。並んだ別の群では、ありません。
データを見せた側では、行動が動きました。
2年生の後期までに大学を離れたのは、見せなかった側が20人のうち5人。見せた側が20人のうち1人です。
ただし、この差は5%の線に届いていません。母数が小さいので、実数で読むところです。
1年後の成績の動きは、見せた側が+0.34、見せなかった側が−0.05。GREの読解問題6問の正答は、見せた側が4.18問、見せなかった側が3.50問でした。
では、理由を書き出させた側は、どうだったか。
上がったのは——1週目の気分だけでした。
退学に、効果はなし。成績の伸びにも、効果はなし。論文に、そう書かれています。
しかも、自己報告の気分・期待・態度は、行動の結果とひとつも相関しませんでした。
気分が上がったかどうかは、結果が動いたかどうかの目印になりません。だから、書いたものに感想を返さない。
なりたい自分の像だけを描いても、そこは動かない
2006年に、アメリカの8年生へ11回のセッションを、週2回・7週間でやった研究があります。日本でいう中学2年です。
割り付けは、受けた側が141人、受けなかった側が123人です。
将来までの線を引かせて、その上に分かれ道と、つまずきも描かせています。
伝えたのは、こうです。困難は、どの人にもある。つまずいても、なりたい自分が本当の自分ではないことには、ならない。
別の回では、その自分に届く方策を、自分の言葉にする練習をさせています。
ここから先の数字は、11回のうち5回以上出た116人と、それに見合う対照の112人を比べたものです。生の平均ではなく、前の成績などをそろえた推定値です。
9年生、日本でいう中学3年の終わりの成績(GPA)は、受けた側が1.64、受けなかった側が1.36。
9年生の各学期、受けた側は平均で2.25日多く登校しています。
うつの尺度(20項目・0〜60点。16点以上が臨床の目安)は、受けた側が10.35、受けなかった側が12.29でした。
像だけでは、足りません。像が動いたのは、方策と結ばれたときでした。
ただ、これは11回で組まれた別のプログラムです。20分の紙の上に混ぜるものでは、ありません。
始まらない人がいる。だから題材は、こちらで決めない
手順を渡せば始まる、とはいきません。
2020年に、日本の大学生332人へ調べた研究があります。首都圏の4校、平均19.96歳です。
自分の事実に向き合うことで傷つきやすい人ほど、このワークをやる気になっていませんでした。
差は、小さいほうです。効果量は0.25。論文には、小から中くらい、とあります。
やる気は、0から100で答えてもらっています。いまのストレスについて書いてみたいかの平均が44.23。うつ状態を想定したときが50.67でした。
ただし、幅がとても広い数字です。ばらつきは、29.06と25.51。
考察には、こうあります。取り組みやすい教示とは、ストレスに直面化することによる心理的負荷が生じにくい教示である、と。
だから、題材はこちらで決めない。
いつでもやめていいと、先に言う。
今日の話をまとめると
セルフイメージを書き換えるワークは、道具がほとんどありません。
15〜20分を3〜5回。いちばん深いところの思いと気持ち。決まりは、時間まで止めないことだけです。
渡すのは、時間だけです。題材も、書き方の見本も、感想も、こちらからは渡しません。
今夜、3分だけ使ってください。これから3回ぶん、書き始める時刻を決めます。
20分のタイマーをかけられる時刻を、3つ選んでください。
何を書くかは、決めません。題材を先に決めた時点で、指定する側が自分になります。
書き手のことは、プロフィールに置いてあります。





