セルフイメージと自己肯定感の違い|3つの言葉と、当てられている物差し

セルフイメージと自己肯定感の違い|3つの言葉と、当てられている物差し

1994年に日本の文献に現れた言葉に、1965年にアメリカで作られた物差しが当たっている。
1994年に日本の文献に現れた言葉に、1965年にアメリカで作られた物差しが当たっている。

「自己肯定感が低い」と言われて、そうかもしれない、と思った人。

セルフイメージの本と自己肯定感の本を買って、どこがちがうのか分からなくなった人。

僕は、両方です。

先に結論を書きます。セルフイメージ・自己肯定感・自尊心は、意味の濃さがちがうのではなく、生まれた場所がちがいます。

生まれた場所がちがうので、ひとつの物差しでは測れません。

ところが「日本人は自己肯定感が低い」と言うときの物差しは、たどると英語圏のものでした。

順番に書きます。

セルフイメージと自己肯定感は、どこが別か

3つを、先に並べます。

セルフイメージ(自己概念)自分がどんな人間かについての考え自己肯定感存在をまるごと肯定する感覚自尊心(セルフ・エスティーム)能力や特性を背景に置いた評価出どころは順に、1960年のアメリカの本/1994年の日本の文献/英語圏。
3つの言葉の中身。指しているものが、それぞれちがう。

セルフイメージは、自分がどんな人間かについていだいている考えのことです。国語辞典の大辞泉に「セルフイメージ」の見出しはなく、かわりに「自己概念」があります。

広めたのは、1960年にアメリカで出た本です。マクスウェル・マルツという美容外科医が書きました。中身はセルフイメージとはに書いています。

自己肯定感は、ダメなところも弱いところもふくめて、自分がいることはいいことだと、まるごと肯定する感覚です。出てきたのは、1994年の日本の文献でした。Weblio でも引けますが、出てくるのは実用日本語表現辞典で、大辞泉には見出しがありません。

自尊心は、能力や特性を背景に置いた評価のことです。英語のセルフ・エスティームにあたる言葉で、こちらは大辞泉に見出しがあります。

自分をどう見ているかがセルフイメージ。存在をまるごと肯定するのが自己肯定感。能力を測るのが自尊心。

ここが、わかれ目です。

「自己肯定感」は、1994年の日本の文献にはじめて現れた

2025年に、この言葉の出どころをたどった論文が出ています。

1960アメリカの本が「セルフイメージ」を広める1965アメリカで自尊心の尺度が発表される。10項目(採点法は後年に4件法へ)1991高垣忠一郎が、まだ「自己信頼感」と書いている1994表題に「自己肯定感」がはじめて現れる。雑誌『教育』1960アメリカの本が「セルフイメージ」を広める1965アメリカで自尊心の尺度が発表される。10項目(採点法は後年に4件法へ)1991高垣忠一郎が、まだ「自己信頼感」と書いている1994表題に「自己肯定感」がはじめて現れる。雑誌『教育』
言葉が出てきた順番。測るための物差しのほうが、29年先にできている。

CiNii Research・J-STAGE・国立国会図書館リサーチで、表題に「自己肯定感」を入れた文献をさがした範囲では、いちばん古いものが1994年。高垣忠一郎という人が、雑誌『教育』に書いたものです。

1990年代の文献は、9件だけでした。書いた人は、あわせて7名。

自己肯定感は、外から訳して入ってきた言葉ではありません。

もとになった外国語が、ありません。

高垣忠一郎が1991年に出した本では、まだ「自己信頼感」でした。さしているのは、どちらも「自分が自分であって大丈夫」という感覚です。

3年で、呼び名だけが変わりました。

まだ、あたらしい言葉です。

できてから30年ほどしか、たっていません。

高垣忠一郎は、自尊心と分けている

同じ論文が引いている2004年の本では、こう説明されています。自尊心の背景には、その人の能力や特性がある。いっぽう自己肯定感は、存在のレベルの話だ、と。

セルフ・エスティーム(自尊心)背景に、個人の能力や特性を置く自分自身がもつ能力や特性の価値を評価するもの自己肯定感ダメなところも弱いところも含めて肯定する存在のレベルの話だと説明されている優越性を見せつける型は「競争的自己肯定感」として切り離されるセルフ・エスティーム(自尊心)背景に、個人の能力や特性を置く自分自身がもつ能力や特性の価値を評価するもの自己肯定感ダメなところも弱いところも含めて肯定する存在のレベルの話だと説明されている優越性を見せつける型は「競争的自己肯定感」として切り離される
2004年の本での分け方。片方は能力を背景に置き、片方は存在のレベルで肯定する。

高垣忠一郎は、人よりすぐれたところを見せつけるものを「競争的自己肯定感」と名づけて、そこから切りはなしています。

同じ本から、こうも引かれています。自己のとらえ方は文化でちがうので、諸外国の子どもと日本の子どもを単純には比べられない、と。

比べ方そのものが、そこで退けられている。

……ここが、いちばん妙なところです。

政府の言う自己肯定感は、6つの質問のこと

政府がこの言葉に正面から触れたのは、2017年です。

2017年教育再生実行会議が、二つの側面から捉えると書く定義これまでもいろいろな捉え方が示されてきた、として一つに決めない分析自己肯定感に関する項目として、6つの質問を使う2017年教育再生実行会議が、二つの側面から捉えると書く定義これまでもいろいろな捉え方が示されてきた、として一つに決めない分析自己肯定感に関する項目として、6つの質問を使う
定義は一つに決めないまま、分析のほうは6問で走っている。

教育再生実行会議の第十次提言が、15頁でこう書いています。とらえ方はいろいろ示されてきた。そのひとつとして、二つの側面からとらえることが考えられる、と。

ひとつは、まわりからの評価で育まれるもの。もうひとつは、短所もふくめた自分らしさを受け止めることで身につくもの。

提言は、どちらかひとつには決めていません。

ところが、測るほうは決まっていました。

同じ提言の参考資料に、文部科学省のタスクフォースの分析がついています。使ったのは、6つの質問。

自分には、よいところがある。人並みの能力がある。今の自分が好きだ。自分自身に満足(不満)。自分自身に満足している。ダメな人間だと思うことがある。

ならべてみると、似たものが2つあります。

「満足」が2回出てくるのは、写しまちがいではありません。この6つは、べつべつの調査から、よせ集めたものです。原文のまま、写しました。

政府の言う自己肯定感とは、この6問への答えのことです。

定義は決めないまま、測るところだけが6問になっている。

提言が示したとらえ方と、政府が測っているもの——そこが、ずれています。

その6項目のうち4つは、1965年の英語の尺度と重なる

6問に、見おぼえがあります。

政府が分析に使った6項目(うち4つ)自分には、よいところがある人並みの能力がある自分自身に満足しているダメな人間だと思うことがある1965年の自尊心尺度の項目文自分にはいくつも良いところがあると感じるたいていの人と同じくらい物事をこなせる全体として、自分に満足している時々、自分はまったくだめだと思う政府が分析に使った6項目(うち4つ)自分には、よいところがある人並みの能力がある自分自身に満足しているダメな人間だと思うことがある1965年の自尊心尺度の項目文自分にはいくつも良いところがあると感じるたいていの人と同じくらい物事をこなせる全体として、自分に満足している時々、自分はまったくだめだと思う
上から順に対応している。ただし政府の文書に「この尺度を使った」とは書かれていない。

1965年に、アメリカの社会学者モリス・ローゼンバーグが『Society and the Adolescent Self-Image』を出しています。そこで発表された自尊心の尺度は、10項目。設計はガットマン尺度でしたが、いまは4件法・0点から30点で採点するのがふつうです。

最初の標本は、ニューヨーク州で無作為にえらばれた高校10校の生徒5,024人でした。

この尺度のほうが、日本語の「自己肯定感」より29年も古いのです。

項目文を開くと、こうです。

「全体として、自分に満足している」。「時々、自分はまったくだめだと思う」。「自分にはいくつも良いところがあると感じる」。「たいていの人と同じくらい物事をこなせる」。

ほとんど、おなじことを聞いています。

政府の6項目のうち、4つが、ここにあります。

そのまま、かさなります。

ただし、政府の文書に「この尺度を使った」とは書かれていません。さがしても、見つかりません。重なっているのは、項目文までです。

それでも、和製の言葉に、英語の物差しと同じ文が当たっていることにはなります。

測り方を変えると、差は出なかった

日本の若者は、その6問で低く出ます。

諸外国6か国7割を超えた日本5割弱出典: 竹内健太「子供たちの自己肯定感を育む」立法と調査 2017.9No.392 の脚注1(内閣府・平成25年度)
「自分自身に満足している」に、そう思うと答えた割合。質問紙で聞くと、日本だけ低く出る。

2017年の提言がよりどころにしたのは、内閣府の平成25年度の調査でした。数字は、参議院の調査室の資料にのっています。

設問は「自分自身に満足している」かどうか。

韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンは、どこも7割を超えています。日本は、5割弱でした。

ただし、この数字は参議院の資料からの孫引きです。内閣府の原本は、たどれません。

新しい令和5年度の調査でも、日本は57.4%でいちばん低いままです(セルフイメージの書き換え方)。

ならびは、変わっていません。

同じ脚注に、続きがあります。

本人も気づかない態度を調べる潜在連合テストでは、日本の大学生の自尊感情は、アメリカや中国の大学生と遜色がなかった。そういう研究がある、と。

質問紙では、低い。

気づかないところを測ると、差は出ない。

だから調査室も、本当に低いのかは今後の検討が必要だ、と書いています。

ただし、潜在連合テストそのものの予測力は強くありません。そこは無意識とはに書きました。

質問紙も潜在連合テストも、決め手にはなりません。

はっきりしているのは、測り方を変えると答えが変わることです。

そこだけは、たしかです。

今日の話をまとめると

セルフイメージは考え、自己肯定感は感覚、自尊心は評価です。

29年物差しのほうが古い1965年の尺度と、1994年の言葉6問政府が分析に使った項目うち4つが尺度の項目文と重なる差なし潜在連合テストの結果日本・アメリカ・中国の大学生出典: 吉森2025・第十次提言・立法と調査201729年物差しのほうが古い1965年の尺度と、1994年の言葉6問政府が分析に使った項目うち4つが尺度の項目文と重なる差なし潜在連合テストの結果日本・アメリカ・中国の大学生出典: 吉森2025・第十次提言・立法と調査2017
この記事の着地。「自己肯定感が低い」は、まず測り方の話として読む。

生まれた場所は、順に1960年のアメリカ、1994年の日本、そして英語圏でした。

ところが政府が当てているのは、6つの質問です。そのうち4つは、1965年の英語の尺度と同じことを聞いています。

ずれは、29年です。

あとから来た言葉に、先にあった物差しが当たっています。

今夜、3分だけ使ってください。自分が「自己肯定感が低い」と思う場面を、ひとつだけ書き出す。それが能力を聞かれている場面か、存在を聞かれている場面か、どちらかに印をつける。

能力のほうなら、それは自尊心の話です。

存在のほうなら、それは自己肯定感の話です。

低いのは、あなたではなく、当てている物差しのほうかもしれません。

この書き方をしている理由は、プロフィールに置いてあります。

出典・参考文献

  1. 吉森丹衣子. 自己肯定感研究の概観. 法政大学大学院紀要 2025;94:91-99.(高垣忠一郎 1991・1994・2004 の引用は、この論文を経由)
  2. 小学館 デジタル大辞泉「自己概念」「自尊心」/実用日本語表現辞典「自己肯定感」. Weblio辞書経由で閲覧 2026-09-04.
  3. Maltz M. Psycho-Cybernetics: A New Way to Get More Living Out of Life. Prentice-Hall, 1960(Pocket Books版・Preface, ix, xiii–xiv).
  4. 教育再生実行会議. 自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上(第十次提言). 平成29年6月1日, 15頁・参考資料46頁(6項目)・47頁(高校生の生活と意識に関する調査)・48頁(我が国と諸外国の若者の意識に関する調査).
  5. Rosenberg M. Society and the Adolescent Self-Image. Princeton University Press, 1965.(尺度の仕様は University of Maryland 社会学部の公式ページ・Wayback Machine 2019年保存版で確認。原型はガットマン尺度、現在は4件法での採点が一般的)
  6. Rosenberg 自尊心尺度の全10項目(本文に全項目を掲載しているオープンアクセス論文 PMC13274625 より確認).
  7. 竹内健太. 子供たちの自己肯定感を育む ― 教育再生実行会議第十次提言を受けて ―. 立法と調査 2017;392:65-72.(内閣府「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」の数字と、潜在連合テストの研究は、この脚注1からの引用)
  8. こども家庭庁 長官官房参事官(総合政策担当). 我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度). 2024年6月. 第2部第1章 人生観関係.
  9. Yamaguchi S, Greenwald AG, Banaji MR, et al. Apparent universality of positive implicit self-esteem. Psychological Science 2007;18(6):498-500.
  10. Oswald FL, Mitchell G, Blanton H, Jaccard J, Tetlock PE. Predicting ethnic and racial discrimination: a meta-analysis of IAT criterion studies. Journal of Personality and Social Psychology 2013;105(2):171-192.

日本語の一次資料と、英語の原典の両方を開いて突き合わせています。ただし高垣忠一郎の著書そのものは現物を開いておらず、引用はすべて吉森(2025)を経由しています。内閣府の平成25年度の原本は現在たどれないため、その数字は参議院『立法と調査』の脚注からの引用です。Rosenberg の1965年の原書本文も未読で、尺度の仕様と項目文は別の資料で確かめました。原型のガットマン尺度と、いま普通に使われる4件法の採点は別物です。政府がこの尺度を採用したという記述は、政府の文書の側には見つかっていません。潜在連合テストは、それ自体の予測力に批判があります。

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